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第92話 千尋峡谷再び

 リバルド学園の歓迎セレモニーにて、俺の対戦相手になった伝説のS級冒険者モモ。

 一戦交えたら話しがあるって事で、どこかに転移した。そこにミーシャもついてくる。




「こ、ここは、千尋峡谷?」

 天まで続く高い崖。

 それが二対、並行に走っている。

 そして大気中の魔素も濃い。

 間違いなく千尋峡谷だ。


 だけど周りに廃墟の街並みはない。

 ドラゴンどもの棲家から、大分離れた場所だ。

 遥か彼方に、その街並みが見える。

 その逆方向に、あのホームという建物も、何とか確認出来る。


「ほう、ここがどこだか分かるとは、やはりおまえもドラゴンだな。」

 モモは俺から距離を取るように歩きだす。

「そして、獅子の穴の脱走者!」

 モモは振り返りながらドラゴンに戻り、背中の剣に手をかける。

 人間の姿の時は日本刀みたいだった剣も、ドラゴンに戻った今はそれっぽいスタイリッシュな剣に変化している。


「く、」

 俺も素早くドラゴンに戻る。


「はあ!」

 モモは気合いを込め、剣を振り下ろす!

 その剣撃から、虎の幻影が飛び出す!


「う、」

 かわそうと思ったが、俺の後ろにはミーシャがいる。それも、まだ人間の姿のままだ。

 俺は虎の幻影を右手で受けると同時に、転移魔法の応用で、といきたかったが、この虎の幻影は大きすぎた。

 完全に転移させる事は出来ず、ちょっと軌道を逸らしただけだった。


「ミーシャ、早く戻れよ!」

「う、うん。」

 俺の言葉を受け、ミーシャもようやくドラゴンに戻る。

 そんな俺たちの前で、モモがもう一度剣を振りかぶる。


「くそ、」

 俺は左に周りこみながら、モモとの距離をつめる。

 直線的に突っ込んだら、真後ろのミーシャに虎の幻影が飛ぶ。


「ふ、」

 モモはニヤけながら、右に移動する。

「な、おまえ、」

 俺がミーシャと直前上に並ばないようにしたのに、モモは再び直線上に並ばせる!


 モモは剣を振り下ろす。

 しかも、素早く2回。

 二匹の虎の幻影が飛んでくる。


 先程の虎の幻影と違い、今度は二匹いるためか、大きさは半分以下になっている。

 そう、これなら転移魔法の応用で対応出来る!


 俺は一匹目の虎の幻影を、転移魔法の応用で跳ね返す。

 二匹の虎の幻影が衝突し、大きな爆炎を巻き上げる。


 俺はその爆炎に突っ込み、奇襲をかけようとするが、ハッと思い止まる。

 そのまま転移魔法でミーシャの元に転移し、ミーシャをつかんで上空に飛ぶ。

 直後、巨大な虎の幻影が、俺たちの居た場所に突っ込んできた。


 そう、二匹の虎の衝突でおきた煙幕は、モモにとっては想定内。

 その性質を知ればこそ、追撃に応用できる。


「ほう、一瞬でそこまで移動したのか。」

 上空の俺たちをみあげながら、モモは再び剣を振りかぶる。


「く、」

 俺はミーシャを離して転移魔法を使う。

「こっちだ!」

 俺はモモの左前方に転移する。

 モモは俺の方に視線を向けるが、ニヤけながら上空に目を向ける。

 その視線の先には、俺が離した事で墜落する、ミーシャの姿があった。


「モモ、てめえ!」

 俺は転移魔法で一気に距離をつめる。

 モモの狙いは、俺じゃなくて、上空のミーシャ!

 俺のタックルより一瞬早く、モモの剣撃から虎の幻影が放たれる!


「ミーシャ!」

 虎の幻影は墜落するミーシャを襲う。

 バサ。

 ミーシャは翼をはためかせ、空中に停止する。

 虎の幻影は、ミーシャの足元をかすめ飛ぶ。


「甘く見られたものね。私だって飛べるのよ。」

 ミーシャはゆっくりと舞い降りる。

 俺は安堵すると同時に、モモをにらむ。


「おい、ミーシャは関係ないだろ。」

「それが、あるんだな。」

 俺から距離を取ったモモは、剣を背中の鞘に収める。

「何?おまえが用があるのは、この俺だろ。」

「ああ、そうだったな。だがおまえは、何でそいつを庇ったんだ?」

「はあ?」

 モモはミーシャを指差す。

 俺も当たり前の事を改めて聞かれたので、返答に困る。

「み、ミーシャは部外者だろ。モモこそ、なんで巻き込むんだよ。」

「ふ、そいつは自ら進んで巻き込まれたんだ。部外者ではないだろ。」

「な、なにぃ?」

 モモの暴論に、言葉も出ない。


「ま、何はともあれ、そいつを庇ったんだ。充分素質はあるんだな。」

 モモはひとりで、何かに納得する。

「ああ、獅子の穴をなめられたって、うるっせーんだよ。」

 モモは理解が追いつかない俺に、追加で説明するが、それでもまだ、よく分からない。


「モモは、獅子の穴の追手って事だろ?」

 俺は昨日のルル姉の話しから、そう理解している。

 つまりミーシャを狙ったのも、俺の動きを阻害するため。

「そう頼まれたんだけどよ、乗り気はしねーんだよ。今の獅子の穴の有り様ときたら、ひでーもんだろ。」


「今の?昔は違ったみたいな言い方だな。」

 かつての獅子の穴を知る者として、ホームのおっさんとリバルド学園のおっさんがいる。

 そのふたりの話しぶりからも、最近酷くなったけど、以前は違ったようだ。


「ああ、俺も獅子の穴を勘違いされちゃ困るから、おまえに会いに来た。で、ほんとにナメたヤツなら、ぶっ殺すつもりだった。」

 モモのその言葉に、俺は再び身構える。

 モモは首をふる。

「おまえは今の獅子の穴には、収まらない器だ。俺は追撃から降りるぜ。けど、おまえを追撃する物好きもいるから、用心だけはしておけよ。」


 俺はホッとして、身構えを解く。

 そんな俺を見て、モモは再び剣を抜く。

 その剣先をミーシャに向ける。



「おまえ、ミシェリアだろ。」

ども(・ω・)ノ

ここ数話、当たり前に登場する、転移魔法の応用。

主人公は手にした物体を、手の届く範囲内に転移させる事が出来ます。

これは転移魔法を使う際、身体を魔素でコーティングするのですが、そのコーティングした魔素の範囲内なら、自由に物体を移動させる事が出来る事に、由来します。

この移動させた物体のベクトルを変える事で、跳ね返す事も可能になります。

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