第84話 伝説のS級冒険者
ギルドで振る舞われた料理。
この代金は口座連結させたギルドカードから、直接引かれてる。
ナナちゃんスペシャルは二千五百クレカ。
テルアさんのディナーランチは四百九十クレカ。
そしてルル姉の卵かけご飯は九十九クレカだった。
俺の味覚がおかしいって話しをしてる横で、ギルドにひとりの来訪者があった。
気合いの入った学ラン風の装束。
ひたいにはちまきをしめて、熱血系主人公をおとなしくさせた様なイケメン。
背中に日本刀らしき剣を背負っていた。
そいつは俺たちに目もくれず、真っ直ぐ受け付けに向かう。
「ちょっといいかな。人を探してるんだけど、」
「あ、はい、まずは身分を証明していただかないと。」
「おっと、これは失礼。」
男はスッとギルドカードを差し出す。
「こ、これは永久不滅カード?」
受け付けのお姉さんは、びっくりする。
「永久不滅カード?という事は、彼がカタナヒャクタロウ。」
受け付けのお姉さんの声が耳に入り、ルル姉がつぶやく。
「やっぱり生きてたのね。」
ナナさんも小声で続く。
「どういう事です?永久不滅カードって、ミー、ミシェリアしか持ってないんじゃなかったっけ?」
俺も小声で会話に加わる。
「実は、永久不滅カードを所持してて死亡が確認されてないのは、三人いるのよ。ひとりは、ミシェリア・ドラスティ・ウル・プテラ。もうひとりが、カタナヒャクタロウよ。」
「あれ、もうひとりは?」
ナナさんの説明には、もうひとり足りない。
「まあモモ様。当ギルドにどの様なご用ですか?」
受け付けのお姉さんが、イケメン相手にデレた顔つきになる。
もうひとりのお姉さんも、にこにこと近づいてくる。
モモ様?
そうか、漢字で書くと刀百太郎。
百は、モモとも読める。
「ふふ、彼は伝説のS級冒険者。その人気も高いのよ。」
ナナさんが小声で説明してくれる。
「S級って、かなり低くいですよね。」
俺は指折り数える。Sは14番目だ。
「馬鹿ね。最下級がF級。S級はA級の上よ。」
「えー、そうだったんですか。」
ナナさんの説明に、俺は驚く。
「実は、サムってヤツを探してんだ。」
そのS級冒険者の口から、俺の名前がでる。
「サムですか。ありきたりな名前ですね。」
受け付けのお姉さんは、愛想笑いを浮かべる。
「俺の古巣をバカにしたヤツでな、最近冒険者登録をしたと思うんだけど、何か心当たりはないかな?」
「えーと、データベースと照合すると、全ギルドでここ一か月の登録状況を、」
「あ、いや、ここのギルドだけでいいんだ。」
お姉さんの作業に、モモ様が口を挟む。
「このギルドで、一週間以内に登録したヤツで、調べてくれ。」
「はい、モモ様。」
お姉さんは調べだす。
「当ギルドでなら、三名おりますね。」
「ほう、三名か。で、今居る場所は?」
「えーと、活動記録のデータによれば、」
「ご、ごほん。」
受け付けでのやり取りに、ルル姉が咳払い。
「も、目的は何でしょうか。その目的がはっきりしないと、お答えできません。」
お姉さんもハッとして、本来の職務に戻る。
「目的、ね。ちょっと会ってみたいんだよな。それじゃダメかな?」
モモ様はイケメンスマイルを発現させる。
「だ、ダメと言われても、私的にはお教えしたいのもやまやまなのですが、」
お姉さんは、ちらちらとルル姉を見る。
その視線に、モモ様も気づく。
そしてイートインスペースの俺たちに近づいてくる。
俺が立ちあがろうとするも、隣りに座るナナさんが俺の手をにぎり、俺を制する。
「あなた達もギルド関係者のようですが、何か知りませんか。」
モモ様は、にこやかに話しかけてくる。
「今は勤務時間外だけど、私もギルド職員よ。あなたの目的がはっきりしないと、教えられない規則なのよ。」
ナナさんが毅然と説明する。
「でも、探し人依頼は、出せたよねー。」
「ちょ、ルル姉。」
「おお、その手がありましたね。ありがとうございます。」
ルル姉の提案に、モモ様は受け付けに戻る。
「いいの?ルル姉、あいつの探してるのって、絶対サム君でしょ。」
ナナさんは小声でルル姉を責める。
「依頼を出すからには、ちゃんとした理由を明示する必要があるでしょ。これでモモ様の目的も、はっきりするでしょ。」
ルル姉がその理由を明かす。
しかしモモ様が俺を探す理由って、何だろう。
古巣を馬鹿にしたって言ってたけれど、その古巣ってどこだ?
全く心当たりがないし、俺じゃなさそうだ。
と思ってたら、俺の手を握るナナさんの手に、力がこもる。
不安そうにうつむくナナさんの手は、かすかに震えてる。
「あはは、ただ会いたいだけでは、依頼は受けられないって断られてしまいましたよ。」
さわやかに報告してくるモモ様。
ナナさんがホッとするのが伝わってくる。
「あら、S級特権で聞き出せなかったっけ?」
ここでルル姉が、新たな手法を提示する。
「それだと、俺も悪目立ちするからな。そこまでして探しだしたいほどでもなくてな、」
モモ様はルル姉の提案を断り、俺に視線を向ける。
「ところで、君は冒険者かな?ギルド職員には見えないし。」
モモ様が俺に話しをふってくる。
ナナさんが緊張するのが伝わってくる。
「ああ、俺も冒険者だ。」
「そうか。よかったら名前を聞かせてくれないか。俺はカタナヒャクタロウ。気安くモモって呼んでくれ。」
俺の冒険者発言に、モモ様がくいつく。
「S級冒険者様を、そんな気安く呼べるかよ。俺は駆け出しのC級冒険者だぜ。」
ナナさんから名前を言うなという意思が、強く伝わってくる。
「ふ、駆け出しってのはF級冒険者を言うんだぜ。」
「そうなのか?俺は今日、冒険者登録したんだけどな。」
「何、今日だと?いきなりC級スタートか。凄いな。」
モモ様にほめられ、少し嬉しくなる。
だけどナナさんは、俺の手を握る力を強める。
いて、と口から出そうになる。
「今日という事は、俺が探してるヤツとは違うらしい。だが、おまえにも興味がでたぞ。」
「ふふ、やったねサム君。モモに気に入られるなんて、凄いじゃない。」
ここでなんと、ルル姉が俺の名前をバラしやがった。




