第68話 解体の代償
幻想旅団の動物変化たちの死体から、数多くの素材が採取され、その買取額を頂いた。
しかし、幻想旅団の討伐報酬は、まだもらってなかった。
「あら、報酬ならもう貰ってるでしょ。」
前回の俺の疑問に、ナナさんはあっけなく答える。
「えと、貰ったのは、素材の買取額だけですが?」
「サム君、本気で言ってる?」
俺は何故か、ナナさんにあきれられる。
「私の解体作業代は、買取額の1割なのよ。」
「はあ?聞いてないっすよ。」
ナナさんの後付け説明に、俺は驚く。
「私がただでやってあげてたと思ったの?むしろ1割より割り引いてあげたんだから、感謝してよね。」
ナナさんはニヤりと、右手の爪を見せる。
「いやいや、だったら自分で、」
と反論しかけて、言葉につまる。
「あら、サム君に出来るのかしらね、か、い、た、い♪」
ナナさんは完璧すぎる鋼鉄の微笑を見せる。
そう、素材の知識のない俺に、ナナさんみたいな解体は出来ない。
それならと業者に持ち込んでも、ナナさんほどの腕前の解体士はいないだろう。
それに、俺は素材の相場を知らないし、買い叩かれたりするだろう。
「ご、ごめんなさい。俺が無知でした。」
俺は謝る事しか出来なかった。
「あら意外。納得出来ないって襲ってくるかと思ったのに。」
「そ、そんな事しませんよ。」
ナナさんの返しに、俺は驚く。
この世界は畜生道。
人間に化けれるだけで、基本的に善意な行動は存在しない。
とある行動の裏には、何かの利益が生じている。
その利益を放棄する行為は、この世界の行動理念には無かった。
それは、俺の目の前にいるナナさんも、例外ではない。
「なんか、俺を挑発してません?」
前回辺りから、ナナさんは俺と戦いたがってるように感じる。
「ええ、あなたの強さに、興味があるのよ。」
笑顔のナナさんの瞳の奥に、隠しきれない殺意を感じる。
「俺の強さって。ナナさんより下ですよ。」
俺は身の危険を感じ、身構える。
「あら、やってみなくちゃ分からないわよ。」
ナナさんも臨戦体勢にはいる。
「じょ、冗談じゃない!」
俺は咄嗟に後方へ飛び退く。
「こちとら魔素が尽きかけてんだ。まともに戦えるわけがない!」
「へー、魔素が尽きてなければ、まともに戦えるんだー。」
ナナさんは言葉の揚げ足を取る。
「それは、」
俺は口ごもる。
ナナさんの実力なら、先の解体作業にて垣間見た。
あの繊細な爪さばき。骨までぶった斬る力強さも合わせ持つ。
俺にはやれと言われても、マネ出来ない領域だ。
だけど、あの爪さばきの先にある体術なら、対処出来そうな気がする。
つまり、魔素が尽きてなければ、まともに戦える。
それに俺も畜生道の一員。ナナさんを屈服させるのは、さぞかし気分がいいだろう。
だけどナナさんと戦うとは、何を意味するのだろう。
このギルド全体を敵にまわしそう。ギルドにたむろする冒険者どもなら、束になっても俺の敵ではない。
だけど、たむろしてない冒険者はどうなのか。
そしてルル姉とは敵対しそう。その場合、俺に勝ち目はない。
「私もね、強い男にしか興味ないのよ。」
思い悩む俺に、ナナさんが話しをふる。
「へー、冒険者たちに言い寄られて、まんざらでもなさそうなのに?」
「冗談。こっちも商売だから相手してるだけで、ほんとはぶっ殺してやれたいわよ。」
「そりゃあ、表情も固まりますね。」
「よく分かってるじゃん。」
ナナさんはお決まりの鋼鉄の微笑を披露する。
ナナさんのかわいらしさが、最高に引き出されるその笑顔。
だけどその笑顔の意味を知った今、なんか哀れに感じてしまい、直視する事が出来なくなった。
「もうこの話しは、やめましょうよ。」
俺は臨戦体勢を解く。だけど、いつでも移動魔法で逃げられるよう、警戒は怠らない。
今の俺にとって、移動魔法に使う魔素は微々たるもの。
だけど今の俺には、その微々たる魔素しか、残されていない。
「それもそうね。今のサム君、私を楽しませてくれそうにないしね。」
ナナさんも臨戦体勢を解き、俺に向けた殺気が抑えこまれる。
だけど、完全には消えていない事は、容易に想像できた。
「で、これで討伐完了の手続きは、終わりですよね。」
ここでふたりきりで居続けたら、ナナさんの気が変わって俺を襲うのは、間違いない。この状況は、早く打開したい。
「そうだけど、これからどうするの?」
ナナさんも手続きの終了を了承する。
「ちょっと魔素を補給してきます。」
「補給ってどこへ?」
「そりゃあ、ソーマの泉ですよ。」
このギルドの扉の向こうは、千尋峡谷の果ての建物ホームにつながっている。
その建物内にあるソーマの泉は、俺にとっての魔素の供給源だ。
「そ、ソーマの泉って、あんた正気?」
なぜかナナさんに驚かれる。
「正気って、あれが一番効率良くないですか?」
俺はちょっとムッとする。
「効率って、サム君はあのドラゴニックオーラの暴走に耐えられるの?原液そのままの摂取だから耐えられるドラゴンなんて、存在しないわよ。」
「現にここに居るんですが。」
俺の答えに、ナナさんは少し思案する。
そして、真剣なまなざしで俺をさとす。
「サム君、これ以上ソーマの泉を頼るのは、やめなさい。」
ども(・ω・)ノ
土曜日に更新セットし忘れちゃいました。てへ。
昨今のナナちゃん解体編。
この作品の設定解説をぶち込んだ説明編になっちゃいましたね。
これでも、神獣族幻獣族の詳細解説、白虎が幻想旅団に堕ちた経緯、あのうさぎの動物変化、等など、書かなかった事も多いです。
逆に、ミーシャの設定がガッツリ盛り込まれちゃいましたが。
まあ、数年前のみらせかなら、このナナちゃん解体編自体、ばっさりボツにして、普通に解体作業して終わらせてたと思います。
なんか劣化感を感じますね。
(´・ω・)




