第42話 永久不滅カード
千尋峡谷を抜け出し、外の世界で必要となる身分証明書として、冒険者ギルドで冒険者登録して、ギルドカードを発行してもらう事になった。
ギルドの受付嬢、ルルさん。
この人もドラゴンだった。
「で、この本人証明の添付ですが、」
ルル姉は前回の続きから説明する。
「我々ドラゴンの場合、推薦人のサインで事足ります。」
「え?そんだけ?」
「はい、そんだけです。」
ルル姉はにやりと、用紙をミーシャの方へ差し出す。
「そうそう、あんた生年月日とか知らないでしょ。」
と言いながら、ミーシャは本人証明の添付の欄にサインする。
「って、魔素の色の欄は埋められるでしょ。」
って言われても、正直に書いていいのか、判断に困る。
俺の色は、無色。
普通は赤、青、緑のどれか。もしくはその混合色。
ここで無色と書いていいのか、判断出来ない。
てか、ミーシャが勝手に埋めやがった。
「って、何してんですか。」
ミーシャが自分のギルドカードを押さえる。
ルル姉が裏返しのカードを、めくろうとしてたのだ。
「いえ、あなた様のご確認をいたしませんと。」
「あら、推薦人はカードを見せるだけで、良かったはずですよね。」
ミーシャはなぜか抵抗する。
そうか、このカードにはミーシャの本名が記載されている。
ミシェリア・ドラスティ・ウル・プテラ。
どこぞの王子の求婚を断り、刺客を差し向けられている。
普通にギルドに討伐依頼も来てるだろう。
ルル姉にバレる訳にもいかない。
「ですが、本人確認の添付には、このギルドカードそのものが必要になります。」
「だからそれは、作成機にかけるのに必要であって、あんたに見せる必要はないでしょ。」
「それもそうですね。」
ルル姉はカードから手を引く。
「ですがそのカード、最近の更新履歴はありませんね。」
「あら、このカードは永久不滅カードよ。更新は必要ないのよ。」
ふたりのやり取りは、まだ続く。
「永久不滅カード?」
よく分からん単語が出たので、俺はつぶやく。
「はい。ギルドカードにも種類がございます。普通は二年に一度、更新が必要になります。普段から活動なされていれば、その活動記録で更新手続きは終了です。その更新が二年以内になされない場合、ギルドカードは失効になります。」
「え、失効になるの?なんか面倒臭そうだから、俺も永久不滅カードがいいなあ。」
「永久不滅カードですが、数年前のある事件を機に、新規の発行は終了しました。以降、なんらかの活動記録で切り替えられていきます。」
「え?」
ルル姉の発言に、俺はぞっとする。
「それだと、永久不滅カードは、ほとんど現存しないのか。」
「ええ、その通りです。現在する永久不滅カードは、本人死亡、または行方不明の者を含め、ごく僅かです。」
と言ってルル姉はニヤける。
俺は確信する。
と同時に、右手を部分竜化させルル姉の首をつかむ。
「ちょっとサム。あんたいきなり何してんのよ。」
俺の行動に、ミーシャは驚く。
「ミーシャ、バレてるぞ。」
そう、このルル姉は知っている。ミーシャの素性を。
「バレてるって、何が?」
「ばか、お前の事だよ。」
「あの、ミーシャ様?がどうかされました?」
ミーシャは状況を理解できず、ルル姉はしらばっくれる。
しかしルル姉、いい度胸だな。
俺があと僅かに力を込めれば殺されるのに、平然としてやがる。
俺が力を込めてから竜化しても、間に合うのか?
「ば、ばかって何よ。あんた、登録出来なくなるよ。」
「正規に申請なされれば、登録は出来ますよ。」
ミーシャの発言に律儀に答えるルル姉。
「ミーシャ、永久不滅カードは、ほとんど現存しないんだ。」
俺はルル姉をにらんだまま、ミーシャに教える。
「ええ、生存を確認出来てる永久不滅カードは、一枚しかありません。」
ルル姉も俺の説明を補足する。
「それがどうかしたの?」
ミーシャはその事を、理解しない。
「だから、永久不滅カードを持ってるのは、お前だけなんだよ!」
「えー!」
ここでようやく、ミーシャが驚く。
「で、それがどうかしたの?」
だけど理解はしていないようだ。
俺もルル姉も、呆れてしまう。
「だから、お前しかいないんだよ。永久不滅カードの最後の一枚が、これなんだよ。」
俺は左手で、ミーシャのカードをめくる。
「ちょ、やめてよサム。バレちゃうでしょ。」
「もう、バレてますよ、ミシェリアさん。」
ルル姉の発言に、ミーシャはドキっとする。
俺の腕で死角になり、このカードは見えていない。
「な、なんでバレたのよ?」
ミーシャはまだ、理解できないようだ。
「あなたも、気をつけた方がいいですよ。」
ミーシャに呆れる俺に、ルル姉は忠告する。
「あなたのその腕輪、降魔の腕輪ですね。知ってる人が見れば、あなたがドラゴンだとすぐに分かります。」
俺はハッとして、右手で左手首の降魔の腕輪を隠す。
「もう遅いですよ。」
俺から解放されたルル姉は、首をこきこきさせる。
「でも、安心なさい。実物を知ってる者は、そう多くはございません。」
「そうか。で、ミーシャはこれからどうなる?」
俺の事より、ミーシャの方が心配だ。
「さあ?当ギルドも、関与する事はございません。なるようにしかならないと、思われます。」
「つまり、あんたから、ミーシャに危害が加えられる事は、ないんだな。」
「はい。我々の関与する事は、ございません。」
そのひと言に、とりあえず安心する。




