第41話 冒険者登録
ついに千尋峡谷を抜け出した、俺とミーシャ。
ここで身分証明書をゲットしたいのだが、この身分証明書はなんと、ギルドカードだった。
「ギルドカード?」
この世界では、身分証明書をギルドカードと呼ぶのかな?
創作物では有名な存在でも、前世の俺は創作物の類いを読んだ事ないので、よく分からん。
「そうよ。人間なら戸籍抄本?とかあるらしいけど、私たちドラゴンには、それがないからね。だからこれが身分証明書になるのよ。」
「ふーん。」
まあ、この世界の事情は、まだよく分からん。
「じゃあ行くわよ。」
ミーシャは歩きだす。
前回俺が回復魔法を使ってから、ミーシャは上機嫌だ。
「ついたわ。ここがギルドよ。」
そこは、俺たちが最初にいた建物だった。
だったら、無駄に歩き回る必要あったのかな。
前回も入った大広間。
カウンターの向こうに、ふたりのお姉さんが立っている。
にこにこしたお姉さんと、暗い表情のお姉さん。
元の顔は、どちらのお姉さんも同じようだ。
多分双子だろうと、俺は予想する。
ミーシャは暗い表情のお姉さんの所へ行く。
うーん、普通はあっちのにこにこなお姉さんを選ぶよね。
「いらっしゃい。今日はどんな御用ですか?」
暗い表情のお姉さんは、そのままの表情で尋ねてくる。
ミーシャはギルドカードを裏返して、スッと差し出す。
「あら?」
それを見て、お姉さんは少し驚く。
「連れの新規登録をしたいんだけど、頼めるかしら。」
「新規登録?という事は、あなたが推薦人を務めるんですね。」
と言いながら、お姉さんは俺をじろじろ見てくる。
俺は思わず目をそらす。
このお姉さん、表情は暗いけど普通に美人なんだよな。
「ふ、不本意ながら、そうなるわね。」
ミーシャがお姉さんの問いに答える。
「そうね、分かったわ。ナナさん、ここは頼めるかしら。」
お姉さんは、もうひとりのお姉さんに声をかける。
「任せて、ルル姉。」
接客中の最中、もうひとりのお姉さんが答える。
ナナさんと呼ばれたもうひとりのお姉さん。
普通に人気者らしく、業務関連の接客ではなく、普通に世間話をしてるようだった。
「ついて来て。」
ルル姉と呼ばれたお姉さんは、俺とミーシャを別室に案内する。
前回俺たちが出てきた扉に、もう一度入る。
そこの廊下から、ホームに続く扉とは別の扉に入る。
そこは応接室になっていた。
「どうぞ、おかけください。」
ルル姉は、俺たちに着席をうながす。
俺たちがソファーに座ると、ルル姉も向かいのソファーに腰かける。
「それでは、必要事項にご記入してください。」
ルル姉は、一枚の紙切れを差し出す。そしてミーシャをちらりと見る。
ミーシャはギルドカードを裏返して、テーブルの上に置く。
俺は必要事項を埋めていく。
名前。
性別。
生年月日。
住所。
電話番号。
魔素の色。
魔力量。
本人証明の添付。
って、なんだこれ。
ほとんど埋められねーぞ。
「あの、これ、」
俺は名前と性別の欄しか埋められなかった。
「うふふ、そうよね。」
ルル姉はくすくす笑ってる。
「あなたさっき、千尋峡谷から出られたばかりだもんね。」
「あんた、性格悪いわね。」
ミーシャもルル姉を責める。
「あら、性格悪いのは、あなたもじゃない?」
ルル姉も、にやりと反撃。
俺にはさっぱり分からんやり取りが、繰り広げられてるらしい。
「ごめんなさい。きちんと説明するわね。」
ルル姉は俺に向き直る。
「あなた、こちらの方の力添えで、千尋峡谷を出られましたよね。」
「力添え?」
と言われて、俺は首をかしげてしまう。
「あら、こちらの方が、あなたを引き抜いたのでは?」
「引き抜き?と言うより、協力?が適切な気がする。」
千尋峡谷の果てのホームには、俺の転移魔法で来たんだし。
「べ、別に過程はどうでもいいでしょ。私の鍵で、出てきたって事で。」
俺にはよく分からんが、千尋峡谷の抜け出し方にも、色々あるようだ。
「そうですね。説明を続けましょう。普通は引き抜いたら即、冒険者登録を済ませます。引き抜いた人が推薦人になってね。」
と言われ、俺は思わずミーシャを見る。
「ふ、普通はね。普通はそうよね。」
ミーシャの目が泳ぐ。
「ですが、身の安全を最優先とする場合、冒険者登録は二の次になる場合もございます。」
ルル姉が助け船をだす。
「そ、そうよ。ここで刺客と鉢合わせたら、どうするのよ。」
ミーシャも助け船に乗っかる。
まあ、ここはそういう事にしておこう。
「で、この登録用紙ですが、これは人間の物と同一です。」
ルル姉は説明を続ける。
「我々ドラゴンの場合、記入出来る欄も限られます。そこで重要になるのが、この本人証明の添付です。」
ルル姉は、本人証明の添付の欄を指差す。
が、ちょっと待て。
「我々って、ルルさんもドラゴンなんですか?」
「ええ、そうですが、それが何か?」
ルル姉は、ドラゴンの姿に戻る。
赤い鱗。
ターズンドラゴンだ。
大きさは人間のサイズと変わらない。
普通はドラゴンに戻ると、五倍くらいの大きさになる。
そのサイズの調整が出来るには、そこそこの実力がともなう。
つまりこのルル姉。それなりの実力者だ。
「ですが、ドラゴンバレには、充分気をつけてください。討伐対象になり得ますし、当ギルドでも保護は致しません。」
と言いながら、ルル姉は人間の姿に変化する。




