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第37話 ミシェリア

 千尋峡谷の果てにある、ホームと言う名の建物。

 ここから外の世界へ出られるのだが、それには通行許可証が必要だった。





「なあ、その通行許可証って、どこで貰えるんだ。」

 この通行許可証を持つ者と一緒なら、ホームへの出入りは自由。

 このホームの書庫が気になってる俺は、どうしても通行許可証が欲しい。


「これ?これは通行許可証を兼ねてるだけで、身分証明書って言った方がいいわね。」

 ミーシャは俺の目の前で、その身分証明書をひらひらさせる。

 うーん、俺に取られるとか、考えないのかな。


「ん?ミシェリア・ドラスティ・ウル・プテラ?」

 俺は目についた名前を読みあげる。


「あんた、文字が読めるんだっけ。」

 ミーシャは両手でカードを隠す。

 そりゃ本読めるくらいだし、文字くらい読める。

 俺がただ、本を見てただけだと思ってたんかな。


「ミーシャ、どこで盗んだんだ?」

 そう、このカードは間違いなく他人の物。

 そしてどこで盗んだのか分かれば、俺もゲット出来る!


「はあ?なんでそうなるのよ。」

 ミーシャは盗んだ事を認めない。


「いや、俺もそれ欲しいんだが、どこで手にはいる?」

 俺は聞き方を変えてみた。


「ふーん、あんたこれが欲しいんだ。」

 さっきまで不快感をあらわにしてたミーシャだが、なぜか勝ち誇ったような雰囲気をかもし出してくる。


「ああ、欲しい。」

「じゃあ、謝ってくれる?」

「謝る?」

「どこで盗んだって、失礼な事言ったでしょ。」

「ご、ごめんなさい。」

 と、思わず反射的に謝ってしまった。


 この世界にドラゴンとして転生して気づいた事だが、みんな欲望に対して、愚直すぎるのだ。

 つまり、欲しい物は奪い取る。

 騙し取ったり、かすめ取ったりはしないのだ。

 だから俺が言った盗んだと言う表現は、正しくなかった。


 とは言え、盗んだと言う言葉に対して、過剰に反応している様に思える。

 そこから導き出される答え。


「まさか、これミーシャの本名なのか?ミシェリア・ドラスティ・ウル・プテラ。」


 ミーシャは一瞬、ヤバげな表情を見せる。

 が、すぐに開き直る。


「え、ええ、そうよ。でも、この名で呼ばないでくれる?今まで通り、ミーシャって呼んで。」


 と言われて、少し悩む。


「うーん、これってなんか不都合があるのだろうか。

 美少女なミシェリアには、こっちの方がしっくりくる。

 よくあるアニメでは、あだ名ではなく、名前で呼びあうのが仲のいい証明になっている。

 ミシェリアと一緒に転移魔法を普通に使えるくらいには、仲良くなりたいんだが。」


 なぜかミシェリアの顔が赤くなる。

「は、はあ?あんた、何考えてんのよ。」

「え?何考えてるって?ミシェリアと仲良く、なり、」

 俺も声に出して、赤面する。

 何こっ恥ずかしい事を、口ばしってんだ俺は。

 前世でほとんど入院暮らしだった俺は、美少女とお話しした事もない。

 そんな前世の記憶がある分、ミシェリアとの会話に舞い上がってるのかもしれん。


「そ、そうね。私の事、ミーシャって呼んでくれたら、か、考えてもいいわ。」

「ほんとか、ミシェ、」

 俺がミシェリアと口ばしりそうになったら、ミシェリアはこれみよがしに、そっぽを向く。


「その名で呼ぶなら、あんたは私の敵よ。今は無理でも、いつかは殺してやるわ。」

 うーん、ミシェリアの方が美少女のイメージにぴったりなんだが。

 ミーシャだと、どこかかわいらしいさが残る。要するに幼く感じるのは、俺だけか。


「何があったのか知らないが、俺はミーシャの敵にはなりたくないな。」

 今は、ミシェリアの機嫌を損ねる訳にもいかない。

 心の中では、ミシェリアと呼ぶ事にしよう。っと思ってたら、なぜかミシェリアがにらんでる。


「あんた、心の中ではミーシャとは呼ばないとか、思ってるでしょ。」

「な、なぜそれを?」

「ふん、あんたの考えそうな事くらい、分かるわよ。」

「なん、だと?」


 そうか、基本俺たちドラゴンは、嘘をつけない。

 元人間の記憶がある俺でも、嘘をついたら態度に出るらしい。


「くそー!俺はミシェリアと呼びたい!だけどミシェリアが嫌がるなら、ミシェリアに嫌われたくないから、み、ミーシャと呼ぶ事にしよう。」

 俺は苦渋の決断をするしかなかった。


「はあ?あんた何こっ恥ずかしい事叫んでんのよ。どん引きよ。」

 ミーシャは俺から目を逸らすと、そのまま歩みだす。



 その表情がどん引いてはいない事に、俺は気づかない。

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