第33話 王国連邦
人間に変化出来ないドラゴンが落とされる場所。それが千尋峡谷。
しかし、それだけではなかった。人間に追われて逃げこむドラゴンもいた。
人間に変化出来るミーシャが、千尋峡谷にいた理由。
それは人間に追われたためだった。
だけど、ちょっと待て。
「ミーシャは呪いが解けたから、千尋峡谷を出ようとしたんだぞ。人間に追われてたから、って理由は違うんじゃないか。」
俺の発言に、おっさんはうなずく。
「そうだ。ミーシャ様が受けた呪いは、ドラゴンのまま暴れ狂うという物。だけど呪術者が未熟だったから、ミーシャ様の魔素を完全には抑えきれず、呪いは中途半端な物になってしまった。そう、変化に時間がかかると言う、厄介な物にな。」
「なるほど。それで人間に追われるようになったのか。」
基本的に、ドラゴンから人間への変化は、瞬時に出来る。
だけど変化に時間がかかるとしたら。
ドラゴンである事が、バレてしまうだろう。
「さすがに一族からドラゴンバレを出す訳にはいかんからな。だからミーシャ様は千尋峡谷に落とされた。」
「はあ?」
なんだその理屈は。
守るべき家族が、一族が、守ってくれなかったのか。
前世の俺は、病弱で入院ばかりしていた。
つまり家族の加護は、それなりにあった事。
普通な接し方をしてみたかったけど、それが家族だと思う。
畜生道に堕ちた俺だが、家族は大切な絆だ。そのはず。
「誰もミーシャを守ろうとはしなかったのか。」
「なんで守らなくちゃいけないんだ?」
「助け合うのが、家族だろ。」
「助け合う?おまえはバカか。利用しあうのが家族だろ。」
「何?」
そうだ、忘れてた。ここは畜生道。
人間に変化出来るってだけで、基本はドラゴン。所詮ケダモノだ。
「おまえもミーシャ様と呼んではいるが、普通に見捨てるんだな。」
「当たり前だろ。俺に価値があるなら利用する。それだけだ。」
「何?価値がないから、見捨てるだと?」
「そりゃそうだろ。つかおまえもさっきから、なんでそうしつこく聞いてくる?」
そりゃ分からないからだろ。
人間の記憶を持つ俺には、ドラゴンの常識が分からない。
「見解の相違ってヤツだな。」
これ以上おっさんと話してても、俺の納得する意見は聞けなさそうだ。
「ふ、間隙の救世主の考えは、俺には分からん。」
これにはおっさんも、同意見らしい。
「そんな者になったつもりはないが、最後にひとつ、聞かせろ。おまえがミーシャ様と呼ぶミーシャは、何者なんだ。」
おっさんとは、ドラゴンとは分かり合えなくても、これだけは知りたい。ミーシャが何者なのか。
「ミーシャ様か。ミーシャ様は、ビルーソ王国連邦の第三王女だ。」
「はあ?」
王国?連邦?
これって王国が集まってんだよな?
「つか、なんでドラゴンが国作ってんだよ。」
「それだけドラゴンも、人間どもと、世界と繋がりを持ってるという事だ。」
「その第三王女でも、千尋峡谷に捨てられるのか。」
ミーシャの身分を知り、やるせない気持ちになる。
そんなミーシャが、全身傷だらけになって。
ん?
以前会った時には、そんな傷はなかったぞ。
ミーシャの傷は、最近できたものだ!
「まさか!」
「ん?どうした?」
「まさか、ミーシャを殺そうとしてんじゃねーのか?」
「ああ、その通りだ。王女様なんて、ここでは生きられないって思われてたからな。」
「なん、だと。」
おっさんの答えに、俺の怒りは爆発寸前だ!
「こんな所に捨てるだけでは飽きたらず、さらに殺そうっていうのか!」
こう吐き捨てて、ハッとする。
「まさか、おまえも、ミーシャを殺そうとしてるのか。」
おっさんは首をふる。
「まさか。俺はミーシャ様の問題に首を突っ込む気はない。それに俺は、基本的におまえの敵にはならんぞ。」
「竜王、か。」
以前会った時、おっさんは言ってた。
俺が竜王に似ている。おっさんの友だった竜王に。
それが俺に肩入れする理由らしい。
「ふ。」
竜王の名を聞き、おっさんはニヤける。
そうだな、このおっさんの行動原理は、友である竜王第一。
その範疇から外れれば、おっさんも敵になるだろう。
「敵ではないなら、聞かせてくれ。この先俺たちは、どうすればいい?」
「うーん?」
おっさんは首をかしげる。
質問が抽象的すぎたか。
「お、俺は千尋峡谷の外の事を、何も知らない。だから、ここを出たら、どうすればいいのか、分からない。」
俺は言いなおす。だが、何が分からないのかが分からない状態。うまく言葉にできない。
「そんなの、勝手に生きればいい。」
「勝手に生きる?」
「ああ、気に入った所を奪って、縄張りにするだけの事。おまえのチカラなら、造作もない事だろ。何を悩む。」
まあ、それが畜生道の生き方なんだよな。
だけど俺たちは、普通のケダモノではない。
下手に人間に変化出来るがゆえに、社会性を身につけてしまった。
それに、ドラゴンではない普通の人間も、共存しているらしい。
「それだと、ただの駆逐対象だろ。俺は人間を殺す気はないぞ。」
「ふ、なるほど。その生き方を望むか。」
俺の返しに、おっさんはほくそ笑む。




