表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/272

第29話 解呪の血

 獅子の穴から転移魔法で千尋峡谷に戻ってきた俺は、久しぶりに会うミーシャとのランチをシャレこんだ。





 食事を終えた俺は、人間の姿に変化する。

 ずっと人間の姿だったので、こっちの方が、なんかしっくりくる。


「ねえ、なんで私に恵んでくれたのよ。」

 ドラゴンのままのミーシャは、俺を見下ろしながら聞いてくる。

 前回ミーシャが食べた餌は、俺が捕まえてきた餌だった。


「さあな。おまえのみすぼらしい姿は、見たくなかったんじゃないかな。」

 俺は他人事のように答える。

 俺の知ってる以前のミーシャは、俺より数段強かった。

 そんなミーシャの変わり果てた姿など、見たくはなかった。


「そう、私だって、私だって、」

 ミーシャは言葉に詰まり、そっぽを向く。


「なあ、人間の姿で話しをしようよ。」

 俺はドラゴンの姿のミーシャを見上げるのに、疲れてきた。

 俺もドラゴンに戻ればいいのだが、ドラゴンの性質だと、普通に会話は出来ないと思う。


「な、なんでよ。」

 ミーシャは怯えだす。

 俺は本能むき出し、欲望に忠実なドラゴンのままより、人間の方が話しやすいと思ってるのだが、ミーシャは何を考えてるんだ。と一瞬思ったが、なんとなく理解する。


「なあミーシャ。今のままでも、俺はおまえを殺せるんだぜ。その気になればな。」

 これは以前、俺がミーシャに言われた言葉だ。

「俺を信じて人間に変化するか、俺を怒らせてこのまま殺されるか、好きな方を選べ。」


「わ、分かったわよ。」

 ミーシャは人間に変化する。

 十秒後俺の目の前に、ちょっと不健康そうな絶世の美少女が現れる。

「こ、これで満足かしら。」

「いや、満足かと聞かれても。」

 それは、俺の疑問が解消しないと、満足出来ないだろう。


「なんでおまえ、変化するのに時間がかかるんだ?」

 俺は瞬時に変化出来る。ミーシャとの違いはなんだ?


「そんなの、あんたには関係ない。」

 ミーシャはそっぽを向く。

「関係ないって、確かにそうだけどさ、気になるじゃん。何かの呪いかなんかか?」

 俺の言葉に、ミーシャはハッと俺を見る。

「呪いか。」

 ミーシャの態度が、物語っていた。

 それにドラゴンは嘘をつけない。


「な、何よもう!呪いだったらなんだって言うのよ!」

 ミーシャは開き直る。


 やっぱり呪いだったか。

 俺には状態異常に対する耐性がある。

 故に、俺に呪いは効かない。

 それはなぜか。

 俺の体内を巡る魔素のおかげか、血液中の赤血球だか白血球だかの影響か。

 それは、俺の血液を輸血すれば、はっきりする事。

 でもドラゴンの俺たちにも、血液型ってあるのかな。


「いや、ちょっと確かめたい事があるんだよ。」

 輸血が無理なら、飲ませてみよう。

「た、確かめる?」

 ミーシャはなぜか、怯えだす。って、ずっと怯えてんな、こいつ。


「うん、ちょっとね。」

 俺は右手を部分竜化し、左手の中指を傷つける。

 傷つけるのだが、ちょっと待て。

 本当にこれが他人の状態異常の回復に役立つなら、知られるのはやばい。


「なあ、ちょっと後ろ向いてくんない?」

 俺が血を流す所を、見られる訳にはいかない。

「な、なんでよ。」

 ミーシャはガタガタ震えだす。

「んと、ちょっと見られたくないから?」

「ひい、」

 俺の返しに、なぜかミーシャは軽く悲鳴をあげる。

 そのままミーシャは、じりじり後ずさる。


「おい、動くなよ、殺すぞ。」

 俺も少しじれて、脅してしまう。


「ひい、」

 ミーシャはその場にしゃがみ込んでしまった。

 これじゃあ、俺が後ろに回るしかないか。

 俺は両手を背中側に隠し、ミーシャに近づく。


「ご、ごめんなさい。今までの事は謝りますから、許してください!」

 近づく俺に、ミーシャはなぜか謝ってくる。

 意味が分からん俺は、話しがかみ合わないのにイラついてきた。


「あのなあミーシャ、俺の話し、聞く気ないのかよ!」

 俺は部分竜化した右手の爪を、左手の中指に突き刺す。

「あ、そう言えばおまえ、いつも俺から餌をぶん取ってたな。」

「ひい、」

 俺はやっとその事を思い出す。

 俺が気にしてない事でビクつくミーシャに、ちょっとイラっとくる。


 ミーシャの後ろに回った俺は、ミーシャの口を後ろから左手で押さえて、血を流した中指をミーシャの口の中に突っ込む。


「うぐ!」

 ミーシャは俺の左手に爪を立ててくる!

「おい、動くな!殺すぞ!」

 俺の怒声に、ミーシャは俺の左手を握る握力をゆるめる。


「噛むんじゃねーぞ。」

 俺は突っ込んだ中指を、ミーシャのベロになすりつける。

 噛まれたとしても唇を巻き込んでいるので、あまり痛くはない。


 おとなしくなったミーシャだが、突然ビクっとけいれんする。

 俺は思わず左手を離す。


「げほ、げほ、」

 ミーシャはその場に伏したまま、何度かけいれんする。

 これは、成功したのか?


「サム。あんた、私に何してくれたのよ。」

 けいれんが落ち着いたミーシャは、涙目のまま俺をにらんでくる。


「何って、ちょっとした実験?」

「実験って、私をモルモットにしてたの?ひどい。」

 ミーシャは悔し涙を流す。

「あーごめんごめん。」

 俺は思わず謝ってしまう。

「こんな事して、私をイビって楽しいの?ひと思いに殺したらどうなのよ!」


 うーん、俺はただ呪いを解けるか確かめたかっただけなのに。


「別にイビってないって。ちょっとドラゴンに戻ってみて。」

「そうね、私も殺されるにしても、少しは抵抗してやる!」



 ミーシャはドラゴンに戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=44752552&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ