第28話 再会
どんな所かと思ってた獅子の穴は、俺には期待外れの場所だった。
俺は千尋峡谷に戻る事にした。
千尋峡谷の壁ぎわの、温泉へと続く建物の前。
俺は千尋峡谷に戻ってきた。
俺は人間の姿からドラゴンの姿に戻る。
ドラゴンの全身で、大気中の魔素を取り込む。
これだけでは飢えは満たされないので、餌の子羊を調達しないとな。
早速大気中の魔素の流れをよみ、餌の子羊の出現場所に目星をつける。
俺はバサりと翼を羽ばたかせると、目星をつけた場所の近くに待機する。
そこから少し離れた場所に、あのミーシャがいた。
ミーシャもこの餌を狙っているらしい。
久しぶりに見たミーシャだが、こちらには気づいていないらしい。
俺はニヤりとほくそ笑む。
以前は勝てなかった相手だが、今の俺なら秒殺だ。
それに毎度毎度、餌を奪われた恨みもある。
俺はミーシャから餌を奪う事にした。
餌の子羊をゲットしたミーシャは、おそらく温泉前の建物に戻ってくると予想して、俺はその建物前に戻る。
そして人間の姿に変化すると、近くの縄梯子を登り始める。
戻ってきたミーシャを、上空から奇襲するつもりだ。
程なくして、ミーシャが戻ってくる。
首のない子羊を抱えたミーシャは、手傷を負っている。
餌の奪い合いに巻き込まれたんだろう。
そんなミーシャの背中めがけて、俺は縄梯子から飛び降りる。
どさ。
俺はミーシャの背中に飛び乗ったのだが、不意を突かれたミーシャはパニくる。
崩れたバランスを、翼をバタつかせて戻そうとするが、ドラゴンが空を飛ぶのに、物理法則は使わない。全身を流れる魔素の流れで調整するのだが、今のミーシャはそれすら忘れている。
「お、俺だよミーシャ。サムだよ。」
俺はミーシャを落ちつかせようとするが、パニくったミーシャは聞く耳持たない。
俺は墜落寸前のミーシャから飛び降りた。
直後、ミーシャは地面に激突。
「あいたたたー、もう、何がおきたのよ。」
ミーシャは首をふっている。
「久しぶりだな、ミーシャ。」
俺の呼びかけに、ミーシャは首をふるのをやめ、俺を見る。
久しぶりに見たミーシャは、少しヤツれて見えた。それに傷やアザも全身にみえる。
「サム?そう、生きてたのね。」
ミーシャは寂しげにほほえむ。
「やつれたな、ミーシャ。」
以前は俺を凌駕してたミーシャ。
チカラをつけた今の俺は、すでにミーシャを凌駕している。
だけど弱ったミーシャを見るのは、なぜかつらい。
「全くよ。弱いあんたが居なくなったら、私が奪えなくなるじゃない。」
ミーシャは餌の子羊を俺に押し出す。
ミーシャも俺との力の差を、悟ったらしい。
だが、これを奪う気になれないのは、なぜだろう。
ドラゴンのままなら、こんな事気にしないのだろうが、人間の姿だと、そうはいかない。
「くそ、ちょっと待ってろ!」
俺はドラゴンに戻ると、餌を求めて飛びたつ。
俺の探知出来る範囲で、今餌が出現してるのは、三箇所。
餌の争奪が激しい場所を選び、急襲する。
餌にガブリつくヤツの首すじに、飛び蹴りをかまして着地。
首の折れたドラゴンを、ドラゴンの密集地帯に蹴りこむ。
このドラゴンをめぐって、新たな争奪戦が勃発。
子羊に手を伸ばす俺に、二匹のドラゴンが襲ってくる。
俺は一匹にカウンターで尻尾の一撃を叩きこみ、もう一匹の方に倒す。
首の折れたドラゴンの下敷きになり、この二匹も新たな餌食になる。
俺は子羊を小脇に抱えると、もう一匹の子羊の所へ転移魔法で移動する。
この子羊は、周りが争奪戦の真っ最中で、誰も手を出してなかった。
俺は二匹の子羊を両脇にかかえ、上空に飛びたつ。
そこから転移魔法で戻る。
戻ると、ミーシャが俺に差し出したはずの子羊を、食べていた。
「あ、てめー!」
俺は思わずミーシャを蹴り飛ばす。
「こいつは、俺んだろ!」
俺の怒声に、一瞬ビクつくミーシャ。
「ご、ごめんなさい。」
ミーシャは怯えながら、俺に謝ってくる。
「ち、」
そんなミーシャを見て、俺の怒りの感情は消えていく。代わりに憐れみに似た感情がわいてくる。今は人間の姿ではなく、ドラゴンだと言うのに。なんだこの感覚は。
「ほらよ。」
俺は捕まえた二匹の餌を、ミーシャの目に前に放る。
そしてミーシャが口をつけた子羊を食べ始める。
くそ、ただ餌にありつくのに、こんなにも手間取ってしまった。
ミーシャなんか、無視すればよかったぜ。
「な、なんのまねよ。」
二匹の餌を前に、ミーシャが聞いてくる。
「あん?」
俺は餌をほうばりながら、聞き返す。
「な、なんで私にくれるのか、聞いてるのよ!」
「知るかよ。食わねーなら、俺が食うぞ。」
俺のその言葉で、ミーシャは狂ったように食いはじめる。
ドラゴンの時は凶暴な性格になり、欲望に正直になる。
だから人間の時にどう思ってたのかは、分からなくなる。
一匹を完食した俺は、二匹目を食いだしたミーシャから、半分奪った。




