第24話 さむ君
千尋峡谷から脱出した先にあるのは、世間に復讐する事を目的とした施設、獅子の穴だった!
「それでは、これから君に心技体の極意を教えてくれる、先生を紹介しよう。」
チリーン。
こいつはおもむろに、机の上に置いてた鐘を鳴らす。
「お呼びでしょうか、教頭先生ー。」
ちょっとふくよかで、ニコニコした、感じのいいおじさんが入ってきた。
「うむ、オニマロ君。君のクラスに、この子を入れてくれたまえ。立派な戦士に、育ててくれよ。」
「お任せください、教頭先生!このオニマロ。必ずや教頭先生のご期待に、応えて見せますよ!」
ふたりの男は、ガッチリと手をにぎる。
「君には期待しているぞ、オニマロ君。」
「はい、次の校長選抜議会では、教頭先生を校長にしてみせますよ!」
ふたりは、俺をそっちのけで盛り上がる。
「おいおい、オニマロくーん。滅多な事を言うもんではないよー。現に前回の選抜議会、私は候補にもあがらなかったんだからねー。」
「ははは、何をおっしゃりますか、教頭先生。この私がしっかりと根回ししてますんで、時期校長は間違いなしですよ!」
「根回しだなんて、オニマロ君。まるで買収してるみたいじゃないかね。」
「買収だなんて、ひと聞きの悪い。教頭先生の良さを知ってもらうための、いわば先行投資ですよ。」
「そうかそうか。私も地味な事ばかり、やってきたからねー。今一度、私の良さを知らしめないといけないかー。」
「ええ、教頭先生の良さが伝われば、次期校長は間違いなしですよ。」
うーん、こいつら、何言ってんだ?
くだらない権力闘争なんていいから、さっさと俺の話しを進めろ。
「おおっと、そうだった。オニマロ君。君にはとっておきの逸材を受け持ってもらうよ。」
俺のイラダチに気づいたのか、教頭先生とやらは、俺の事について触れる。
教頭先生は指先をクイクイとして、オニマロと呼ぶ先生を手招きして、小声で話す。
「こいつは、この若さで千尋峡谷を突破した。獅子の穴最高の戦士に育つ事、間違いなしだ。」
「いいのですか、教頭先生。そんな逸材を私なんかが担当して。」
「いいって事よ。君には色々動いてもらってるからな。これくらいの見返りは、用意してやるよ。」
「あ、ありがとうございます、教頭先生。」
ふたりは小声で話してるので、上記の会話はよく聞きとれなかった。
五感を研ぎ澄ませば聞き取りも出来たが、別にそこまでする意味もない会話だろう。
「それじゃあ、あー、君。うーん、君には名前がないのか。」
「いえ、ありますけど。」
教頭はここで俺に話しをふるが、俺の名前が無いとかほざきやがる。
「よし、私が名づけてやろう。無いと不便だからな。うーん、さ、さ、さ、…。」
教頭はいきなり悩みだす。
俺にはサムと言う名があるのに、なぜかこいつは無視しやがる。
「さむ。さむなんてどうだろう。」
それ、俺の名前だよね。元々の。
なぜかこいつは、良い名をひらめいたと言う顔をしてやがる。
「いい名前ですねー、流石は教頭先生。」
オニマロってヤツが、露骨によいしょする。
「ほら、さむ君。教頭先生にお礼を言いなさい。」
「あ、ありがとうございます。」
オニマロにうながされ、俺は渋々お礼を言う。
「うむ、ではさむ君。君には期待しているぞ。頑張りたまえ。」
「はは。私にお任せください。必ずや立派な戦士にしてみせます!」
教頭の言葉に、オニマロが応える。俺を無視して。
「では、私たちはこれで。」
オニマロにうながされ、俺たちはこの部屋を後にした。
ばたん。
扉を閉じると同時に、オニマロの顔つきが変わる。
にっこにこしてたのに、今は別人のようにムスっとしている。
「へん。さむだぁ?ハゲに目ぇつけられたからって、いい気になってんじゃねーぞ。」
「あの、ハゲって誰ですか?」
オニマロは顔つきどころか、キャラまで変わってた。
「あん?ハゲはハゲだろ。全くあのハゲ。面倒ごとばかり俺に押しつけやがって。だけど、エバってられるのも、今のうちだ。」
まあ、生え際は後退してたと思うが、ハゲと言えるほどハゲてはなかったぞ。
「お、なんだてめー。ハゲにチクる気か?あーん?」
オニマロはドラゴンの身体に戻り、俺を脅しにかかる。
ドラゴンに戻ったオニマロの身体は、五倍くらいの大きさになる。
室内ではギリギリで、なんか窮屈そうだ。
首輪をはめた俺が、ドラゴンに戻れないと思ってるのだろう。
そんなの、サイズを調整すれば、戻れない事もない。
それにぶっちゃけ、今のオニマロなら、人間の姿のままでも対処可能だ。
ソーマの泉で強化され、降魔の腕輪で強さ維持された俺は、こいつから教わる事など、何もない。と思う。
「おっと、ここで殺したら、ハゲに怪しまれるな。」
オニマロは、ドラゴンの姿から人間の身体に変化する。
「おまえには、地獄のフルコースを味わってもらうぜ。」
オニマロはニヤける。




