第22話 脱出
千尋峡谷の果ての建物で、長らくこの世界の設定を聞かされてたけれど、ようやく千尋峡谷のはずれに帰ってきた。
「ぐは、はあはあ。」
廃墟郡のはずれに戻ってきた俺だが、その場に膝をつく。
魔素の消費量が、半端ない。
立っていられないほどだ。
俺は人間の姿から、ドラゴンの姿に戻る。
「ぐ、」
基礎代謝は、ドラゴンの方が激しい。
だけど俺が大気中の魔素を取り入れられるのは、ドラゴンの身体の時だけだ。
だけど、このままではヤバい。
他のドラゴンに襲われたら、撃退出来る気がしない。
そりゃ数匹程度なら何とかなるが、それ以上だったら無理だ。
俺は前方の廃墟の物影をにらむ。
そして目を閉じて、その場所をイメージする。
そして俺の姿のイメージを重ね、目を開ける。
俺はその物影に、移動していた。
なるほど、慣れれば便所に行くくらい簡単だと聞いてたけれど、確かに今は、魔素の消費はそれほど感じなかった。
つか、ドラゴンのままでも転移魔法は使えるんだな。
俺は身体のサイズを縮め、廃墟の奥に身を潜める。
身体の体積と表面積との比率で言えば、小さい方が大気中の魔素を取り込むのに、有利なはず。
俺はこの場で、眠りについた。
しばらくして、眠りからさめる。
そこそこ回復してるけど、まだだるい。つか、腹減った。
大気中の魔素の吸収だけで、全回復するはずもない。
俺は両手をにぎにぎして、左手首の降魔の腕輪を見つめる。
腕輪の効力か、そこそこの強さは残ってる。
あとは餌の子羊を調達すれば、何とかなるかも。
俺は廃墟の建物から出て、大気中の魔素の流れを探る。
今度餌の子羊の出現場所に、目星をつける。
俺は餌の子羊の出現場所の近くの、廃墟の中に移動する。
そしてこの場所のイメージを、しっかり脳裏に焼きつける。
餌の出現時間が近づいたので、俺は廃墟の屋根に登る。
そして餌の子羊出現。
俺は空を飛んで、子羊を急襲!
数匹のドラゴンとの競争になったが、俺が先んじて子羊を捕まえる。
数匹のドラゴンの標的が、俺に変わる。
俺は目を閉じると、転移魔法を使った。
さっきの廃墟の中に転移した俺は、早速餌の子羊を食す。
ある程度体力は回復する。
だけどソーマの泉で上限知らずに強化された俺には、まだ物足りない。
俺はこの後、三回ほどこの行為を繰り返した。
まだ物足りないが、このままでは埒があかない。
俺はこのまま、千尋峡谷からの脱出を試みる事にした。
早速崖ぎわの縄梯子に向かうのだが、縄梯子のそばで、数匹のドラゴンがたむろしている。
百メートルくらい向こうにも縄梯子はあるので、そっちに移動する。
したらここにも、数匹のドラゴンがたむろしている。
今日に限って、どうした?
まさか、人間になった俺を、待ち伏せてんのか?
まあこんなヤツら、人間に変化しても勝てると思うが、どうしたものか。
そんな事を思ってると、縄梯子の下のドラゴンと、目が合った。
ドラゴンはニヤけると、縄梯子に手をかける。
ドラゴンがクイっと引っ張ると、縄梯子はちぎれて、音を立てて崩れていく。
「あー、てめー!」
思わず叫ぶ俺に、そいつはニヤける。
カチンときた俺は、そいつに襲いかかる!
どざざざざー。
なおも崩れる縄梯子。
普通のドラゴン二匹分の体積の縄梯子に、そいつは下敷きになってる。
抵抗出来ないそいつを、俺はあっけなく殺す。
「てめー!」
「こんにゃろー!」
近場のドラゴンが、俺に襲いかかる!
「ふん!」
俺は今殺したドラゴンの死体を、そいつらに投げつける。
よろめくそいつらは、地面に転がる死体を見て、俺への襲撃を忘れて、その死体を貪りだした。
血の匂いをかぎつけたのか、他のドラゴン達も集まって来た。
このまま大乱闘になりそうだが、俺には関係ない。
俺は空を飛ぶと、ちぎれて落ちないで済んだ縄梯子の高さまで、上昇する。
そして人間に変化して、その縄梯子をつかむ。
下の方でドラゴンどもの殺し合いが始まる最中、俺は縄梯子を登り、千尋峡谷を後にした。




