第21話 転移魔法
畜生道に転生したはずの俺だが、なんかややこしい事になった。
「俺が、竜王に似ている?」
前回おっさんが言ってた言葉を、俺はつぶやく。
「ああ、あいつはいいヤツだった。」
おっさんは昔を懐かしむ。
「一番、いいヤツだった。」
おっさんの表情には、怒りがにじみ出ている。
「それをあいつが、!」
おっさんは激昂したけど、すぐに我にかえる。
「すまんな。少し取り乱した。」
おっさんは目を閉じて、気持ちを落ち着ける。
竜王とおっさん。そしてあいつ。
この三者に何があったのかは知らんが、そっとしておこう。
おっさん怒るし。
「いいって。あんたらに何があったのかは、気が向いたら聞かせてくれって。」
俺は腕輪を見つめる。
「ああ、すまん。あの時の事を思い出すと、今でも怒りがこみ上げてきてな。」
おっさんは俺に謝るが、あまり突っ込む気になれない。
数話前まで、俺を利用しようとしてたヤツだ。
ヘタに突っ込めば、そのまま取り込まれてしまうかもしれない。
「へー、でも俺に竜王を重ねないでくれよ。俺は俺だし。」
この先に封印されてると言う、竜王の事は気になる。
しかし今は、関わらない方が良さそうだ。
このおっさんの話しだけを鵜呑みにするより、世界を回って、自分の目で確かめてみたい。
という訳で、この建物から千尋峡谷の廃墟郡へと、戻る事にした。
千尋峡谷を脱出した先にあるという、獅子の穴も見てみたくなった。
「じゃあそろそろ、おいとましますか。」
とは言ったものの、この先どうするか。
この建物から廃墟郡へ、またあの道のりを辿るのかと思うと、気が重い。
今の魔力量から言って、多分行けると思うが、問題はこの降魔の腕輪。
俺の魔力量を一定に保つと言うが、それってどう言う事だろう。
その一定以下にはなれないって事か。つまり、それに応じた魔力は消費出来ない、使えないって事か。
「なあ、携帯食か何か無いか?」
俺はおっさんに問う。
「携帯食?」
キョトンとするおっさん。ほんと、察しの悪いヤツだな。
「ここから戻るのに、補給食がいるだろ。」
俺は思わずはきすてる。
「は?戻るだけなら、転移魔法で行けるだろ。」
「転移魔法?」
おっさんは事もなげに、サラッと言う。
そんな魔法、俺は知らないぞ。つか、どんな魔法が存在するのかも、知らないが。
「ああそうか。ちょっと待ってろ。」
おっさんは俺が魔法についての知識が無いと察すると、部屋を出て行った。
「ほれ。」
部屋に戻ったおっさんは、俺に一枚のお札を差し出す。
「お札?」
俺は右手に持つお札を見て、つぶやく。
「それにおまえの魔素を注いで、降魔の腕輪に触れてみろ。」
「こうか?」
おっさんに言われ、俺はお札に魔素を注入してみる。
お札がほのかに光りだす。
そのお札で降魔の腕輪に触れると、お札は降魔の腕輪に吸い込まれた。
「これで降魔の腕輪の機能が、一段解除になった。竜王の覚えた初期魔法なら、使えるようになったぞ。」
現状を説明するおっさんの言葉に、俺はゾッとする。
「おい、それって!」
そう、この腕輪は竜王の物。
「この腕輪の機能とやらを、全部解除したら、竜王は復活するのか?俺の身体に。」
「はあ?何言ってんだ?どうやったら、そうなるんだよ。」
俺の懸念に、おっさんは首をかしげる。
「じゃあ、なぜ俺にコイツを渡した!」
俺の身体に竜王を復活させる事は、おっさんは否定した。
その言葉は信じられるとして、コイツをくれる理由が分からない。
「それは、竜王に頼まれたんだよ。竜王と同じ無力の魔素の持ち主が現れたら、渡してくれって。」
「何のために?」
「それは、竜王の志を託すためだ。」
「志?」
「そうだ。」
俺は左手首の降魔の腕輪を見つめる。
確かに、竜王復活につながる様なモノは、何も感じない。
「ち、よく分からんが、ありがたく利用させてもらうよ。で、転移魔法ってどう使うんだ?」
竜王の志なんて知らんが、使えるモノは使わしてもらおう。
「ああ、転移魔法はな、」
おっさんが転移魔法の説明を始める。
「まずは行きたい場所をイメージするんだ。はっきりとな。」
「行きたい場所か。」
俺は目を閉じて、廃墟郡のはずれをイメージする。
「場所をイメージしたら、そこに自分がいるイメージを重ねろ。」
「俺がいるイメージ。」
俺はイメージを重ねる。
「最初のうちは魔素を大量に消費するが、慣れれば便所に行くくらい手軽に使えるようになるぞ。」
「便所、ね。」
そう言えば今までその描写はなかったけど、どうしてたんだろ。
「色々世話になったな、ありがとう。」
俺は転移魔法を使う前に、おっさんに礼を言う。
「ふ、気にするな。俺は我が友、竜王の意志に従っただけだ。」
「ふ、竜王の意志か。俺には関係ないけどな。」
おっさんと俺は、ニヤけあう。
「それでは、また会おう、地上でな。間隙の救世主サム。」
「ああ、またな。」
俺は目を閉じて、廃墟郡のはずれをイメージする。
そう言えば、おっさんの名前を聞いてなかったな。
それは今度会った時に聞いてみよう。
俺は転移魔法を使った。




