第20話 間隙の救世主
普通に異世界に転生した俺を、天啓を受けた子供と言うおっさん。
しかし俺が転生者だと知ると、おっさんは俺の事を間隙の救世主と呼ぶようになった。
「え、感激の救世主?何に感激するん?」
前回おっさんが言った、間隙の救世主。
俺にはその意味が分からない。
「違う違う。間隙の救世主。あいだの、すきまの、救世主だ。」
「愛だの、好きだの言われてもな。どんな救世主なんだよ、それ。隣人を愛せってヤツか?この世界でそれを言うのか。」
そう、畜生道のこの世界で、愛という言葉が出てくるだけで、驚きだ。
「はあ、」
おっさんがため息をつく。
普通に話しが通じないヤツと話すのは、相当しんどい。ってそれは俺の方だよ!
「いいか、この世に神の意志で産まれたヤツが、天啓の子供。神が何らかの意図をもって送りこんだ訳だ。だけど転生者には、自らの意志がある。自らの意志で、神の意志にそむく事も出来る。」
うん、何言ってんのか、さっぱ分からん。
ここって、畜生道だろ?
人間に化けれるってだけで、何で小難しい事並べるんだ?
「おまえは、カスミーティア様に従う気はない。だろ?」
事情が飲み込めない俺に、おっさんは切り口を変えてくる。
「あのくそ女神か?誰が従うかよ!」
あいつ、俺をゴミを見る目で見てたかんな。絶対許さない!
「ふ、そういう事だよ。」
とおっさんはニヤける。
「神が口をはさむ事なんて、ろくな事じゃねーかんな。だからこの世に生きる俺たちには、救世主なのさ。」
「なるほど、さっぱ分からん。」
そういや、俺がこの世界の予備知識をねだっても、教えてくれなかったもんな、あのくそ女神。
それに俺は、産まれてすぐ千尋峡谷に叩き落とされた訳だし、この世界については、何も分からん。
とりあえずこの世界には、冒険者として転生するヤツもいるらしい。
つまり人間の冒険者と俺たちドラゴンは、対立する事になるのかな。
出来れば平和的にいきたいが、どうだろう。
「ちなみに、竜王のヤツも、転生者だった。」
「なん、だと、」
俺がこの世界にドラゴンとして転生したのは、特殊な事例だと思う。
なのに、俺と同じヤツが居たことには、驚く。
つまり俺の生きる道は、竜王の人生をなぞる事になる。のか?
「竜王は、間隙の救世主だったって事か?」
俺の生きる道はどうあれ、竜王もその可能性が高いだろ。
「俺は、そう思っている。」
「俺は?その言い方だと、おまえ以外は思ってなさそうだな。」
「まあな。ヤツはドラゴン族のために立ち上がったんだが、人間の勇者に封じられたからな。」
「ああ、そういや、この先に封じられてるんだっけ。」
「その封印も、弱まっているのも事実。」
「ん?それって、俺に封印を解けって事か?間隙の救世主として。」
封印を解く方法は知らんが。
おっさんは首をふる。
「ふ、それはおまえが決める事。封印を解くにしろ。強めるにしろ。」
「うーん、どっちか選ばなくちゃ駄目?」
弱肉強食の欲望のままに生きる畜生道で、そんな選択を迫られるなんて、思ってもなかったよ。
「それも、おまえが決める事。おまえがしたい様に生きればいい。」
「そっか。なら、この世界がどうなってるのか、知る必要があるな。」
ここが畜生道とは言え、人としての探究心は抑えられない。
「それなら、おまえにはこれが必要そうだから、渡しとく。」
おっさんは水晶玉を置いた台座の引き出しから、ひとつの腕輪を取り出す。
「竜王も使ってた、降魔の腕輪だ。」
おっさんは降魔の腕輪を、俺に渡す。
「ふーん、これを装備したら、どうなるんだ?」
俺は左手の人差し指で腕輪を回しながら、おっさんに尋ねる。
「おまえの魔力が、一定に保たれる。」
「一定?」
ソーマの泉で魔力量が上がった俺だったが、ソーマの泉を離れた今、魔力量は大幅に減っている。
あの時は千尋峡谷のドラゴンどもを、人間体のまま全滅させる事も可能だったが、今は数体が限度だろう。
「だけど、ドラゴンに戻ったら、腕が引きちぎれるんじゃないの?」
何度も言うが、ここは畜生道。
おっさんの利益にならないのに、俺に腕輪を渡す必要がない。
この腕輪は、なんらかの危険物と思うのが、妥当。
「それは大丈夫だ。竜王もおまえと同じ、無色の魔力だったからな。」
「ふーん。」
俺は回してた腕輪の回転を止める。
そのまま腕輪は俺の腕を落ち、左手首にはまって止まる。
そこから左腕だけを部分竜化。そして少し大きくする。
「なるほどな。」
腕輪は俺の腕の大きさに合わせて、サイズを変えた。
俺は左腕を人の腕に戻す。
「で、なんで俺にこれをくれるんだ?」
これは、最初に聞いとくべきだったな。
「さあな。おまえが竜王に似ているからかもな。」
何?
畜生道なこの世界で、友情をとるとでも言うのか?




