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第11話 人間変化の末路

 人間に変化出来ない事で、千尋峡谷に落とされた俺は、人間になったミーシャを見て、人間になる事が出来た。

 その応用で、空を飛ぶ事も可能となった。



「待ちなさい!」

「ひい!」


 空を飛んで追いかけてくるミーシャから、俺も空を飛んで逃げる!

 だけど俺にはまだ、ミーシャみたいに空を思い通りに飛ぶ事が出来ない!


 俺は地上スレスレを飛び、人間に変化して建物の廃墟に身を隠す!

 だがミーシャの追跡の目からは逃れられない!

 小回りの効かないミーシャは、大回りしながら、俺を追ってくる。


「ひい!」

 俺はドラゴンと人間と姿を変えながら、千尋峡谷の谷底を逃げ惑う。


「おい、人間がいるぞ。」

「何?それは本当か。」

「ああ、久しぶりに見たぜ。」

「バカなヤツだ。」


 俺の逃走劇は、多くのドラゴンの目に止まった。

 人間になった俺を餌と見るドラゴン達も、俺の追走劇に加わる!

 俺は上空のミーシャより、地上のドラゴン達に注意して、逃げ惑いだす!


「おい、そっちに回れ!」

「あそこに追い込め!」

「やった!袋のねずみだ!」


 ついに俺は、ある建物跡に追い込まれた。

 このまま人間の姿のまま、小さく隠れてやり過ごすか。ドラゴンに戻って空に逃げるか。


 だけど今の俺には、ドラゴンに戻るだけの余裕がなかった。

 ドラゴンに戻るのにも、空を飛ぶのにも、気力の調整が必要になる。

 今の追い詰められた俺には、その余裕がなかった。


「いたぞ!」

 ドラゴンに戻れない俺は、ついに見つかってしまった。


 襲いくるドラゴン達を前に、俺は上空から襲われる!

 上空から襲われた俺は、その場から連れさられてしまう。


「ミーシャか。」

 俺はミーシャに掴まれたまま、観念する。

 他の名も知らないドラゴンに殺されるより、知り合いのミーシャに殺される方が、マシかもしれない。


 どさ。

 遠くへ飛び去ったミーシャは、地上に着地すると俺を落とす。

「ぐは。」

「分かった?」

 地面に落とされダメージを受ける俺に、ミーシャが話しかける。


「人間になれる者が、ここではどうなるのかを。」

「あ、ああ。よく分かった。」

 俺は即座にドラゴンに戻る。


 ここでは人間は、ドラゴンの餌でしかない。

 ここ千尋峡谷を脱出するには、人間になるしかない。

 しかし人間になる事は、ドラゴンの餌になる事を意味していた。


「人間になれても、ここからは出られないのか。」

 俺は遠くの絶壁を見つめる。

 絶壁には間隔をあけて、鎖の縄梯子がかけてある。

 だけどその縄梯子は、意味をなさない物だった。


「私には無理だけど、あんたなら可能よ。」

 ミーシャは寂しげにつぶやく。

「あんた、変化に時間かからないでしょ。」


 なるほど。

 俺は、ミーシャが言わんとする事を理解する。


「私なら、限界高度ギリギリまで飛んでも、人間に変化するのに時間がかかりすぎて、間に合わない。」


 俺なら、ドラゴンどもの追撃をかわせる高さから、すんなり人間に変化して縄梯子をつかめる。


「あんたは私と同じかもしれないと思ったけど、どうやら違ったようね。」

 ミーシャは寂しくつぶやくと、その場を後にした。

 俺はミーシャにかける言葉が出なかった。

 そして、ミーシャを追う事も出来なかった。


 ミーシャが色々と俺に目をかけてたのは、俺も人間になりえると思ったからだろう。

 この千尋峡谷から脱出出来ない人間仲間。

 だけど俺は違った。


 俺はこの千尋峡谷に残るべきだろうか。

 ミーシャとともに、この千尋峡谷で生きる。

 その道もあるだろうが、俺たちが人間になった時、俺は自分の感情を抑えきる自信がない。

 またミーシャを襲うだろう。

 それに俺は、この世界を見てみたい。

 千尋峡谷の谷底ではなく、その外の世界を。


 ミーシャには悪いが、俺はここから脱出する事に決めた。

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