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要介護勇者が往く! ~立てもしない2週目最弱勇者が魔王を討伐するそうです~  作者: 目傘アカナ
第1章 中編 ~要介護勇者、王領都市に向かうの巻~
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勇者カサギの食事事情

 重湯の上澄みに潰したリンゴ汁を入れた、特製の介護食をカサギに食べさせたあと、キーセラの方もひと手間加えてそれを夕食とした。

 キーセラが鍋から掬う麦粥には、いつも持ち歩いている食料――生姜、クルミ入りの味噌玉、芋がら――と、あとは今朝村で貰ってきた鶏の魔物・コケルコルの卵が入れられて、カサギが食べたものとはまったくの別物になっている。


「ち、チクショウ………なんて旨そうな匂いなんだ。口の中で涎が泉みてーに湧きやがる」


 棺桶の中で恨めしそうに歯噛みするカサギ。

 この男、実を言えば介護食を口にする時でさえ、魔力で喉の筋肉を強化してから呑み込むことで何とか誤嚥を防いでいる状態なのだ。


 固形物を食べるのにどれだけの魔力が必要なことか……よしんば呑み込めたとしても、結局生姜のようなスパイスの類は刺激が強すぎて食べられず、卵は吐き戻してしまうのだからどうしようもないのだが。


 もし鶏卵が食べられたのなら――高めのコレステロールさえ目を瞑れば――栄養素の心配が要らなかったものを……。


「食欲はあるんですか……」

「ある時とない時が代わる代わるに顔を出す。貧弱で食べられねーくせして、一端に空腹を訴えてきやがるのさ」


 言いつつ、キーセラの鍋を物欲しげにじっと見ているカサギ。


「……こればかりは可哀想ですね。どうします? 見えないところで食べたほうがいいですか?」

「あっおい、行くんじゃあねーッ。俺に匂いを嗅がせろォッ」

「ええー……。そ、そんなに見られたら食べにくいんですけど……」

「さァ、どんどん食って見せてくれ。おめーの食いっぷりによっちゃあ俺まで腹いっぱいに感じるかもしれない。これを幸せの御裾分けとでも名付けよーか。さァ食え、ほら食え」

「……」


 見続けられては堪らないと、急いで夕食を済ましたキーセラ。

 彼女はカラーロ教の作法で命への感謝を捧げたあと、てきぱきと後片付けをして行く。


 布で綺麗に拭き上げている鍋は『スタンダード魔道具工房』一押しの一品『どこでも料理鍋』。

 魔導具とは、魔法触媒を用いて魔法陣を描いた物品のこと。

 そこに使用者が魔力を流すなり魔物から取れる魔石を押し付けるなりして、効果を発揮させる。


 ヒアブラムシという魔物が植物に寄生して出来る虫こぶ、その染料を触媒として六芒星――加熱(ヘレイル)の魔法陣を描いた鍋底と、軽量かつ折りたためる本体が売りの、アウトドア用に開発されたそれを荷物に仕舞いこめば片づけは終わり。

 後は寝るだけだ。


 交代での寝ずの番などキーセラの法術があれば必要ない。


「聖堂(ピューロタルト)」


 群青色の魔力光が二人の周りをドーム状に取り巻いて……空気に溶けて消えた。

 上級以上の魔物と、中位以上の魔族には入られてしまうものの、この辺りには数えるほどしかいないだろう。


 元々は永眠用であるはずだが、どういう訳か眠るのには適さないらしい棺桶からカサギを抱き起こし、草を結んだ枕に頭を乗せてやって、いよいよ寝るだけという頃。

 カサギの隣の草に寝転んだキーセラがしんみりと話し出した。

 

「二人で野宿なんて、昔を思い出しますね。こうして一緒に夜空を見上げて」

「あぁ、苦い記憶だ。こともあろうになんだってこのカサギが、またまた不便な目に合わにゃあならない……」

「いいじゃないですか。不便も情緒、ですよ」

「どぉこのどいつだァ? そんなこと抜かしたヤツァ。そりゃあ物に囲まれ過ぎて物に支配されるようじゃあいけねーが、最低限の装備がないと情緒を感じる余裕もねーのによーォ」


 魔導都市(まどうとし)で発明される魔道具。

 原生都市(げんせいとし)で調教を受けた魔物。

 産業都市(さんぎょうとし)で生産される消費物。


 旅には色々なものが必要だ。


 カサギの主張で情緒を吹き飛ばされ、感傷に浸りきれなかったキーセラが「まぁそもそも」と続ける。


「カサギは野宿の時、大して雑用やってませんでしたし、不便な思いをしてないじゃないですか。あんまり変わりませんよ」

「心外だ。魂から記憶が抜け落ちたんじゃあないだろうな。まったく、カンベン願うぜ。それともなんだァ? お前はケツの穴が顔に二つもついているっつーのか?」


 心底呆れた風に「カサギの頭こそ、がらんどうなのでは?」と一言。

 更に続けて口を開く。


「忘れたんですか? アトリエにちょっかい掛けてみたり、トリスの羽をもごうとしたり、イスカの水浴び覗いてみたりしてばっかりで。それにカサギは……」

「おぉぉいッ、ちぃっとばかし待て」

「?」


 首を捻るキーセラにカサギが騒ぎ立てる。


「最後のなんだ、俺知らねーぞ。そりゃぁキーセラの絶無よりはよっぽど見る甲斐があるが……俺は命知らずじゃあねーんだぜ」

「今サラっと命知らずな冗談を私に吐きましたが?」

「……?」

「え?」

「???」

「本心ですか、そうですか。なるほど分かりました。いいでしょう、いつか本当にぶっ飛ばしてあげますから」

「な、なにがどうだってそうなる……?」


 あらぬ疑いを掛けられていたことが判明したり、更にその抗議中にうっかり地雷を踏み抜いたりするうち、夜を明かすための準備が整った。

【tips ヒアブラムシ】

アブラムシの魔物、体長2センチ。

良く燃える体液が特徴。

この魔物がヌルデの葉などに寄生して出来る虫こぶ――またの名を五倍子――に含まれるタンニンは、染料でありながらも魔法触媒にもなるため、魔法陣を描く時に重宝される。


ネットに疎い友人にこの小説のURLを送り付けてやりましょう。

効能:ネットの奥深さを味合わせられます。

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