ヒナコお嬢様は、お兄様の誕生日プレゼントを確保するようです。完全思考同期型装甲巨兵(ドレス)、索敵特化タイプ”トドメキ”登場。
窓の外の崖の下には、鬱蒼とした森林が広がっている。
ヒナコお嬢様は、椅子に座って優雅に午後のお茶を楽しんでいた。
瀟洒なテーブルの上に置かれたクッキーを、優雅な仕草で口元に運ぶ。
肩までの長さの銀髪が、サラリと前に流れた。
静かに目を伏せる。
ピピッ、ピピッ。
小さな腕時計が音を鳴らす。
菫色の瞳がちらりと腕時計から、空中に投影された文字を見た。
「うふふ、来ましたわ」
声に、喜色を隠せない。
白いワンピースの裾をひらめかせながら、ヒナコは部屋の外へ出た。
◆
部屋の外には、白いモーフィング装甲で出来たワンピースを着た、全長7メートルくらいの巨大な美女が、伏せ打ちの体勢で横たわっている。
むき出しの白い肩と、半ばまで見えた太ももが美しい。
ヒナコと同じ銀髪の頭の上には、四角い帽子型の、”総合センサーユニット”を装備していた。
目をつぶった美女の顔の前には、黒いバイザーがレティクルを表示している。
控えめの、”胸部装甲”は半ばまで開かれており、簡素な椅子が見えていた。
うつぶせの美女の胸元に、ヒナコは潜り込み、椅子の下にある穴にクランクを刺し回した。
ヴヴヴヴヴ
と言う音と共に、”マナジェネレーター”が起動する。
重力制御装置起動。
ヒナコは、斜め下を向いた椅子にワンピースの裾を乱さず座る。
”胸部装甲”を閉じた。
ヒナコは、目を閉じて、思考を同期させる。
女性型、完全思考同期型装甲巨兵、索敵特化タイプ”百目鬼”。
ヒナコは、”百目鬼”をドレスの様にまとった。
◆
「あれですわ」
小さな声で、つぶやいた。
トドメキの横には、地面に刺された、瀟洒な日傘型のレドームがゆっくりと回っている。
ガチャリ
トドメキは、身長と同じくらいの長さのある、装甲移動建築物用スナイパーライフルである”ピラルクー”のコッキングレバーを引き、弾室に弾を送り込んだ。
崖の下の森林には、ボロボロの武者鎧を着た、男性型、暴走(野良)思考型装甲巨兵が木を倒しながら歩いている。
500年前の、主星からの独立戦争の遺物である。
「うふふ。お兄様の”水無月”(男性型、半思考同期型装甲巨兵)に似合いそうね」
静かな中にも、熱を感じさせる。
烏帽子型で、三日月の前立てを着けた兜を見ながら言った。
胴鎧の真ん中に照準を合わせる。
バイポットを立てた”ピラルクー”の引き金を、白い手袋をした細い指が引いた。
ドカンッ
周りの木の葉と土煙を円形に巻き上げながら、オレンジ色に光りながら曳光弾が飛んでいく。
「ヒット」
そっとつぶやく。
暴走(野良)スーツは胸に大穴を開けられ、四散した。
「ありましたわ」
ほっと息をついた。
突然、森の中に日傘をゆっくりと回した、巨大な美女が現れる。
光学迷彩を解いたトドメキは、烏帽子型で三日月の前立てがついた兜をひろう。
兄の巨兵のいいパーツになりそうだ。
「野良になれるだけあって、いい素材を使っているわ」
納得した声を出した。
トドメキは、手に持ったキャリーバッグ(部屋付き)から、光学迷彩用のナノマシンを放出し、姿を消した。
満足したトドメキは、”ピラルクー”を回収した後、”魔境”の森から去って行った。
装甲お嬢様シリーズ第二弾