幼い贈り物 【月夜譚No.101】
縫い目の粗い、不細工なぬいぐるみだ。押入れにしまっていた段ボール箱から取り出したそれを、彼女はじっと見つめた。
生まれてから十数年暮らしたこの家を引っ越すことになり、荷造りをしている最中だった。子どもの頃の懐かしい思い出の品を整理していたが、このぬいぐるみには覚えがない。
うさぎの形をしたそれは、ボタンの片目が取れかけ、耳の長さは左右で大きく違う。生地は薄汚れて白が淡い灰になって、中の綿も少ないのかくったりと手の中で折れ曲がった。如何にも不器用な素人が作ったという代物だ。
こんなもの、どうして今までとっておいたのだろう。彼女は腕を伸ばして「不要」と書かれた箱にぬいぐるみを入れようとして、ふと思い止まった。
ちらりと一瞬だけだが、誰かの顔が浮かんだ気がしたのだ。幼い子どものあどけない笑顔。靄がかったようにはっきりと思い出せないが、その笑みが浮かんだ途端、これは捨ててはいけないと思ったのだ。
どうしてなのかは判らない。あの笑顔が誰のものなのかも判らない。
けれど、とても大切なことのような気がするのだ。
彼女はぬいぐるみを胸元に引き寄せてその歪な表情を見遣ると、そっと新居に持っていく荷物の上に横たわらせた。
いつか、笑顔の主が分かる時が来るかもしれない。何故か、その未来が待ち遠しくて仕方なかった。