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月夜譚 【No.101~No.200】

幼い贈り物 【月夜譚No.101】

作者: 夏月七葉

 縫い目の粗い、不細工なぬいぐるみだ。押入れにしまっていた段ボール箱から取り出したそれを、彼女はじっと見つめた。

 生まれてから十数年暮らしたこの家を引っ越すことになり、荷造りをしている最中だった。子どもの頃の懐かしい思い出の品を整理していたが、このぬいぐるみには覚えがない。

 うさぎの形をしたそれは、ボタンの片目が取れかけ、耳の長さは左右で大きく違う。生地は薄汚れて白が淡い灰になって、中の綿も少ないのかくったりと手の中で折れ曲がった。如何にも不器用な素人が作ったという代物だ。

 こんなもの、どうして今までとっておいたのだろう。彼女は腕を伸ばして「不要」と書かれた箱にぬいぐるみを入れようとして、ふと思い止まった。

 ちらりと一瞬だけだが、誰かの顔が浮かんだ気がしたのだ。幼い子どものあどけない笑顔。靄がかったようにはっきりと思い出せないが、その笑みが浮かんだ途端、これは捨ててはいけないと思ったのだ。

 どうしてなのかは判らない。あの笑顔が誰のものなのかも判らない。

 けれど、とても大切なことのような気がするのだ。

 彼女はぬいぐるみを胸元に引き寄せてその歪な表情を見遣ると、そっと新居に持っていく荷物の上に横たわらせた。

 いつか、笑顔の主が分かる時が来るかもしれない。何故か、その未来が待ち遠しくて仕方なかった。


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― 新着の感想 ―
[一言]  思い出の品は様々ありますが、いまいち内容を思い出せないものも多いんですよね……。それでも捨てられないのは、思い出せないながらも記憶に残っているからなのかも知れませんね。  ありがとうござ…
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