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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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72/201

好きなことに理由はいらないのか否か

 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。

 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。


 実は……

 今日は二階堂さんと夕飯を一緒に食べることになっている。

 夕凪(ゆうな)が実家にお泊りなのでたまにはお酒でも飲もうと話したのだ。


 そろそろ迎えに行こうかな?



 ――――――――――



 図書館で借りてきた本をようやく読むことができた。

 静かに読書ができる時間というのがこんなにもありがたいと再確認させられたここ数日だった。


 やっとあたしは待望のドラゴンに会うことができたのだ。

 物語に出てきたのは赤いドラゴン。

 どこにでもあるようなお話だった。

 だけど、面白かった。


 普段は人間の少女の姿をしているドラゴンのお話。

 人間には忌み嫌われているドラゴンが、ひっそりと生活するために苦労しているのだけど、話し相手がいなくて寂しくて……という内容だった。


 ドラゴンは普段、大きな力を制御するために人間の姿をしている。

 あなたの隣にいる彼女ももしかしたらドラゴンなのかもしれない。

 という出だしで物語は始まる。


 主人公のドラゴンは印象的な赤毛の女の子。

 名前は『ルージュ』

 炎のように赤い髪の毛は目を引くが、それ以外は顔もスタイルも出で立ちもごく普通の女の子だ。

 普段は人里離れた場所でひっそりとなるべく人に関らないように一人で生活している。それは両親から『人間と関わってはいけない。彼らは同族同士で傷つけあうような者たちだ。我々にもきっと害を成すだろう』と言われ続けてきたからだ。

 親兄弟とは15歳の年に離れるというのが、ドラゴン族のしきたりになっており、17歳の彼女は一人暮らしをして約2年。両親や兄弟など話し相手がいない寂しさを感じながら毎日を過ごしている。

 彼女はある日、寂しさに負けて人里に下りてきてしまう。


 この話の良いところは、一人暮らしをしている17歳の女の子が何を思いながら毎日生活しているのか……その心模様がすごく繊細に書かれてあるところだ。正体はドラゴンで、他の生物に比べると大きな力を持っているのだけど、でもそれを使って何かをしたいなどという野心など露程(つゆほど)もない。それどころが小さな生き物を大事にする優しさにあふれている。


 そして物語の展開も終始優しい。

 彼女自身が傷つくこともなければ、人里に降りてきた彼女を傷つける誰かもいない。

 最後には……彼女はドラゴンであると親しい何人かにバレてしまうのだが、人間たちは彼女のことをいつも優しく見守っている。


 そんなドラゴンの日常と非日常の話だ。


 圧巻だったのは、主人公のルージュが友人を助けるために姿をドラゴンに変えるところ。

 街が火トカゲに襲われて大火事になってしまい、彼女と仲良くしていた友人やお世話になった人たちが火に包まれてしまったシーンで彼女は自分の力を解放するのだが……。


―――――――――


 この姿を見られたらあたしは嫌われてしまうかもしれない。

 この人たちと別れなければいけないかもしれない。

 またあの寂しい日々に逆戻りしなければいけない。


 でも……あたしがこの姿にならなければみんな死んでしまう。

 もしあたしが嫌われるようなことになってここを離れなければならないとしても……みんなには死なないでほしいし、誰一人、不幸になってほしくない。


 あたしは一息ついた。


 心臓が高鳴るのが分かる。

 両手を胸の前で組み、意識を集中する。

 赤い髪の毛が全身に広がっていくのが分かる。


―――――――――


 何度読み直してもいい。

 葛藤の中、自分よりも友人やお世話になった人のことを第一に思える優しさが胸を打つ。

 そしてこのシーンを読むと……なんだか自分までドラゴンになれそうな気がしてくるから不思議だ。

 こんな素敵な体験ができるのは本の中だけだと思う。


『はあああ……』

 あたしは一人、ため息をついた。

 うっとりとしたため息だ。

 なんか姉や松沢さんが恋愛の話をしている時のような声だ。


 まあ……一緒にしたくはないが……


 たぶん一緒なのだろう。

 好きなことを考えている時というのはどうしてもこんな感じになってしまうのだろう。好きなものに理由なんていらない。それは感性に近いものがあるからだ。


 それにしてもいい話だったなあ。


 あたしが物語の余韻(よいん)に浸っていると玄関のチャイムが鳴った。

 今日は夕凪(ゆうな)ちゃんがお泊りなので一緒にお酒を呑む約束をしているのだ。


 そういえば春海ちゃんの趣味って何なんだろう。


『あなたの隣にいる彼女ももしかしたらドラゴンなのかもしれない』

 という物語の出だしの言葉が頭をよぎる。

 いやいや……それはいくらなんでも本にのめりすぎだ。


 でも面白いから、お酒でも飲みながら聞いてみようかな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 好きなものに理由なんていらない。それは感性に近いものがあるからだ。の部分が心に響きました。 [一言] いつも応援しています!
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