お泊まり会は楽しいのか否か
床で寝たから今朝は身体が痛い。
昨日は散々だった。
結局、ドトールで始まったお茶会は姉がやってくることにより、変な方向になってしまった。
変な方向というか……松沢さんはあの狂ったような姉と意気投合してしまったのだ。
今までさんざんあたしは姉のことを狂っていると言っていたが……もしかしたら狂っていたのはあたしの方なのか?
いや、それは違う。断じて違う……と信じたい。
『日曜日の予定がないのって寂しいですよね』
『そう。本当に寂しい。何も起こらないのよ。ドラマが』
何か起こるわけがない。それはたとえ予定があったとしても……だ。
ドラマは作り話だからドラマなのだ。
大丈夫なのか?この二人は。
いやたぶん大丈夫ではないだろう。
二人して何かに憑かれたように夢を見ているのだ。
ホントに困ったものだ。
『こんな夏の日は海に行きたくない?』
『分かる――! お姉さん、二階堂ちゃんとそっくりなのに中身は全然違う! 話分かるわ――!』
『あたしも咲菜の会社の人っていうからどんな堅物かと思っていたけど、話の分かる人で良かった――!』
とにかくこの二人。
声が甲高い。
そしてやたらテンションが高い
姉は普段からこのテンションだが、松沢さんも同じテンションで話している。
あたしも女だから声は高いが……
この……なんだ?
甲高い声のやり取りは。
やたら『きゃーきゃー』言って騒いでいるこの感覚。
恥ずかしくないのだろうか。
一緒にいると恥ずかしい。
まさに『姦しい』とはこういうことを言うのではないだろうか。
『そういや……二階堂ちゃんって下の名前、咲菜って言うんだね』
『え? 知らなかったんですか? けっこう付き合い長いのに』
『うん。「ふみ」だと思ってた』
……なわけないだろ!
似ていると言われるのだって嫌なのに、同姓同名だったらさらに比較されるではないか。
あっちは女優だぞ。比較されるだけでも最悪だ。
『盛り上がってきたし、呑みにでも行こうか』
盛り上がってきてはいない。
少なくともあたしは……。
でもあたし以外の二人は盛り上がっている。
そんなわけで……姉の鶴の一言で呑みに行くことになってしまったのだが……。
居酒屋に着いてから1時間ぐらい飲んだだろうか。
もうあたしは話についていけない。
乙女ゲームの話や理想の男性の話など、あたしは興味がないし、そんなに話したいなら二人で話してくれ……と思うのだが、さすがに席を外すのは悪いので、『そうだね』とか『なるほどね』とか適当に相槌を打ちながら聞き流していた。
『ねえ』
姉が悪戯な笑顔で松沢さんに言う。
大抵、姉がこの顔をしている時は悪魔のような計画を練っている時だ。
もう嫌な予感しかしなかった。
今週末は何か悪い事故にでも遭ったのだと思ってあきらめよう……とあたしはそう自分に言い聞かせた。
で……1時間後には二人はあたしの家にいた。
泊まるというのだ。
いや……明日仕事だから。
……この二人にはそんな理屈は通じない。
『ねえねえ、いっそのこと3日ぐらい泊まっていく?』
『いいですねえ』
あたしの家なのに勝手に決める二人。
さすがにそれは嫌なので1泊だけにしてもらった。それだって地獄のようだ。
『着替えはどうするの?』というあたしの問いには下着だけ新しいのを購入して、部屋着も服も貸せとのこと。サイズは3人とも同じような体格だから大丈夫だろうけど……好みだってあるだろうに。それにあたしは姉のような無駄にリボンがついているようなワンピースは持っていない。
『大丈夫、大丈夫!!』
笑いながら松沢さんは言った。
まあ……貸すのはかまわないけど……洗って返してね。
自宅に着いた後、あたしは二人に言った。
『話すのはいいけどお隣は小さな女の子がいるんだから静かに話してね』
『は――い』
姉は調子よく、小さな声で言う。
わざと口をとがらせて少し可愛い感じを醸し出しながら言ったつもりだろうけど……なんか腹立つ。
まあ、姉は子供が好きなのだ。あたしと同じで。
だからそんな迷惑なことはしないだろう。
あたしはすっかり酔いが醒めた。
狭いお風呂だけど、二人に先にお風呂に入ってもらって、部屋着を出しておいた。そういえばはるか昔に姉からおしつけられたピンクのフリフリした部屋着があったので、姉には素知らぬ顔でそれを提供しよう。もう返さなくていいからね。
二人がお風呂に入った後、帰りに寄ったスーパーで購入したお惣菜と、ビールを出しておいた。そして二人がそれぞれお風呂から出てきたところであたしは最後にお風呂に入った。
できるだけゆっくり入ろうとも思ったが、そんなことをしてビールが足りなくなったら、あの姉のことだ。なんだかんだ人の家でも平気で物色しだすだろう。
ここは我慢して早めに出るしかない。
あたしは湯舟にはつからずにシャワーだけ浴びて、さっさと部屋着に着替えた。
結局、二人は深夜になるまで恋愛論について話していた。
付き合いきれないので、あたしは早々に寝たが、お客さんを床に寝かせるわけにもいかないので、あたしが床に寝たわけだ。
床で寝て、身体が痛いのにはそういう理由があるのだけど、まさか姉がベッドで寝ているとは思わなかった。言っておくが姉はお客さんではない。そこは松沢さんに提供したのだ。
朝起きて、自分の分だけお弁当を作るのも憚られると思ったのであたしは朝ごはんだけ3人分、作った。
松沢さんも姉もそれなりに起きだした。
姉の仕事はシフトの仕事なので、たぶん昼過ぎの出勤でもいいのかもしれない。
今から池袋に帰っても十分に間に合うはずだ。でないと泊まろうなどと言いださないだろう。
出勤の時はあたしの服を着るということだったが、3人とも同じ体型だったので、それなりに着ることはできた。ただ……あたしは黒を基調とした同じような服をたくさん持っておりそれを着まわしているので、3人そろって同じような服装になってしまった。
『何これ――。あんたセンスの欠片もないわね』
『姉ちゃんにだけは言われたくないわ』
朝食を食べて出勤する。
なんだか同じような体型の同じような服装の女3人が同じ部屋から出てくるのはなんか面白い。
玄関を開けてふと隣を見るとお隣さんも出勤するところだったらしい。
『おはよう。夕凪ちゃん』
『……』
夕凪ちゃんはあたしたちを見て言葉を失った。そして自分の部屋に向かって言った。部屋にまだママがいるのだろう。
『ママ――!たいへんだよ!!お姉ちゃんが3人いる――!!』
夕凪ちゃん。
確かになんとなくみんな同じに見えるのは分かるけど……。
できればこの二人と一緒にしないでほしい……。




