女の子の『あの子可愛いよ』はあてになるのか否か
隣の二階堂さんには変な癖がある。
考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
最初は何かこちらがいけないことをしたのかと思い、ビクビクしていたのだけど、直接話してみると彼女ととても良い人で、壁を叩いてしまうのは単に変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
むしろ面白い。
今日は何を考えているのか……。
一人で考えている彼女の話を聞くと、その話は実におもしろい。
だから、最近では彼女が壁を叩き出すと、お茶に誘って話を聞くことにしており、あたしも夕凪もその時間を楽しみにしている。
どんどんどんどん……
今夜も壁を叩く音がする。
さて今夜はどんな話ができるのだろうか。
残念ながら夕凪は実家へお泊り。でもあたしはゆっくりお話ししたいところ……。
甘いものでも準備してお隣を呼びに行こうかな。
――――――――――
テレビをぼ――っと見ているとあるコメディアンが大きな声でひき笑いをしながらこう言った。
『いや――。女の子の『あの子、可愛いよ』はあてにならんからな――』
ん?
あてにならないのか??
そうなのか??
女同士でも美人というのは見分けがつく。
大抵の美人は目鼻立ちがしっかりしており、スタイルは良く、出るところはでて、くびれているところはくびれており、身長は高くもなければ低くもない程度……こんなところだろうか。
目は一重より二重の方がいいだろう。
これに関しては多くの女性の悩みだ。
あたしの友人の一人などはまつ毛が切れるんじゃないかというぐらいビューラーできつくまつ毛をカールしている上、マスカラもがっつりつけて一重なのをごまかしている。ただ彼女の努力はむなしく……夕方になったらしっかりまつ毛は元に戻っているし、下手をすればマスカラが落ちて目の周りがうっすらパンダみたいになっている時がある。
気持ちは分かるが……やりすぎだ。
本人にもそう言ったのだが……『二階堂ちゃんには分からないのよ。あたしの悩みが』と明るく、しかも倒置法まで使って言われたのでそれ以上は言わないようにしている。
確かにあたしは目は二重でありがたいことにまつ毛も少々長い。
目鼻立ちはしっかりしている方だと思う。
ちょっと濃い顔なのかな?
ぶさいくではないにしてもそこまで美人でもないだろう。
背も低いし……。
てゆうか……これだけ自分の顔やスタイルのことを気にかけて他人のこともしっかりチェックしているのだから女の子の『あの子、可愛いよ』があてにならないわけがない。
そんなことを言うなら男性の『オレ、少しふっくらしてる子の方が好きだから』の方がよっぽどあてにならないではないか。
男性は何をみてふっくらとか言ってるのかよく分からない。
そもそも男性の少しふっくらの基準は非常に疑わしい。
大抵の場合、男性が少しふっくらと言っている場合、それは女性が思っているようなふっくらではなく、スタイルはいいけど胸が大きい場合が少なくない。
しかもそういう事実に男性たちは気づいていない。
『ふざけんなよ……』
そこを行くと女性は他の女性のことをかなりシビアに観察している。
女の観察眼をなめんなよ。
気が付けばあたしは部屋の中をぐるぐると歩き回っていた。
考え事をしている時の悪い癖で、しかも何か思いついた時に独り言を言ってしまう癖も健在なようだ。
本当に自分でも気持ち悪いので辞めたい。
ん?
でもよく考えてみればこれって男性と女性では見るところが違うということではないのだろうか。
女性が同性に求める可愛さを……もしかしたら男性は求めていないのかも……。
だとしたらやっぱりあてにならないのかもしれない。
う――ん。
考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。
どうやらあたしはまたやってしまったらしい。