少し太っている方がいいのか否か
隣の二階堂さんには変な癖がある。
考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
最近では彼女が何かに煮詰まってきて壁を叩き出したら、お茶に誘って話を聞くことにしており、あたしも夕凪もそれを楽しみにしていたりする。
こんこんこんこん……
今夜も壁を叩く音がする。
無意識にも気を使ってくれているのだろうか。
壁を叩く音は最初のものよりも小さくなっている。
4歳になった夕凪はあたしを見る。
あたしは夕凪に言った。
『お姉ちゃん、呼んできてくれる? 甘いものでも食べましょうって』
――――――――――
最近……
太ったような気がする。
てゆうか間違いなく太った……。
怖いから体重計に乗っていないけど……
こういうことはなんとなくわかるのだ。
何がいけなかったのだろうか。
焼肉の食べ放題?
深夜のラーメン?
ケーキバイキング?
うん。
そのすべてだろう。
でも美味しいんだし仕方ないような気がしないでもない。
だけど太るのは嫌だなあ。
あたしは鏡に映る自分を見た
。
まだそんなに太ってはいない……ような気が……しないなあ……。
とりあえずお酒は関係ないと思いたい。
お酒は飲んでもあまり食べなければ大丈夫なはずだ。
いや……そんなことよりもこの太った現実をあたしはどう受け止めればいいのだろうか?
痩せる?
いや……そんな簡単に痩せられるなら苦労はしない。
ちょっと冷静になって考えてみよう。
あたしは考え事をすると部屋をぐるぐると歩く悪い癖がある。
こうやって部屋の中でもぐるぐる歩いているとちょっとは痩せるだろうか。
それよりも……よく考えてみると少しぐらいふっくらしているぐらいの方が可愛いという噂もある。
よく男の人は言うじゃない。
『オレは少しふっくらしてる人の方が好きだよ』って。
体重計に乗ったわけじゃないけど……
てゆうか……そんなに太ってはいないよね……
待て待て……現実を見つめよう。
最近、どう考えても身体が重い。
汗もやたら出るし……
汗か……
身体を動かすのはどうだろう。
運動……
嫌だなあ。
特に走るのは大嫌いだ。
よくジョギングが趣味だと言う人の話を耳にするけど……
あんな目的もなしに走って何が楽しいのだろう。
苦しいだけではないか。
いずれにしても太ったという事実からは目をそらさない方がよさそうだ。
いやいや……ちょっとぐらいふっくらしてた方がいいんでしょ?
最近、グラビアでも少しふっくらしている人が流行ってるって聞いたことあるし。
ん?
でもその人気のあるグラビアの人って言うほど太ってなくない?
てゆうか……なんならすごくスタイルいいんですけど?!
男の人の『ふっくらが好き』はあてにならない……
そんな基本的なことをあたしは忘れていた。
どうする?
走るか?
それともダイエットするか?
どっちも嫌だなあ……。
う――ん……。
煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。
チャイムの音で我に返る。
目の前には部屋の壁。
どうやらあたしはまたやってしまったらしい。
今日はお茶だけ呼ばれて甘いものは遠慮しておこう。