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髪の毛を切ったほうが良いのか否か

 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。

 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。

 最近では彼女が何かに煮詰まってきている時にお茶に誘って話を聞くことをあたしも夕凪(ゆうな)も楽しみにしている。


 どんどんどんどん……


 今夜も壁を叩く音がする。

 4歳になった夕凪(ゆうな)はあたしを見る。

 あたしは夕凪(ゆうな)に言った。

『お姉ちゃん、呼んできてくれる?甘いものでも食べましょうって。』



 ――――――――――



 暑い……。


 夏になるといつもそう思う。


 なんでこんなに無駄に暑いのか。

 ここまで暑くなる必要があるのか。

 そもそもなんで夏と言う季節があるのか。

 夏になんかいいことあるのか。


 強いて夏にいいことがあるとすればそれは生ビールが美味しいということぐらいだ。

 

『暑いから髪の毛切っちゃった。』

 隣の夕凪(ゆうな)ちゃんが朝、あたしに新しい髪型を見せてくれた。

 女の子は幼くても女の子なんだな……とふと思った。


 あ……。


 そうだ。

 あたしも髪の毛を切ろう。

 この中途半端に長い髪の毛が暑さを倍増させているのだ。

 もう少し長ければまとめることができるのだが、今の髪型では『帯に短し、襷に長し』というやつである。


 そんなわけで髪の毛に関しては夏は短くするに限る。

 長ければまとめることができると言ったが……それだって暑いには変わりがない。

 やっぱり短いのが一番だ。


 ただここで重大な問題が生じる。

 

 はたしてあたしにショートカットは似合うのか?


 短くすると変になるかもしれない……という問題。

 変になるかも……


 いや、正確には似合わないわけではない。

 少なくともあたし自身は似合わないとは思わない。

 鏡に映るショートカットの自分を見て『おお。なかなかいいじゃん』と一人で悦に入る始末だ。


 問題は髪の毛をばっさり切った時の周りの反応なのである。

 

『なんかすっきりしたねえ』

『ええ。暑いからばっさりといっちゃいました』

『う――ん……でもなあ』

『え? なんか変ですか?』

『二階堂ちゃんは少し髪が長い方が似合うような気がする』


 大抵こういうことを言うのは男性なのだが……基本的に男性というものは自分たちが髪を伸ばせないものだから髪の長い女子に憧れているだけなのだ。


 てゆうか……この問題は似合うとか似合わないとかの問題ではない。


 とにかく髪の毛を切らないと暑い。

 命にかかわる……ような気がする。


 男性はこういうことを悩まないというのがうらやましくて仕方ない。

 とにかく女子にはこの手の悩みが多いような気がする。

 実にくだらない。

 そもそも自分の髪が長かろうと短かろうと他人にとやかく言われることではない。

 それに口ではなんか言ってもそれは社交辞令で本当の意味では誰も気にしていないのだ。


 いや……本当に社交辞令なのか?

 誰か気にする人は本当にいないのか??

 

 もし髪の毛が長い方がいろんな意味で得するというようなことがあっても……

 あたしには、この暑さは耐えられないような気がする。


 ふと…鏡を見てみる。

 あたしの顔が映っている。


 やっぱり中途半端に長い。


 気が付けばあたしは部屋の中をぐるぐると歩き回っていた。

 考え事をするときのあたしの悪い癖だ。


『短い方がいいと思うんだけどなあ……』

 誰もいないのに何かを思いついた時に独り言を言ってしまうのも悪い癖だ。

 自分でやっているにもかかわらず、ちょっと気持ち悪い。


 煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。


 チャイムの音で我に返る。

 目の前には部屋の壁。


 どうやらあたしはまたやってしまったらしい。

 いつか髪の毛が伸びた時のために買っておいたヘアゴムをお隣の小さな彼女にあげることにしよう。

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