南へ
「あぁそう」
珠美の一言に空気が凍った。
この雰囲気は……
「少しは変わったかと思ったけどやっぱりあんたは昔のままね」
やはり。
スキルが解けている。
「私はいいけど緋奈に関しては許せない。私は緋奈を探しに行く」
「ま、まて。お前。スキルもなしにどうするんだ」
珠美は立ち止まった、そうだ。
スキルもなしに行動できるわけないさ。
「スキルがあったってね……行動しなきゃ意味ないわよ」
珠美は再び歩き出す。
「お、おい。珠美」
「呼ばないで、もうあんたの奴隷じゃないんだから。それと今まで悪かったわね」
歩いて行ってしまう。
それを俺は呆然と見送るばかりだった。
「緋奈、どこに行ったの」
私は走っていた、目的はあるが場所はわからない。
出会う敵を片っ端から殴りつつその先へ。
敵の多いところへ。
「んー、おー。お前も転移者か。目的の天魔さんとは違うが遊んでやるよ」
当然こういう強敵に出会うのも想定内だ。
「ここら辺では三鬼と呼ばれている、俺は剛鬼。よろしくな」
恐らくみかけで判断するにオークの魔族だろう。
隆々とした筋肉と人間離れした体躯、その見た目に似合う大木を肩にかけている。
「はーはー、じゃあ。いくぜ!」
いきなり大木を横薙ぎに振ってきた。
避けられない速度ではない、飛び上がり回避する。
が。
「な!?きゃあ!」
すぐに張り手が飛んできた、空中で身動きが取れずまともに食らってしまう。
ふらふらする、そこに追い打ちをかけるように大木が迫る。
今度は受け止めようとしたが腕力では敵わず吹っ飛ばされる。
「くっ!」
「お前、よわいなぁ」
私じゃどうしようもない突破方がないのだ。
「弱すぎるぞ」
真上からの叩きつけに避けるも足で蹴飛ばされた。
そのまま私は気を失ってしまった。
「ルヴィ」
「はい?」
なぜか逃げないルヴィに俺は問いかける。
「なんで残っているんだ?こんな全てを失った人間を見るのが楽しいからか?」
「言ったじゃないですか」
ルヴィは何を今更という感じで話し出す。
「私は勝つ方に賭けるんです。剣牙、私はまだ貴方が勝てると信じています」
ルヴィの目は嘘をついていなかった。
「それに剣牙のアレまだもらってないから、ですね」
といたずらっぽく微笑むのだった。
「実際どうするか、『マッピング』がなければ周囲の状況も掴めない」
加賀美に頼りっぱなしだったとつくづく痛感する。
「それなら少しお待ちください……」
ルヴィがそう言って目を瞑る。
「なるほど」
「どうしたんだ?」
「今周辺のコウモリの会話を聞きました。サキュバスですのでコウモリのことも多少わかるんですよ」
「それでコウモリはなんて言ってるんだ?」
ルヴィは少し顔を伏せた。
「それが。ここから南で儀式の準備が進められているもようです」
「儀式ってなんのだ!?」
嫌な予感がする。
「えぇ、古き神の復活の儀式みたいです」
古き神、それの復活条件……!
「察しがつきましたか、生贄にされようとしているのは緋奈さんと珠美さんです。」
「急ぐぞ!」
俺は正確な場所も聞かずに南に向かって走り始めた。
「剣牙待ってください!」
ルヴィも慌てて飛んで追ってくる。
もうこれ以上なにも奪われてたまるか……!
なにがあろうと2人を取り戻してみせる!