喪失
詰所を突破して数分。
この先は戦闘は避けられないようだ。
「さらに多くの敵がこの先にいます!」
『マッピング』スキルで加賀美が知らせてくれる。
「厄介だな……あの娘」
三鬼の1人、智鬼と呼ばれるものがその光景を眺めていた。
「待ってください……これは投擲物!?」
「みんな避けろ!」
ルヴィを引っ張り守るように抱きしめる。
「ふぁぁ……」
耳元で甘い声出すんじゃねえよ。
「ぐぅっ!」
加賀美と珠美は上手いこと避けたようだが庇った俺はそうもいかない。
飛んできた石が背中に当たる、ダメージは大きくなくとも数が多い。
このままだと俺の体力が先に尽きる。
「ご主人様、進言してもよろしいでしょうか」
「なんだ?」
加賀美が珍しく意見を言ってきた。
「私が先行して敵を殲滅してきます」
「ダメだ」
「いえ行きます!ご主人様の命の方が大事なんです!」
くそ!役に立たないスキルだ……
「ルヴィ、珠ちゃん。ご主人様のこと頼んだよ」
そう言うと加賀美は走って行ってしまった。
確かにこのまま進行するよりは加賀美が単身で行く方が早い。
しかしあの数だ、加賀美もただでは済まないだろう。
やってしまった。
ご主人様にあんなことを言ってしまうとは。
後悔の念もあるが今はただひた走る。
『マッピング』を見つつ投擲物を避けながら。
幸い投擲物は私に集中している。
これでご主人様達は安全だろう。
そして辿り着いた敵の目前。
『マッピング』でも数え切れないほどの敵がいる。
「おや?貴女1人ですか?」
少し上にいるやつが話しかけてくる。
「ふふふ……バカですね。私が智鬼と呼ばれている理由をお教えしましょう。敵の陣地に1人で現れる転移者を何人もいただきました」
不敵な笑みを浮かべる相手、軍勢はまだ襲いかかってこない。
「来ないならこっちから行きます!」
一歩踏み出した所で。
「えっ、きゃあ!」
地面が消えた。
「みんな引っかかるんですよね……私の魔法」
上から声が聞こえたがそのまま私の意識は闇に沈んだ。
加賀美が消えて数分。
西に進んでルヴィに偵察に出てもらったりしたがさっきまでいた軍勢が嘘のように消えた。
「加賀美……どこだよ」
「……ご主人様」
珠美は心配そうに見つめている、だが。
「敵はいなくなった、このまま西に行く。加賀美は……諦める」
「そんな……!」
「珠美!お前も忘れるな!言うことを聞かない奴隷がどうなるかを!」