転移者とは
哀田剣牙……クラスで一番でありながらなにももたなかった者。
「そもそも哀田はなぜ俺たちのクラスだったんだろうか」
響がポツリと呟く。
「なぜってなに?」
ミシェルは当然訳を聞く。
「あいつは出席番号だけだが1番だった。しかしアイツ自体は大したことないというか、そもそも俺たちのクラスがおかしいんだ」
「それは同感」
なぜかクラスには各部や各委員会などの有名人が揃っている。
「偶然にしては出来過ぎていないか……?」
「今さらそんなこと考えてもねー。とりあえず今は情報収集の方が先でしょ」
ミシェルの言葉に考えすぎかと響は思考を切り替えた。
「エルでいいのですか?」
「あぁ、この世界のことを教えてほしい」
響はまずエルから情報を集めようとしていた。
恐らくエルは5歳くらいだが。
フードを目深に被りもじもじとだがエルは喋り始めた。
「えぇっと、そうですね。この地のむかしばなしでもいいですか?」
「聞かせてくれ」
この世界には女神と魔王がいた。
お互いが世界を統べようと絶えず争っていた。
女神は人、魔王は魔物を使って。
人と魔物、その力の差は大きく人間は非常に困難な戦いを強いられていた。
そこに女神は1人の人間を連れてきた。
その者は如何なる攻撃にも耐え如何なる守りも貫きそして魔をも使役していた。
その者は転移者。
転移者は魔王をも滅ぼしこの世に平穏をもたらしたのである。
「ですので転移者様はいつどこでもかんげいされるのです」
よくある話だ。世界の成り立ちと英雄譚。
「うーん」
響は望む情報が得られなかったので唸った。
「具体的にもうしますとですね。この村しゅうへんの魔物のレベルが10くらいです」
エルは期待に応えようと話を続ける。
「王都の騎士様がレベル60から100くらいなんです。つまり響さんは人間相手の一対一ならほぼ負けることはないんです!」
「ということは魔物はそうはいかないのか」
「魔物は九降天魔という魔王のかんぶがいますがその9体は120より上だと言われています」
エルの話す姿はとてもさまになっていて見た目より大人びて見えた。
「この世界には魔法とか超常現象の類はあるのか?」
「えぇっとこうしゃはどういうことかわかりませんが、魔法は存在します。主に扱えるのは王族とエルフと一部の騎士様にかぎりますが」
響はスキルの関係で遠距離に強くない。
だから魔法がないことを願っていたのだが、それは叶わなかったらしい。
「わかった、ありがとう……それはそうとしてマイケル!お前聞いてねえな!」
隣でイビキをかいているミシェルを響が叩き起こす。
「ふにゃ!え、えびてんどん?」
「お前なぁ……」
「あはは……」
「なんで俺ばっかり……あ、すいません。ちょっとお聞きしたいんですが」
ミシェルは魅了のせいで迂闊に人前に出られないので響が聞くことになった。
「ん?あぁその服。転移者様でしたか」
制服のことを言っているんだろうと響は推測する。
哀田がなにをしたのかよくわからないが俺たちは俺たちで進まないといけないと響は考えていた。
目標は王都だ。
「えっと、王都への道を知りたくて」
「王都?今行くのは難しいな……ここから王都に行くにゃ北へ進むのが1番だがここから北の道は魔王軍に占拠されてるんだ。南の町で船を待った方がいい」
「南の町ですね、ありがとうございます!」
響はお礼を言って去ろうとしたが。
「あぁちょっと待ってくれ。君たち哀田って転移者様は知ってるかな」
「えぇ、一応」
「会ったらでいいからさ。俺たちが感謝してたって伝えてくれないか。たぶんあの人はもう帰ってこないだろうから」
特に義理はないが響は。
「わかりました、必ず伝えます」
そう答えていた。
「マイケル、エル。行こうか」
次にこの3人に待ち受けるものとは。