姫と騎士と……
夜、どうにか知識をフル稼働してつけた火も魅了のスキルの前では用をなさなかった。
火を取り囲むように光る目、そして唸り声。
中心にはスヤスヤと寝息をたてるミシェルとそれを守る響。
「俺が寝てからどうにかしようって思ってんなら無駄だよ」
魔物に言葉が通じるわけでもないのに響は言う。
「俺さ、約束は守るタイプなんだよね」
ミシェルが寝るから守ってと言ったのだ。
その言葉を皮切りに周囲を取り囲んでいた魔物が一斉に飛び出した。
ゴブリンにウルフにオークにワラワラと。
「雑魚が何体いようが問題ないんだよね!」
ここら辺の森の魔物はよくてレベル10くらい。
レベル100を越える響には数の問題ではない。
響の構えはいつもの左手をこめかみの辺り右を顎にあてたカウンター狙いの構えだ。
後ろに焚き火があるとはいえ敵が襲ってくる角度は270度はあるだろう。
真っ正面から殴りかかってきたゴブリンを難なくかわしカウンター。
その隙を縫って抜けようとしたウルフの正面に回りむ。
ウルフは少し怯んだがすぐさま突っ込んでくる。
「何がこようとも!」
響の拳はウルフの食らいつかんと広げた顎ごと叩き割る!
そしてこの日始めて響は構えを変えた。
左手を垂らしブンブンと鞭のようにしなるフリッカージャブ。
本来響はカウンターパンチャーではない。
スキルに付随する必ず相手の攻撃を躱しカウンターを叩き込めるというスキルは臆病である響が考えついたもので本来はヒットマンスタイルなのだ。
「こっからはトップギアで行こうぜ……!」
フリッカーをつかい相手が攻めてきてもこれ以上踏み込めないようにする。
魔物にとっては掠るだけでも脅威のその拳がとんでもない速さで迫ってくるのだ。
囲んでいた魔物はみるみるうちに数を減らし残りは一体になった。
「最後のやつもこいよ!いるんだろ?」
声に応えたのか最後の一体……いや一人が姿をあらわす。
「や、やめて!ぶたないで!」
出てきたのはフードをかぶった小さい女の子だった。歳は5歳かそこらか。
「子供がどうしてここに……お前、名前は?」
「……エル」
エルと名乗った少女は未だに構えを解かない響を前に硬直している。
「んー!よく寝たー!響、サンキューね」
そこにミシェルが起きてきた。
「あ」
めんどくさいことになると響は直感した。
「ん?きゃー!可愛い!」
ミシェルはエルに抱きついた。
「貴女なんて名前?どこからきたの?おかあさんは?わたしのこどもにならない?」
「んーんー」
むちゃくちゃにされてるエルを見て響は察した。
「なるほどねーエルちゃん迷子なんだー」
「えーとはい、そうなんです」
ミシェルはエルを膝の上にのせて頭を撫でている。
「んー響」
「わかった」
二つ返事で了承する響。
「えーまだなにもいってないじゃない?」
「私たちでエルちゃんの両親を探しに行こうよ!だろ?」
そう響がいうとミシェルは笑顔で頷いた。
そして今に至る。
森を抜けるまでにミシェルに群がる魔物を全て蹴散らしてエルのことも気にかけていた響はヘトヘトというわけだ。
「あぁ……水ね。そこの井戸水でよければ好きなだけ飲むといいよ」
村人は意気消沈と言った感じだった。
「ありがとうございます!ほら響、エルちゃん行くよ!」
2人を引きずっていくミシェル。
「なんだかここの村しずかですね」
エルはこの夜ですっかり2人と打ち解けたようだ。
「とりあえずさ、腹減ったよ……」
響は腹ペコだった。
「ふー食った食った」
「おいしかったね」
3人が食事を済ませた頃村は慌ただしくなっていた。
「それは本当か!?」
「先遣隊を向かわせよう!」
驚きと喜びに満ちた声がそこら彼処から聞こえる
「なにかあったみたい」
「私聞いてくるね!」
ミシェルが近くの村人を捕まえて話をしている。
そして首を傾げながら帰ってきた。
「なんかねー魔物に占領されてた鉱山を転移者が開放したらしいんだけどその人が問題でね」
「哀田君らしいんだよね。彼、そんなことするような人だったかなー?」