9 玉石
「やはりお知りでしたか」
箱船は微笑んだ。「珍しい同士ですね」
先を行く茜は自分の足下に注意を払いながら進みつつ尋ねる。。
「箱船さんは、どこでそのことを知ったんですか。私、公立や大学の図書館をいろいろ回って探したんですけど、羅生村――いえ、『子喰村』についての記述は見つからなくて」
「本で読んだんですよ。『日本・都市伝説のすべて』というムック本です」
「は……? ムック本?」
がくんと顎が落ちる茜。
「コンビニでワンコインで売っているような本です。もちろん図書館になど入っていないはずですよ」
「嘘でしょ? 何十冊も文献に当たったのに。民俗学についての専門書も一通り目を通したんですよ? まさか……そんな……」
落胆しきる茜。一定のリズムで上下する靴の残像が小刻みに震える。
「そういうチープで大衆向けの書籍にしか載らない情報というのもあるのですよ。専門書や論文の類だと、必ず参考文献の明示が必要となります。正確性を担保するには当然ですが、その対価として伝聞や風評、権威を持たない者の書いた文章等が記録されず散逸してしまいやすい。あのムック本の編集者が噂話程度でもこの村のことを耳にし、真実かどうかはさておき一を十に、百にする形で記事にしたのでしょう」
「……そこには、どんなことが書かれていたんですか」
すると箱船は中空を見上げ、手元にないムック本の文章を諳んじるように話し始めた――。