7 弱点
「しかし、あそこまで露骨に敵意を向けられるとは。流石羅生村の門番、といったところです」
「どうしてあんな急に怒ったんでしょう」
茜が疑問を呈すと、箱船は即座に返した。
「私が知りすぎていたからですよ。そしてそれはきっと、あなたも同様でしょう」
※※※
「では、今度こそ村に向かいましょうか」
と、歩き出す箱船。
今度は茜が動かない。あっけにとられた様子で箱船の背中をじっと見つめるのみである。
「あれ、どうしました?」
「……やっぱり駅へ戻るんですか」
「どういうことです」
茜と出会って初めて、箱船は少々の動じた様子を見せた。
「どういうことも何も、村はあっちでしょう?」
茜は箱船の向かう先と真逆を指差した。
すると箱船はびくりと身体を跳ねさせる。
そして恐る恐る口を開く。
「本当ですか」
「え?」
「私が向かおうとしたこちらが、駅への方角だということですよ。まさか、私をからかってなどいませんよね」
「そんな。からかってるのは箱船さんじゃないですか。何を変なこと言ってるんですか」
「……そうですか」と、箱船は声のトーンを落とし、「実は私、極度の方向音痴でして。自分がどこから来たか、どこへ向かうべきなのか、すぐに分からなくなってしまうんですよ。最近は多少良くなってきたかと思っていたんですが……」
微笑みが苦笑へと変化していた。
軽口を叩こうとした茜の口許が固まる。苦笑の奥に垣間見えた何物かによって――。
「箱船さん」
何故か急に心に胸騒ぎを覚える茜。
しかし箱船は首を振っていつもの笑顔を取り戻した。
「あなたと一緒に羅生村へ向かうことになって幸いでした。今回の旅はどうやら迷わずに済みそうです」
そしてしなやかに手を前へと差し伸ばした。
茜は素直にそれに従い、彼の前を歩くことにする。
大丈夫、駅前にあった地図はまだ私の頭の中に残ってるよ。