4 役場
茜に気を遣ったのか、以降箱船は彼女と横に並んで歩いた。
言動は変人のそれだけど、根が悪い人ではなさそうだ、と茜は内心胸を撫で下ろす。
やがて二人はこの地に来て初めて出くわした建物の前に立った。かなり年期を感じさせる木造の平屋建てで、屋根瓦にはところどころにヒビや浮いた部分がある。
そして両開きの扉の横には『羅生村役場』と薄れかけた筆字の看板が掲げられている。
「意外と距離がありましたね。あの地図、思ったより縮尺が小さかったようだ」
「……なんだか、役場らしくないです。こんな村の外れみたいなところにあるし」
「それは当然ですよ」
「え?」
聞き返した茜を尻目に、箱船は役場の飾り気ない扉を押し開けた。茜も慌てて追い掛ける。
からん、と擦れたような鐘が鳴る。
扉の奥にはすぐ部屋があって、目の前にカウンター机が設けられ部屋を半分に区切っていた。
人はいなかった。カウンターの奥にも扉があっても半開きになっている。
二人はしばらく待った。が、誰かが現われる気配はない。
茜は首を傾げる。
「いないんですかね」
「そんなはずはありません。もう少し待ってみましょう」
そして更に数分後。
「やっぱりいないみたいですよ。出直した方が――」
「いやいや、すみませんすみません、まったく気づきませんでして」
茜が根負けしかけたのと同時に、カウンターの奥から男が姿を現した。五十代近くの中年で丸々とした体型をしている。服装は、役場の人間には思えないラフな格好だった。