表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

3 箱船

 身軽な格好のせいか、男の歩みは速かった。着いていくのに必死な女にはお構いなしである。同行を申し出た手前、女の方から待ってくれと頼むわけにもいかなかった。


「……お、お名前は何というんですか」


 苦肉の策で話し掛けてみる。

 男は振り返りもしなかった。


「申し訳ありません。あまり他人に名前は教えないことにしていまして」

「では、なんとお呼びすればいいですか」

「箱船と名乗ることにしています。箱船は苗字で、下の名は虚」

「箱船……さん」


 奇妙な響きだった。たしかに本名では有り得ない名前のようだ。

 ノアの方舟になぞらえたのだろうか、と女は思った。

 結局、箱船の足は緩まなかった。むしろ喋ったせいで息が上がり更に歩くのが辛くなるという始末。

 仕方なく二の矢を放ってみる。


「私は……柊木……茜って……言い……ます」


 途切れ途切れかつ小声となってしまった。


「え? すみません、聞き取れませんでした」


 と、そこでようやく箱船は歩みを止めて振り返った。


「柊木茜です!」


 最後の一息を込めて茜は全力で声を張り上げる。

 交錯する視線。短い沈黙。


「すみません、歩くのが速いなら言ってくだされば良かったのに、柊木さん」


 箱船は少しだけ困ったように眉をひそめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ