2 出立
「奇偶ですね。同じ電車にもうひとり乗っていたとは」
虚空に向かって声を張り上げる男。すると、彼の背後でたたらを踏むような音がした。
そこに立っていたのは、二十代後半といったところの女だった。男とは対照的に季節に似つかわしくなく露出のまったくない服装で、手には旅行用のキャリーバッグを引っかけている。
女は幾分か顔を青ざめていた。
「ま、まったく気づきませんでした。私以外に乗客がいたなんて」
「同感です」
「確認したんです、私。すべての車両を。誰も乗っていなかったし、途中の駅で乗ってくる人もいなかった」
「そんなこともあるのでしょう」
と、男はさらりと言ってのけた。どうでもいいといったような口調だった。
「では、私はこれで」
「待ってください!」
無人の改札口へと去りかけた男を必死な形相で呼び止める女。
「なんでしょう」
「これから、こ……羅生村へ向かうんですよね? お願いします、私もご同行させてください!」
男はゆっくりと女の方を振り返った。意外そうな表情を顔に浮かべていた。
「どうしてでしょう」
「駄目ですか」
女は縋るような目つきとなった。それを見て、フッと笑みを浮かべる男。
「構いません。けれど、私は村に向かう前に」と、目の前にあった案内看板へ顎をしゃくり上げた。「寄るところがありますので、それでもよろしければ」
「分かりました。大丈夫です、時間はいくらでもあるので」
即答。
男は苦笑した。
「いいでしょう。旅は道連れと言いますからね。この辺境の村に、同じタイミングで二人の訪問者が現われる、この奇跡にあやかることとしましょう」
そして、二人の旅は始まった。