森林の中のスキャム
目が覚めた時、自分が誰なのかわからなかった。
記憶にない場所、風景、なぜここで寝ていたのかさえもわからなかった。
気温が高いことから季節が夏だと言うことは感づいていた。
「う、喉が渇いた、」
普通ならそこら辺の自動販売機などで飲み物も買う様な状況だが無常にも自動販売機もコンビニも見当たらない。それどころかお金も無ければ財布ももっていない。
一体自分が何者でどう言った目的でここに寝ていたのか、、
フラフラ歩いているともう日が暮れそうになっていた。
歩いて来た道をふと見返すと自分はどうやら山道を下っていたらしい、
ただ水を求めて歩いていたがついに川を見つけた。
思わずテンションが上がり服のまま飛び込んでしまった。
ひと時経ち我に帰ると、やはり自分が何者なのかと考える。
喉の乾きも収まり、陸に戻ると日が暮れていた。
「もう今日はここで寝るしかないな」
そう呟くと私は直ぐに寝てしまった。
朝。眼が覚めると昨日と変わらない風景が広がっていた。
記憶が無い自分だ、目的も何も無かった。
ただ漠然と歩き出し山を下った。
これまでまだ人と会っていない。
それもそのはず、自分が初めて気づいた場所は山のほぼ頂上だったのだ。
「人と出会えるまで後何日歩けばいいのか」
何てことを呟きながら歩いていた。
そして夕暮れ。川沿いを出来るだけ進んで来たので飲み物には困らなかったが、食料は一切無い。
そんな中私は取り乱したりせずただ無心に目を閉じた。
次の日彼に転機が訪れる。
朝起きると人の声がした。
数人で近くを話しながら歩いている様だった。
急いで声のする方に進んで行くと、山登りをしに来たと思われる若い女が3人で歩いてるのが見えた。
とは言え、自分が気がついてから2日も何も食べていない、女の所まで中々追いつけず、空腹に満ちた身体からは大声で叫ぶ事も出来なかった。
足がもつれ勢いよく転けた私はその場で仰向けになり半端諦めかけた。
人間は個人差があるものの3日は何も食べなくても衰弱までには至らないと何となく覚えていた。
つまり私は目覚める前から数日は何も食べてなかったという事みたいだ、
そんな分析も虚しく、女達は私に気付かずに山を登って行った。
意識が朦朧とした、起きているのか気を失っているかの狭間で山道で横たわっている私、いつかあの女達が山から降りて来るのを待つしかなかった。
すると、足元の方から声がした。
「大丈夫ですか!?」
「何があったんですか?」
そんな声が聞こえた。
ついに人に会えた。 そんな喜びと言うかこれで助かるという安心感から来るもので私の心が満ちていた。
もう声も出ないが、2人の女は察してくれたのか、飲み物と非常食の乾パンを食べさせてくれた。
介抱が始まって1時間は過ぎただろうか。
全く声も出せない状況から小声ではあるが喋られるようになった。
「ありがとう、もう死ぬ間際だった、あなた達は命の恩人です。」
思わず出たセリフがこれだった。
「気にしないで下さい。」
「私達は当たり前の事を、」
向こうも安心したように落ち着いて喋っていた。
しかし問題はここから、まず自分が誰で今ここはどこだという事を確認しなけれはならない。
「すみません、実は自分が何者かわからず、ここがどこだかわからないんです。」
端的に話す私。
「記憶喪失!?」
2人声を合わせて言った。
自分にはピンと来なかった、
記憶喪失と言われても実感もないわけで、失ったと言うか初めからなかったという感覚がしたからだ。
「あの、名前も思い出せないんですか?」
「う、うん。何も思い出せなくて、分かっているのは気がついた後の事しか、、」
「もし、あなたが良ければこのまま登山について来てもいいんだけど?」
「いやいや、ここは下山させて警察に連れてくべきだよ。」
そんな2人の言い合いが続いた。
正直自分にはどちらでも良かった。
どっちみちここから下山して警察に行ったところでろくな結果は待ってなさそうだったからだ。
こんな山奥、山頂付近で倒れていた自分だ、大方自殺だったりを目的に山を登ったに違いない。
はあー、
「自分はどっちかって言うと山登りに着いて行きたいけど、」
「ほら!wやっぱ私の行った通り行きたいんだw」
「警察に行った方がいいと思うけどね〜、」
「またそんなこと言っちゃって」
「まあもし貴方が警察に行きたくなったら登山の後に行ったらいいんじゃない?」
「みんなで連れてくから!」
「みんな?他にも誰かいるの?」
「あ、言い忘れてたけど、私達よりも先に3人先行して登ってる友達がいるの。」
あーさっき気付かれもしなかったあの3人の女の子か。
「よし!じゃあ登ろっか! 肩貸そうか?」
「いや、大丈夫。 随分良くなったから」
「そっか きつくなったら言ってね。」
そう言うと俺たち3人は歩き出した。
それからの山道、2人のことを色々聞いた。
彼女達は専門学校でクラスが同じの友達で、1度でいいから山登りをして見たかったらしく今日登りに来たらしい。
今は2年生で20歳になったばかりだと言っていた。
現在住んでる場所はそこそこ近いみたいだが、地元は皆んなバラバラらしい。
聞くところによると、最近では若い女性の中で山登りは流行ってるらしく、女性だけで登りに来るのも以外に普通らしい。
個人的には危ない気がするけど、、
「流石に追いつけないね〜 もう疲れたよ、なんであの3人元気なの?」
いかにも山登りには向いてなさそうな見た目の派手なこの子が縁【ゆかり】が言った。
「美香は高校生まで陸上やってたって言ってたしね、他も何かしてたらしいけど忘れた。」
この子は加奈【かな】
大人しそうな子で、部活もたぶんインドアな部活だったんだろうと思わせる雰囲気だった。
「美香って子はさっきの3人の中の誰かなの?」
わかってるくせに聞いてみる。
「そうそう。1番スタイル良くてスラーっとしてる子!わかんないかw」
「そ、そうね、後ろ姿を遠目で見ただけだしわからん、」
「まあ会ったらわかるよw」
縁が言うと、遮る様に加奈が言う。
「あの子モテるみたいだけどかなりピュアだから惚れても無駄よ?-_-b」
別に惚れんし、と言うかそんな状況でもないしなぁ。
「そう言えば名前は?」
縁が聞いてきた。
「名前って、覚えてないよ、」
「そっか、名前も思い出せないんだ、財布も何も持ってないんだよね?」
「うん、だからどこに住んでたのかもわからないんだ。」
そういう俺の散策で話が進み頂上が見えてきた。
「あー、やっとついたーー、?」
「ついたついたw そんなにもうあるきたくないの?w」
「そりゃもう、だって登り始めて2時間以上経ってるよ?」
「さっき彼の相手してる時に休んだじゃない」
「そうだけど疲れたもんは疲れたのーーー」
「まあまあ、もう着いたんだからその辺にしよ?」
「んー、あなた加奈の味方してなーい?-_-」
「気のせいだよw、あ!友達いたよw」
「話晒すなよ、」
少し離れた頃にいた3人が手を振っていた。
美香って子はどれかな? モデル体型・・・気になる!
「おーい縁ー!」
3人の中の1人が呼びながら歩いてきた。
もしかしてこれが美香か!? んなわけねーか。
なかなかにガッチリした体格だ、、、
「若菜、よく平気だったねあの2人と一緒で、私なんかもうバテバテで、、」
「あんたらが体力なさすぎなんよw」
「んで、その人誰?」
やっぱり言ってきた、そりゃそうだ、急に見ず知らずの男と一緒にいたら誰でも聞くよなぁ、よし!
「こ、こんにちは、初めまして。僕は、」
「待って、私が説明するよ!あなたからじゃ言いにくいでしょ?」
加奈が言った。
「彼は登ってる途中で倒れてたの、」
「そう、それで介抱して目が覚めたら記憶がないって言うのよ。 だから1人にするわけにも行かなくて連れて来たの。」
「なるほどね。ねー君どうなの?本当に記憶がないの?こんな山奥に1人で倒れてるなんておかしくない?」
若菜が疑い深そうに聞いた。
「ないよ。自分でもわからないんだ、名前も顔も思い出せなくて。」
「こりゃ重症ね。山降りたら警察に届けた方がいいね。」
「待ってよ、今回のこの登山は二泊はする予定でしょ?」
離れていた女の子2人が来た。
この2人はツートップで可愛い、、いやマジで、
「別に誰かに会う訳でもないから着いて来るのはいいけどね私は」
ショートの可愛系の娘が言った。
「真実がそう言うならいいけど、」
どうやらこの真実って娘がリーダー的らしい。
「いいの?俺、着いて行っても」
「いいよ。実際初めての登山で女の子だけが不安なのはあったから。」
少しは頼られる感じになってるのか、よかった。とりあえずは数日は大丈夫そうだ。1人でいたら飯もロクに食えなかったしな。
「ありがとう、このまま1人でいたら多分死んでたかもだったから、」
少し涙が滲んできた。
「なに不安そうにしてんの!wもう私達がいるじゃないw」
「うん。ホントありがとう。」
「よし!ならテント貼ろうか!」
真実が言った。
「先に貼って待ってるのかと思ったのに、、」
縁がブー垂れてるw
中々可愛いなw
てか今思うとこの5人はレベル高いな、、、1人以外は。 勿論若菜だが。
「いやいや、それより先に決めておかないといけないかことあるんじゃない?」
加奈が真面目な顔して言った。
「彼の名前決めなきゃ」
みんな確かに!みたいな顔した。
「俺の名前???どうやって決めんの?」
「そりゃ顔の特徴とかで決めないとw」
「俺の顔特徴あるの?」
「そっか携帯もないもんね、待って、カメラあるから。」
スマホを取り出して縁が見せてきた。
「どう?wこんな顔w結構可愛い顔してるけどねw」
「これが俺の顔か。初めて見た。」
「いや初めてじゃねーからw」
真実が言う。
「いや初めてってことにしといてw」
「初めて笑顔出たね。良かったよ、元気出てきたんだね。」
加奈がホッとした感じで言ってきた。
「うんwみんなのおかげで気持ちが楽になった。
やっぱり人と話すと違うねw」
「可愛い娘もいるしねーw」
縁が言う。
「そうねw確かにみんな可愛いよね、俺もそう思う」1人意外は、、笑
「よし!じゃあテント張るよ!ほら手伝って!」
「あ、うんでも俺テントで寝ていいの?」
「全然いいよ!あwもう誰かと隣で寝れるとか想像してるのー?w」
「いやそうじゃないけど」
おい若菜、お前に言われると何故か腹が立つぞ?
「ほら、さっさと張る!初日からこれじゃ後が辛いよー?」
ありがとう、真美さんならどれだけ叱られてもいいや
テントが張り終わり、飯はカレーを食べた。
そして日は沈み夜になるとそろそろ寝るかぁと真美が言ったところで、皆んなテントに入った。
俺は真美と同じテントだ、、、よっしゃ!
テント中で二人でうつ伏せでいると、
「そー言えば名前が分からないんだよね、結局決めてないから」
「そーだね、明日考えようかな」
「うん、記憶戻るといいね」
「そーだけど、少し怖いな、山頂で倒れてた何て普通じゃないし、もしかしたら自殺でも考えてたのかもって思えて」
「そ、そんな暗いこと言うから怖くなるんだよw」
「でも、」
「大丈夫だって!きっと友達と登山に来て逸れちゃったんだよ!」
気を使ってくれてるのがわかる。申し訳ない。
「ありがとうね、真美」
「い、いいよ別にw」
「ホントありがと!ならもう寝ようか」
「あ、そうだよねw寝るよねもう。」
「うん!おやすみー!」
「おやすみ。」