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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
一章 鮮やかなる国 ブライト
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第一章 第五十三話 予測可能回避不能

 走る、走る。

 慣れない高速の酸素補給に、性能限界だと警告を鳴らす心臓を無視し、とにかく足を動かす。

 しんどくても、キツくても、急いでる皆の足を引っ張りたくない、迷惑をかけたくない。


「ぜっ、ぜえ。う。ごほっ!」

「無理すんな。昔っから体力無いだろ?」

「けふっ……。そうも、行かないだろ」

「認めるがよ、あくまで確認だ。焦んなって」

「そう、言われても、なあ……」


 焦るなと言われても。

 ホットウッドの異変を鎮静化し代償でびしょ濡れになった服を替えに帰ろうととしたら、そのホットウッドが採れた南の森で木々から見える程の爆発。

 さらにこれを見たサナが、般若の如くのしかめ面で南の森へアノマリー・クイックを付与した上で飛び出していったのだ。


「焦らない訳ない。サナを見失ったんだ……!」

「普段より火の魔力が強まっていた傾向はあったけど、爆発の予兆だったのかな」

「んっ? 何で健助はそんなの知ってるんだ」

「ギルドの調査依頼です。最も爆発が起こった以上さらなる調査が必要でしょうけど」


 なんて「仕事が増えましたよ」と苦笑する。

 確かにこの規模の爆発に、タイミングがあった以上再調査は必須だ。可哀想に。

 まあ爆発の現場に向かったサナと行く場所が一致するから、こちらとしては助かるけど。


「どちらにせよもう森です。元々入り組んでいる上あんな爆発が起こった以上、慎重に行かないと」

「まあ、その通りだよ」


 理性的に考えれば、ぐうの音も出ない。

 健助の発言通り、もう森の入り口の前に立っている。それに加えてサナには神様すら目をつける力がある以上、ここまでならまだしもここからは焦る必要は無いではなく、焦ってはならない。


「じゃあ森に入ります。僕達は先ず爆心地を目指そうと思ってるんですが、拓真さんは?」

「ボク達もそこかな。サナが向かう先はそこ以外あり得ないはずだ」

「では僕が能力で爆心地へ先導します。皆さん付いてきてください!」


 ステータス閲覧は、物の状態を見られる能力。そこには魔力も含まれるはずだから、爆心地やサナに近づく程その場に残った魔力を調べられるから先導役にはピッタリだな。

 そんな風に一人で合点しながら、能力発揮の影響か心無し顔付きが険しくなった健助の後に付いて、森の中へ入って行った。



「——皆様。この森の変化にお気付きですか?」

「同意するぜ。不気味さが薄れてる気がする」

「さっきの調査時より火の魔力が多い……」



 森に入って入り口も見えなくなった頃。

 感じ取れはしたものの、僅かに感じる程度なせいで誰も言及しないのを察してかマサコさんが口火を切ってくれた。

 勿論俺も気付いている。この森、前までは薄ら寒かったのに、今は草原と同じ。否むしろ草原より暖かかく感じる程空気感が違うのだ。


「本来木や草花は日の光以外で火の魔力を持つ等有り得ぬはず。にも関わらずこれは……!」

「んん……。そんなに、かあ?」


 辺りの様々な植物を観察し、その度眉間に皺を寄せ黒髪を振り乱す。

 ここに来るまでの間、顔付き一つ変えず落ち着いていたけど、急にこれだ。エルフは自然の変化に敏感なのだろうか。


「失礼します」

「へっ?」


 なんて一人合点した時。

 背後に殺気。

 瞬きの間に。

 マサコのさんの声。

 振り返る間も無い。

 問いかける暇もない。

 防御を——!



「はあっ!」

〈ボギグッ……〉

「えっ?」


 えっ。

 何今の。ゴブリンの悲鳴?

 うっ、血の臭いがする……。

 じゃあつまりマサコさんは。


「お怪我ありませんか? タクマ殿」

「あっ。はい、お陰さまで。あはは……」

「ご無事で何より。未知のものだろうと何もさせなければ良いのです。故に無礼ながら、このように」


 ううっ……。

 凍るような殺気からの、唐突なこのイケメンムーブの温度差に風邪引きそうだ……。

 まあ彼女が斬ったゴブリンは、以前見たものとは全く異なるのだから、発言自体はご尤もだが。


「赤い表皮に燃える短剣。夢幻迷宮下層位じゃないかな、こんなの出てくるの」

「アーマーゴブリンかしら? アレでもこんな武装しないわよ! それにコレは鎧着てないし!」


 フェルンとウィズの会話は全くわからないが、このゴブリンが異端なのはわかった。それに昨日まで体当たりと群れで襲うのが能だった奴が、燃える短剣持っているだけでも十分脅威だ。

 突然変異にも感じる進歩がこうも早く出来た要因はわからないが、探って止めないと不味い。


「ともあれ確実に先へ進みましょう。このゴブリンの変化然り森の変化然り、放置出来ません!」


 健助の芝居がかった台詞に皆頷き、気味の悪い生温さを感じながら爆心地へ着実に歩みを進めていった。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




「返せえっ!」


 怒った声がする。

 聞き馴染みのある声の主が、悲しみを堪え水の刃を手に理不尽へ斬りかかる姿が脳裏に過ぎる。


《フハッ。無理を言うなよ哀れなる者?》


 哀れむ声がする。

 聞き馴染みはないが、忘れもしない声の主が児戯と変わらぬ感覚で生命への冒涜を犯そうとしているのがわかる。


「彼を返してよ! 私の贖いを……!」


 懇願する声が聞こえる。

 許されない罪を犯した故にせめてと被害者へ贖罪をするも叶わず、行き場のない罪悪感が見つけた矛先に手の刃を鋭くする青髪の少女の姿が想像付く。


《フハハハハ——! もう遅い。彼の者の魂は我が手の内にある。最早無駄な足掻きだ》


 嘲笑する声が聞こえる。

 自らの生の為に人間の尊厳を奪い数え切れない人々の生活を踏みにじり、その背徳に心を震わせておきながら、尚自らを崇めよ讃えよ肯定せよ、と謳う矛盾の化身が目に浮かぶ。


「タクマ殿の水の魔力が溢れておられる……!」

「髪も青く染まっている。魔力をこれ以上引き受けるのは不可能だね」


 正しく一触即発。

 サナと少年の皮を被ったテウメスは、目と目があった瞬間互いに顔を歪め剣を交えた。

 そして俺は止めるのも、サナの力になるのも叶わずマサコさんにおぶられ逃げる事と状況整理ばかり考えてるとは、なんて無様なのだろう。


「まさ、こさん……。すい、ま……せん」

「タクマ殿。貴殿が今為すべきは身体を休める事だ。喋る事ではない」

「ごめん、なさ、い」


 返す言葉もない。そしてますます無様だ。

 何度かレッドゴブリンと仮称した、燃える短剣を持つゴブリンを相手にしながら進み、爆心地に着いてサナを見つけた、までは上手く行っていたのに。


「サナの奴、拓真が限界なのわかってんのか?」

「わかっていても下がれないんだろう。因縁が深過ぎるし、下がれば次の目標はボクらだ」


 爆心地に到着して俺達が見たのは歳不相応の薄笑いを浮かべる少年と、それを睨むサナだった。この時点で一言でも声をかけれていれば……!

 いやこの思考に意味はない。さっきと考えた事だ……。顔を合わせた瞬間、もう激突したのだ。


「相手が魔王、テウメスじゃなければサナさんはあんな風に……。あんな風にならないのにっ!」

「無理もないわ。悪趣味にもあの子が召喚した人の体を依代にしてるんだから」


 挑発には十分、いや十二分だろう。

 本来の少年は状況からして正行が話していた「乗っ取られた人」に含まれる人物だろう。それ故テウメスに目をつけられ、身体を乗っ取られた。

 この事実だけでも十分だけど、そもそもがこの世界に召喚した事そのものを気を病んでいたアイツからすれば、怒り狂うのは全く不思議じゃない。


「だと、してもぉ……。もうお、れは」

「拓真!? バカが、無理するんじゃない!」

「は、はは。ごめん。ついな」


 どれだけ怒っても、どれだけ求められても俺の身体は限界だ。

 勿論大火力の魔法を明後日の方向に放ったり、お手製の武器を意味なく浮かべたりと、魔力の放出には尽力したが、サナが加減なく魔法を放つせいでこちらへ回される魔力が、放出する魔力を上回った。



「ぐ。がっ……。あっ、ううぅぅ……」

《どうした。先刻の威勢は水に流したか?》

「くうっ。飛ばし過ぎた、だけで、こんな!」



 となればサナの方にも限界が来て、魔王にぶっ飛ばされるのは自明の理。

 これまでの行動からして読めてはいた。しかし同時に止められないのもわかってたし、同時にもう一つ困る事がある。


「あれっ? この後どうするの?」

「セデムは無理だね。妨害されるだろう」

「ならどうするのよ! あんなの逃してくれる訳ないじゃない!」


 逃走方法。

 本当にこれがどうしようもない。

 セデムは妨害される。

 普通に逃げれば追いつかれる。

 そもそも俺とサナを抱えて走るのは無理。

 おまけにテウメスは察するに、何故かサナ並みに魔法を行使しても平気な顔していて。


《これで終わりか? 罪深き者。ではトドメだ》


 考えろ。

 今この場で出来る何か。

 そうでなきゃ終わってしまうんだぞ。

 魔王と見たら暴走する理由もわからないまま。

 何か思いつけ、何でもいい!

 鞄の中の魔導書とか、道具とかこういう時の為に用意したはずで……!


《さらばだ。もう少し手応えあると思ったが》


 ああ拳が風を切る音がする。

 もう駄目か。

 うっ、魔力過多の症状が進んできた。

 意識が薄れて、いく——

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