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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
一章 鮮やかなる国 ブライト
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第一章 第五十一話 そしてまた早起き

「どちらにでも成れる、なんて。んなもん信じられるかっての……」

「気持ちはわかる。でも俺とサナはお前が留守にしている間に見たぜ?」

「かもしんないけどさあ……」


 大衆風呂からの帰り道。

 夜の帳がすっかり落ち、暗闇を照らす家々の灯と仕事終わりや冒険終わりの人々の歓声に、昼とは趣の違った活気を感じる中央広場にて。

 俺はそれこそ唐突に湧いた温泉よろしく降って湧いた真実に驚愕し、道すがらフェルンの性別について皆に尋ねていた。


「なら実際に変わる所を見たら信じるかい?」

「いや見ねえよ!? どんなプレイだよ!」

「そうだろうね。ならこれはキミが信じるか言い方を変えれば受け入れるか。その問題なだけさ」


 何となく皮肉な言い回しが癪に触るなあ。最もだから返す言葉がないけど。

 この目で性別が変わる瞬間を見るなりしない限り、どちらの性別にも成れるという事実は俺の中では成立しない。となれば後は信じるか否か。まあ、心の何処かで理解はしていたさ。


「受け入れられないようなら好きに思えば良い。ボクもキミの立場なら信じないしね」

「うーむ、まあ……。わかった。そうするさ」

「フェルンもこう言ってるし、深く考えないでおけば良いと思う、うん。」


 細く嘆息をつく。

 思い返すとゾッとする。大衆風呂の更衣室でしれっと性別を変えようとしたのはまだ良いとして、性別を変えたら魔力の大半を失うなんて。

 何せ魔力の大半が失われるのはイコールで気絶だ。正行が止めてくれて良かった。


「ったく、あん時は本当に焦ったぜ」

「今日はもう外出しないし、気絶で証明出来るなら安いと思ったのだが」

「よくねえよ。変な所でズレてんな、お前」

 

 うーむ流石天使、大騒ぎを止めてくれた人へこれだ。なんて独特の価値観だろう。

 ここまで話し合っても、これでは棚上げにした方が賢いか。フェルン自身実際に変えるシーンを見せるに他ないようだし。


「ま、この辺にしとくか。もう家が見えたし」

「まだ飯食ってねえなあ。腹減ったぜ……」


 不意に入った香りに、何気なくそう呟く。

 そんな中、サナがハッとした顔付きになってから口を開いた。


「結局合成まだしてなかったね。夕飯食べて落ち着いたらやってみない?」

「クエストの本来の目的忘れてたな……。夕飯食べ終わってもまだ寝るには早そうだし賛成」


 そう言ってサナ家のドアを開いてこの後すぐいつものメニューの夕食を頂いてから、サナの部屋に入るのだった。



_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆



「早いもんだな、もうこんな時間か」


 時計の針は九刻、つまり九時を示している。

 今日は精霊探しに人型スライム、合成壺、ウッドレイジにゴブリンの群れ、フェルンの性別……。

 ドタバタだったけど、まだまだファンタジーなこの世界では日常的な方だろう。これで魔王を相手にしようだなんて……。


「タクマ、大丈夫? おーい」

「おっと悪い。ボーっとしてた」


 また魔王のことを考えていた。

 やっぱりあんなのはって、今でも思う。

 けど今はそれより合成。確認で終えるつもりだけど。十刻に寝ろとフィーネさんに言われているのに、本格的に始めたらいつ終わるかわからない。


「では僭越ながら、ボクからやろうか」

「魔法サッパリな俺にも出来るよう頼むぜ!」

「戦士にもか……。まあ善処は、しよう」


 幾つかの素材と合成壺が広げられ、如何にも魔法使っぽい机の前でフェルンは苦笑する。

 まあ時間への配慮に、あくまで確認だからフェルンに試して貰うだけって決めてるから余程やらかさないとは思うけど。


「けど説明書無いし、コツとか操作とかはフェルン頼りなのは事実だ。頼むぜ」

「任された。では好きにさせてもらおうか」

「ああ。作って大丈夫なものならな」


 持っているのは手の平サイズの切り出しただけの木材、そして自分の羽が一枚。

 前者はともかく、後者がなあ。これを合成に使わさせてくれないと使い方を教えない等と珍しく駄々をこねたから許したけど……。大丈夫かな?


「普通ならこれで行けるはず……」


 等とブツブツ呟き、素材と適当に羊皮紙へブロック状の物体を描いて壺へ投入。

 続けて壺の内部と外観をざっと観察してから、蓋をしてマギアの時と同じく魔法陣に手をかざす。



「ふっ——」

「え?」



 と、中から一条の光。

 そこ以外はマギアと同じだ。

 でも危ない予感がする。

 これ以上は止めた方が良いんじゃ。


「お、おい今のは?」

「大丈夫。この通り問題ないよ」

「おおっ。なんか凄そうなモンが出てきたぞ!」


 取り出されたのはブロック状の純白の木材だ。

 しかも塗料で塗られた様子も無く、羽の色合いをそのまま引き継いだような自然な感じ。とにかく神秘的或いは幻想的、としか形容できない物体がそこにある。


「これはエンゼルウッドと呼ばれるものだ。羽のように軽いし、頑強さも上がっているんだ」

「ま、マジでか! ちょっと持たせてくれよ!」

「はあぁー……。すっごい。重さが全然無い」


 何も持ってないみたい……。

 武器の柄に使ったら、凄く軽量化出来そうだ。ついでに見た目も白くて格好が良いとメリットだらけじゃないか。

 でも安易には使えない。フェルンが天使だから天使の羽が際限なく手に入るだけで、本来貴重な物の筈。処遇はラルトイさんと相談しよう……。


「ところで壺の使い方は素材を入れて蓋を閉じ、魔法陣に魔力を込める。合ってるか?」

「問題無いよ。因みに紙を入れた理由は整形、というこの壺に付いている機能でね」


 人差し指をピッ、と立てて「これが便利でね」と零しつつ続ける。


「絵或いは想像した形に寄せてくれるんだよ。但し剣の刻印、研磨位の細かい物は不可能だよ」

「そこまで出来たら職人が要らなくなるから、出来ない方が良いと思う……」

「くすっ、もし出来てしまえば東の職人達から白い目で見られるだろうねえ」


 自分の体の一部が宝の山な人が言うと、ちょっと説得力を感じる。

 さて時計を見れば九刻の半、灯を消さないと怒られる時間になってきたな。


「よし片付けて寝るか!」

「いやここからが……っ!?」



 何があった。

 今は木材に触っただけ。

 なのにリアクションは火傷のよう。

 しかし手は赤くなっていない。

 でも触れたフェルンは手と睨めっこだ。



「どうしたフェルン!」

「……驚いた、貴重な素材が取れたようだよ」

「貴重な素材……?」

「ホットウッドという。ウッドレイジや亜種から人肌程の熱を放つ木材が稀に採れる。それがこれだ」


 試しに触ってみる。

 うん、本当に人肌の熱だけど、ウッドレイジの残った思念がそうさせているようで気味が悪い。出来れば早々に使ってしまいたいな。


「これもうこの場で使うか? 何か気持ち悪い」

「いやいや貴重な物だ。売った方が賢いよ」

「火を強化する力を持ってるんだっけ。なら身につけても仕方ないし、フェルンに賛成かな」


 元々この世界に住んでた二人がこう言うなら従うか。稼げるに越した事はないし。

 さてちょっとトラブルが起きたけど、今度こそ。


「ちゃっちゃと片付けようか」

「思えば中々濃い一日だったねえ」

「なあサナ、これは何処に……」

「その石なら倉庫の……」


 この後片付けして灯りを消し、濃かった一日を想いながら眠りについた。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




「んん……っ」


 意識が覚める。

 背中越しに柔らかな感触。

 鼻腔に入る仄かな甘い匂い。

 僅かに伝わる人肌のぬくもり。


「あ、ああっ。ふあぁぁ。くぁあっ……」


 目が覚める。

 視界に真っ先に入った白髪に安心する。

 周囲を見渡す。

 部屋の様子は変わりない。

 仲間達も……。問題ない。


「あーあ……。まーた早く、起きちまったか」


 日の光を浴び、意識がはっきりした。

 まだ日が昇ったばかりか。

 しかし寝てるサナ見て思ったけど、年頃の女の子と同衾するのって大分おかしいな。

 最も、もう慣れたというか、サナが隣に寝てないと「あれ?」と思う位だけど。


「まあ今日も一日頑張るかね!」


 そう一人で呟き、サナ家の外で皆が起きるまで準備体操して待つのだった。

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