第一章 第四十八話 魔道具
「あっははは……。ごめんねー、あたしってば昔っからこうで。ホント、やんなっちゃうわ」
「派手に転んでたけど、大丈夫ですか?」
「お陰様で。感謝してるよー!」
尻餅をついた所から立ち上がる少女に手を貸す。
髪は長くてこげ茶色、緑色の目に黒々とした装飾の少ないローブを羽織り、トンガリ帽子を被った姿は、ハロウィンのコスプレを疑いたくなる程にステレオタイプの魔女っ子だ。
「後あたしって堅苦しいの苦手でさー、もっと友達に話す感じで良いよ。見た感じ歳近そうだし?」
「そう、なのか。じゃあ、まあ普段通りに?」
「あははっ、ちょっとぎこぎないけど……。うん、そんな感じでねー」
フランクなのを好むタイプのか。
すっ転んだ時に、思いっきり笑い飛ばしていた時点で陽気というか、あけすけだなーとは思っていたが。俺としてはペースを乱される感じもするけど、当人の希望に合わせて行こうかな。
「じゃ改めまして、と。あたしはこのアルメヒ魔道具店の店主の娘。マギア・アルメヒ。よろしくー」
「よろしく。俺は野鹿拓真。こっちに居るのは皆連れだよ。早速だけどオススメはあるかい?」
そう名乗った彼女に、俺に続けて皆が名乗ったのを見計らって、早速商談を投げかける。すると彼女は散らかった物を魔法で浮かせて定位置へ動かし、何事もなかった顔で続けた。
「んー。おすすめかあー。目的はある? 薬の材料を買いに来たとか、魔道具を買いに来たとかさ」
「ボクらはあいにく何となく入っただけでね。ただそこの黒髪の二人は別の世界からの来訪者なんだ」
「え、あららっ!? よくある特徴は一致するからもしかしてとは思ってたけど……!」
ヒントに提供された情報に、こちらを物珍しそう覗き込むマギア。
といっても過去だけでなく、現在も俺たち以外に別の世界からの来訪者は居るらしいから感覚的には凄く遠く国の外国人って所か。
「あー、そっかぁ……。じゃあ魔道具や合成の事とかも知らないんだよね?」
「んー。そう、だな。初耳みたいなもんだ」
「んん……? まあいっかあ。ちょっと待ってて、何か無いか探してくるよー!」
マギアが店の奥へ姿を消した後、ちらり視線を向けてきた正行に頷く。ナイス対応だ。
当然だけど、言葉や何となくの意味はゲームで察している。しかしそれを明かすと話がややこしくなりかねないのだ。だから今のシーンはこれで良い。俺だとそっくり話してたかもしれない。危ない危ない……。
「お待たせー! 持ってきたよー!」
「おっ、どれどれ……?」
「おおぉー。いかにもそれっぽい!」
ちょっとしてからマギアが腕一杯に抱え、カウンターにどっちゃり置かれたそれらは皆意図不明だが、どれも何かしら特徴がある。
例えば冷気を纏う肉食獣の牙、魔法陣がびっしり書き込まれた壺、風もないのにそよぐ羽、七色に光る石が嵌め込まれたペンダント……。見ていて胸が高鳴ってくる物ばかりだ……!
「えーと、先ず魔道具の説明。まあ、言葉通りで魔力で動き、魔法を発揮する道具なんだよね」
「うん、まあそんな感じだよな」
「まあ何となくわかっちゃうよね。じゃあ実際に使って見せるよー。確か、ここを……」
手に取ったのは冷気を纏う牙だ。
魔力で動く道具だから、魔道具。俺も元の世界ではそんな認識だった。まあワイズ・ギアも似通った性質を持っていたから違いが気になるが。
「これを、こうして、と」
なんて考える内に手に取った牙に向かったマギアが目を閉じた。
果たしてどんな変化が——
「むんっ!」
「おおっ! 牙の周りが凍り付いた!」
「まあこんな感じ。これはフローズンファングっていうので、見ての通り武器として使うんだー」
マギアの足元が光を放った後、牙が凍った。
これは牙で刺突してから、凍らせて傷口へ追い討ちって訳だ。想像しただけでも痛いがその分敵に使えれば威力は相応だろう。
「まだまだあるよー! この懐中時計、いつもは狂ってるけど魔力を込めてやれば……」
「あっ、正確な時間になった」
「次行くよ。魔力を込めてポイと投げれば——!」
「わっ、障壁が出来た!」
「続いてこの赤い石なんかは……!」
次から次へと、テレビショッピングのように魔道具を紹介していくマギア。
その魔道具への愛は本物で、どれも聞かずとも逐一事細かな説明をつけてくれこの世界への知識が無かった俺にとっては有意義な時間となった——
「と、いう感じなんだけども何か買ってくれる気にはなったかなっ?」
「ああ、なったよ。詳らかな解説に感謝だ」
素晴らしくわかりやすい説明に感謝を述べる。まあ太い時計の針が一つ進んだのはこの際突っ込まないでおこう。うん。
また今紹介してくれた魔道具はよくある使い切りではなく、頑強に作られているので滅多な事では壊れず、長く使用に堪えるらしい、が。
「こっちとしても、財布事情があってな……」
「おおっと、値切りは受け付けてないよーお客さん。こっちもギリギリだかんねえー?」
「わかってるって。値切ろうなんて考えてないさ」
ここぞとばかりに商人ぽさを出してきたな……。
何事にも裏がある。この店の場合品質の代わりに、値段を犠牲にしているようでさっき見た刺して氷で追撃する牙は、サナ曰くお財布の中身が約半分消し飛ぶ程、フェルン曰く使い切りで同様の物を十本買って尚お釣りが来るレベルに高額だそうだ。
「ところでマギアさん、気になってのだけど」
なんて俺や正行が値札と睨めっこしていた折、サナがマギアへ話しかけた。
「うん、気軽に聞いてよ。えとー……」
「サナよ。ここの魔道具の質が良いのは凄く分かったわ。正直どれも欲しいもの」
「それは嬉しい! で気になる事、というのは?」
「もっとこう、色々な事に使える物って無い?」
ああ……うん確かに。
魔道具の解説で色々持ってきて貰っておいてなんだが、その使い道はどれも代用が効いたり、局所的なシロモノばかりだった。金を払う以上、色んな所に使える物が欲しいと思うのは当然だ。
「ああそういう事! なら安心していいよ。今までのはそこのお二人さんの為の説明。ちゃんと便利な物はきちんと別に用意してあるからさ!」
そう言ってマギアは、小型テレビ位のサイズ感をした壺を軽く叩いた。
_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆
「まあ、こればかりは見てもらう方が早いかなー。ちょっと見ててね?」
「さっきの釜か。一体どうなるんだろう」
一旦店の奥に消えてから持ってきたのは、刃の欠けた短剣と鼓動するように赤く光る石。
彼女は「ちゃんと見ててよ?」と告げた後に、それらを壺へを放り込み、蓋をしてから壺の側面にある魔法陣に手を当てた。
「えい!」
掛け声と共に、先程と同様足元が光る。
直後、壺の中からも光が瞬いた。
「よし上手くいった……!」
「じゃあ、さっき言っていたのが、これか!」
「へへーん……。そういう事!」
マギアが満面のドヤ顔で手渡してきたのは、先刻の物と同様の刀身を持った短剣だ。
しかし刀身が赤熱しており、ごく小さなものではあるものの火花を放っている。成る程、これは見た方が早い訳だ。正しく魔法の芸当だもんな。
「これぞ合成! 今みたいに武器に望む性質を持たせたり、同じ物同士でより強力になったり……。使い道は色々あるよ!」
「お、おう。わかったから近いって」
うぉっ、マギア凄いキラキラしてる……!
察するに、今の今まで客が来なかった事と商品の値段から多分話し相手になる客も居ないんだろう。だから自分の好きな話が出来て楽しいのか。まあ気持ちは分かる。でも近い。
「ふむ、これは壺状の物か。少し小さいね」
「そうだねー。合成は入るものしか出来ないから、この大きさだとちょっと不便かも」
「となると、斧とか槍とかは無理か。ちえっ」
「うーん、合成は前から興味あったけど、私はこれだとちょっと考えちゃうかも……」
合成を披露した時こそ、皆興味がありありだったものの、利便性の話になってから途端冷静になるなオイ。
でも大きさについては、幅が狭まって不便なのは同意するけど、必ずしも不利では無いと思う。
「携行するのに便利じゃないか?」
ぽつっ、と放った一言に水を打ったように静まり返り、皆揃って壺の値札と睨めっこした。
俺達は冒険者。今はここを拠点としているが、本来は世界を歩く流浪の民故に、荷物は極力軽い方が良いのだ。
「あの、これ買いたいんですけど」
「見た目以上に軽い。重さも問題無いよ」
「元の世界に戻って役立ちそうなモン漁るか……」
各々違った、されど購入ムードだ。
それが信じられないのか呆然とするマギアだが、すぐ顔付きを変えて。
「えへへっ……。今後ともご贔屓に!」
純朴で営業スマイルを超えた、本心からの笑顔を咲かせてくれた。




