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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
序章 異世界へ
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序章 第六話 やらかし召喚士

今回、途中で人称が変わりますがサナの語りをタクマが聞いてるって形です。(多分ご理解いただけると思いますが念のため)

追伸:0時投稿しようとして予約投稿にしたらエラー出ました。

ぐぬぬ、また遅刻扱いじゃないか!

「少し、昔の話をしましょう」


 第一声からサナはそれまでと打って変わって、おかしな事を言い出した。

 人類に宣戦布告してきた厄介な神に何もできず沈んだ気分で帰路に着いた中で昔話?

 あんな刺すような殺意をついさっきまで放っていたのに、話が飛躍し過ぎてないだろうか。


「大丈夫、タクマ?」

「ああ、大丈夫、大丈夫!」


 黙って考え込でいたせいか、サナに心配された。

 仇敵に出会ったサナの方が心配なのだが他人の心配をしてしまうとは、なんて自分の優先度が低くんだろう。


「ところで、何でまた昔話を?」


 真面目な顔でそう言っていたサナに、素直な疑問を放つ。

 神が人類に宣戦布告した上、気になる事をいくつも言っていたから聞いておくべき事があるのだが。


「実は説明をする時は普通に話すよりも、昔話みたいに話した方が上手に説明できるの」

「ほおほお……」


 およそさっき自分の事もっと聞いてくれって言っていたし何の説明かは察しがつく。

 もし彼女のことでなくとも、有用な話が聞けるだろうから聞いておくべきだろう。


「後は……私自身昔話みたいに話すのがちょっと好きなの」

「ほおー。そうなのか」


 趣味も混じっているからか語りながら頬をかいて照れている。恥ずかしいことと思ってるのかな、そんなことないと思うけど。

 にしても、ついさっきまで燃える街を見つめてた時と大違い。口調、表情共に明るくなっている。


「じゃあ、始めるね」

「おうっ」


 思い出を辿るサナは部屋の窓の景色を見て遠い目で語り始めた——





_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆





 今からすこーしだけ昔のお話。 

 ヴェールド東の大陸にあるブライトというお国に、小さな女の子がおりましたとさ。


 名前をサナ・フロウ。

 白い髪と染料をそのまま塗ったような青い目をした女の子で、お父さんとお母さんは多くの戦い、多くの迷宮を越えて、数え切れない宝物を見つけた有名な冒険家でもありました。

 そんなこともあってか……大層、周りから期待されていました。


 お父さんとお母さんの優れた経験か、神様の気まぐれか、はたまた周りの期待応えてか。

 ともかく、女の子はみんなに色んな期待を抱かせる位に珍しい魔法の才能を持っていました。



「さあサナ、体の中の魔力を意識してごらん、胸のあたりに渦巻くものがあるはずだよ」

「うん、魔力……まりょくぅー」

「いいよー。今度はそれを流れる川みたいに出すんだよー!」

「わかった。川ー……ながれるかわぁー…………」

「どうしたんだい?」

「えへへ、お魚食べたくなっちゃった」

「ふふっ、魔法を使うには想像力がいるからね。そのぐらい思い浮かべれるのが丁度いいさ!」



 ちょっと食いしん坊な所もありましたが。

 しかし、いざ初めての魔法として馴染み深い魔力放出をすれば……



「この身にやどる魔力よ、わが意のままにうごけー!」

「うぉおぉっ……。こりゃ凄い……!」


 この通り。

 普通の子供なら小さな火の粉のようなものが灯ったり、掌を水が濡らす位ですが、サナは短時間ながら暴れる川のような流れを生み出してしまいました。

 これには本人もびっくりです。


「ふえぇぇ……今のわたしがやったの?」

「そうだね、サナの魔力が出てきたんだよ。今日は帰ろっか。その様子だと、疲れたろ?」


 魔力を放ってからしきりに目を擦ってるサナを見かねてお父さんはそう言いました。

 因みに魔法を初めて使うのに魔力を放出するのは、魔力が何かに変化しないので得意な性質や魔力量といった素の魔力を見れるからだそうです。


「うん、からだから元気がすっぽり抜けちゃったみたいでもう眠いのー」

「そーか、そーか。じゃあ早くお家に帰ろう。ほらおぶってあげるよ」

「うん……ふああぁぁぁ……」


 しかし。

 お父さんも我が子が怖がらないように自分が怖いのを隠すのに必死でした。

 初めて魔法を使った子があんな激流を生み出す子は記録はあっても、見たことなんかないからです。


 そう、記録にはありました。

 家をまるまる炎に包んでしまった子、猛り狂う風を起こし、飼っていた豚さんや羊さんを全て吹き飛ばしてしまった子、津波のような激しい流れで土砂崩れを起こしてしまった子……。


 記録あるものに比べたらまだなんてことはない。

 サナはちょっと人と比べて魔力量が大きいだけ。

 この子がおかしな事をする度に自分をそう説得していました。


 もう少し彼女が大きくなってから訪れるあの日が来るまでは——




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




 それから何年かの年月を流れました。


「おとーさん、行ってきます!」

「ん、行ってらっしゃい」

「あらサナ、その髪型似合ってるわよー。誰の真似かしらっ」

「えへへっ、ひみつ! じゃあ行ってくるー!」

「小さな頃は鬱陶しいからって髪伸ばさなかったのになあ……」


 髪型以外にも服や背の伸び、目の色、髪の色……。

 昔は河原で転んで泥だけになっても、全く気にしなかったサナも、お洒落や自分自身に興味が出てきたお年頃です。


 そんな成長のせいか、あまり両親と遊びにくことはせず、いつの間にかできたお友達と遊ぶ事が多くなっていたのです。

 特にお父さんは自分に懐いていた可愛い娘が自分から離れる娘が悲しい反面、大きくなってうれしくもあり複雑な心境です。



「フェイちゃーん!」

「あっ、サナちゃん!」

「おーまたせ。ポロンちゃんも待った?」

「そんなことないよー、それより今日は何するの?」



 集まったのはサナ家付近にある広場。

 立派な枝ぶりと多くの葉を茂らせる大きな木と周りを囲う木の長椅子が目印で、集合場所や休憩場所によくされます。


「フェイちゃん、あれやろっ!」

「あれだね。詠唱行くよー……この身宿る魔力よ、石を以て力を封じたまえ」


「放出するよっ」

「ほいきたっ、ストーンロック!」


 するとどうでしょうか。

 丸く綺麗な形だっただけの石がサナの瞳のように青くなり、渦巻きような模様が刻まれたました。


「わああぁぁ……凄い。これどうなってるのー?」

「ストーンロックで私の魔力を封印してるだけ。でも、この石に私の魔力をちゃんと封印できる力は無いから魔力の影響が出てこうなってるんだー」

「へえー……ストーンロックできればあたしにもできるかな」

「できると思うよー」

「やるやる!」


 と、こんな風に来る日も来る日も魔法を使った遊びや、服の色を魔法を用いて変えておめかししてみたり、魔法の詠唱の癖を直しあったり……。

 魔法を使って色んな事をしながら平穏に過ごしていました。



 しかしあくる日、そんな平和で楽しい日常を壊す輩が現れます。



「なんなの、あなたたち」

「広場からどけって言った。聞こえなかったか?」

「ショーンあにき、アイツら譲る気なさそうっすよ」

「どおします? やっちまいます?」


 いつも通り広場に集まって遊ぼうとしていたら、くすんだ金髪の男の子が現れました。

 皆目つきが鋭く、いかにも悪い子といった感じで、四、五人で寄ってたかってサナたちが遊んでいたのに場所を譲れと言うのです。


「あ、あなたち後から来たでしょ! こういうのは早い者勝ちでしょ!」

「ああ……?」


 ショーンと呼ばれた子供がひと睨みすると。


「ぴっ……!」


 たちまちポロンは睨まれれば石になってしまう蛇の魔物に睨まれたように固まってしまいました。


「ポロンちゃん、いいよ。この広場を分けて使おう? それならいいでしょ?」

「ああ? 女どもがきゃいきゃいしてる中でやってられるかっ!」

「わかった、魔法の撃ち合いで決着つけよ。描いた円の外に出すか、参ったて言わせたら勝ち。これでどう?」

「ほおぉ……俺は構わねえけどさ、街中で攻撃的な魔法の使用や、ケットーは国が禁止してんだぜ?」


 何でそんな無駄知識は覚えてるんだろ?

 サナはそんな風に思うかもしれませんが、お国は確かにショーンの言った事はやってはいけませんと決めています。


「そうだね。街中で撃ち合ったら怒られちゃう。だから、場所を変えよ?」

「なるほど、穴を突くとはお前も結構ワルだな!」

「あなたに言われたなら相当かもね」


 しかし、魔法を使って被害のない場所に移動した際の事は書かれていなかったり、完璧ではなくサナ達のように決着をつけるのに、隠れて魔法や剣を用いて決闘をする人も少なくありません。


「てなわけでついて来たが……北の森に来る事になるとは、驚いたぜ」

「へえ、怖いの? 決闘をするには悪くない場所でしょ?」

「おっ、おうっ。ぜんっぜん怖くないぜ! とっと始めちまおうか。お前ら円を描けぇー!」

「うぇーい!」

 

 ショーンの号令と共に皆でサナ二人を並べたくらいの大きさの円を描いていきます。

 北の森は木の背が高く、また葉も多いので人の目がなく、隠れて決闘を行うのに適しています。

 三つ前の王様の時代から「北の森へ来い」と言ったら決闘をしろという事とされる程です。


「さあ、円はできた。フェイちゃん合図よろしく」

「うん、任せといて。さん、にい……」


 フェイがいち、と言おうとした時でした。ちりちりとショーンの手から火の粉が現れ——


「先手必勝っ! ファイアっ!」

「あっ、約束破りー!」

 

 あろうことか合図を待たず、手のひら大の火の玉をサナに向けて放ったのです。

 でもサナはそれに怖気付くことなく、むしろ憐れむように魔法の詠唱をします。


「その程度? この身に宿る魔力よ姿、力を水へ変えよ。ウォーター!」

「な、なんだよそれ」


 尻餅をついて怯えるショーンに対し、サナは呆れるばかりです。

 あまりに態度の変わりが早く、また見すぼらしくて正直見ていられないのでしょう。


「こーさん?」

「ひっ……!」


 しかし、ショーンが驚くのも無理もないのです。

 自分と同じくらいの女の子の小さな、とても小さな手の平の上に、自分をまるごと包めそうな大きさの水球が浮かんでいるようでは。


「ば、化け物だ……」

「バケモノ……私が?」

「そうだよっ! そんなに強いウォーターが使えるなんておかしいだろぉっ! お前がバケモノじゃなきゃ何がバケモノなんだぁ!」


 サナはこの時、とても強く傷つきました。彼の言い放った乱暴な言葉に……

 ではありません。心当たりがあったのです。



 どうして私の魔力を石に込めると青く染まるのだろう。

 どうして私は魔法を使うと他の子よりもずっと強いものが出るのだろう。 

 どうして私は魔力がおかしいくらい早く回復するんだろう。

 どうして回復してるときあんなに辛いんだろう。



 たくさんの「どうして」がサナにはありました。

 その度に聞いて来ましたが、貰った答えはいい加減な答えばかりで、わかりませんでした。

 そのたくさんの疑問に「バケモノだから」という答えを貰いました。この答えなら全部納得できる……。いいえ、出来てしまったのです。


「私は……バケモノ」

「そうだよっ! お前はバケモノだ!」


 違うって言って欲しかったのに。

 彼は、欲しい答えをくれませんでした。

 不思議と、笑顔が溢れてきました。


「あははっ。あははは……ははははは!」

「さ、サナちゃん、落ち着いて!」


 けれど、おかしなものでした。

 笑ってるのに、悲しい。そして笑い声はどこか責めるような、咎めるようなものです。


「私はバケモノ! そっか、だからどこかおかしいんだね、やっとわかったよ!」


 自分のおかしさをわかった彼女は、それを受け入れつつもその重さに身体が、心が耐えられません。


「ああ、あははは。うっ、うふふっ。ふ、ふふふふっ……あっははは……!」


 やがて涙が流れ、心が音を立てて壊れます。


「私だって! こんなもの、望んでないの! こんなバケモノ呼ばわりされても言い返せない魔力なんてっ!」


 そう心の底から望み、叫んだからでしょうか。

 掲げていた水球がみるみるうちに大きく、大きくなっていきます。


「なんだよソレ……インチキだろ」


 彼の言うそれは重みに耐えられず、今にも爆発してしまいそうです。


「こんなもの、いらないの!」

「ポロンちゃんまずいよ、これは逃げよう!」

「サナちゃんには悪いけれど巻き込まれるわけにはいかないもの……!」

「お前ら、逃げろおぉ!」



 感情が昂ぶって持つ魔力が溢れ出し、暴走したサナでしたが、騒ぎを聞きつけた両親がどうにか止めてくれました。

 ですが、この時両親は治すのにとても時間のかかる傷を負う事になり、これがきっかけでサナは改めて自分がバケモノだと自覚することになります。


 また、後にわかることですが彼女の異常に強力な魔法や魔力量の原因は、魔力が際限なく湧き出してくる事でした。

 さらにこれを止めるため定期的に魔力を移さねばならないのですが、数え切れないお宝を持つ両親であっても手を焼く程、お金のかかるお話でした。


「ねえ、あの子って……」

「ええ間違いないわ」

「あのバケモノか」



 自分自身の体質で両親に迷惑をかけ、この一件で周囲から白い目で見られるようになり、段々と塞ぎ込んでいきます。

 そんな歪んだ性格になったことでやがてお友達も一人、また一人と減っていき、そのせいでもっと塞ぎ込みます。


 それでもやがて彼女を救う一つの方法が明らかになりますが……それはまた別のお話。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




「……おしまい」

「えーと、なんて言ったらいいのかな」

「あはは、重すぎた?」


 苦笑いするしかない。あまりに辛い過去を吐露したサナになんて声をかけたらいいのか迷った。

 わかったことで言えば異常に重たいサナの過去と、感情が昂ぶったり魔力が抑えきれなくなると暴走する危険性がある事だけ。

 神に関する事への回答にはなっていない。


 恐らくサナにそう言えばサナは自分の言ったこともあるからと、笑って答えてくれるだろう。だが、たった今あんな話を終えた人間にさらなる追求が出来るほど、俺も非人間ではない。


 そう思うと、火事現場の時よくあんな事聞けたなあ……! そりゃあんな顔するよ!


「あ、あのさ。さっき俺サナの事知らずにあんな風に聞いちまって……本当にごめん!」

「あーさっきの事。気にしないで、この話タクマに謝らせたくて話したわけじゃないし」

「それはそうなんだろうけど……そういえばどういう意図で?」

「今までのはね、テウメスの言ってた憐れなる者の部分の話で、罪深き者の話をするのに説得力を持たせる為なの」


 俺の懸念をなんでもない事のように流してしまった。辛い事を重ねた分、器も広くなったんだな。

 まあ憐れなる者の部分は大変よくわかった。テウメスの言う通りで、サナの過去については本当に憐れとしか言いようがない。

 しかし罪深き者の部分に説得力を持たせるとはなんだろうか。



「要するにさっきの事情があったのを何とかしようとして、タクマ達に魔力を移そうとしたけど居着いてもらう必要があるから、餌に超強力な能力持たせたはいいものの……」

「ん? 超強力な能力?」

「それ目当てで、皆結局は逃げて能力で無双した結果神様に目をつけられちゃってアレ(テウメス)が出てきたってわけね」

「ええっ、ええー…………」



 事が大き過ぎていまいち飲み込めないけど……

 すんごい乱暴な解釈すると少しでも体調を善くしようとあれこれしたら、魔王が出てくるきっかけになったて事だ。


「マジかー……マジかぁ……!」

「まあ、あんぐりもするよね……」


 自分でも納得しているが、あんぐりもするよ。

 要するにサナは、魔王が降臨する引き金を引いてしまった、とんでもないやらかし召喚士なのだから!

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