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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
一章 鮮やかなる国 ブライト
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第一章 第四十六話 ヒトモドキ

「しかぁーし、人を模倣したスライムだか……」

「一度肯定しておいてなんですが、やはり中々信じられませんね」


 リュートさんと敦がそう零す。

 今回はあまりに謎の多い相手と対面するというのと、場所が近いのもあってリュートさん同伴だ。

 現在は実際にスライムを確認する為に、平原を目指して農村地帯の長い坂を下っている所だ。


「あれっ。門の前にちょっとした人集りが」

「鎧の連中ばっかだな……。おかしいぞ」


 そうして歩みを進め、坂の中腹まで来た辺り。

 ふと歩くのを止めて坂の下の門を見下ろした正行とサナが、顔をしかめた。門の辺りでの鎧の連中というのは、門番やそれに類する者の可能性が高いはず。そしてそれが集まっているという事は。


「何か起こってるかもしれない」

「僕も同意見です。ちょっと急ぎましょう」


 皆頷き、坂を足早に下っていく。

 徐々に人集りがはっきり見えてきて、皆鎧の形がそっくりなのがわかる。支給されているものだとしたら型が同じなのは筋が通るから、やっぱり門番っぽいな。


『なんだコイツは……』

『隊長これの処遇どうします?』

『今考えている所だが、異例過ぎて浮かばん』

『ギルドに一度報告を……』


 坂を下りきった。

 人集りは男のみで十人強といった所。奥の門の方はギリギリこの人たちのガタイの良さのせいで隠れてる。ざわめきからは有用な情報が聞こえてこないし、当人達から直接聴き出してみるか。


「すみません。ちょっとよろしいですか」

「はい、どうされました?」

「この人集りは何でしょうか」

「ああ。これは……。うーむ……」


 話しかけたのは茶髪で他より細い青年だ。

 青年は問いかけに対し、どう答えるのか悩ましいのか「うーむ」とか「あー……」とか「えー」とか頭を抱えながら唸っている。まあ声色や態度から察するに、緊急を要するというより対処に困るモノなのはわかった。


「それで結局、どういう?」

「うー……む。もうそのまま伝えます」


 再三悩んだが、良い言葉が見つからなかったのかよく聞こえる位に大きく嘆息を吐き、続ける。



「童女の形したスライムが喋った上に、この門を通せと騒いでいる……。のですが、伝わりました?」

「大丈夫です、大変よくわかりました。ありがとうございます」



 一切オブラートに包んでいないからこそ、分かった。当人は伝わったのに驚きなようだが。

 しかも向こうから出向いてきてくれ、対話可能というオマケ付きだ。情報を食われたフェルンは頭が痛い話だろうが。自分の情報がきっかけに、この騒ぎが起きたわけだから。


「さてじゃあ実際に……。うっ……」

「おおなんだ、なんだ?」

「ゴメンだ……。ちょっと通るだあ、よ」

「おお悪りぃ、邪魔だったか」


 うっわ狭い、暑苦しい、ついでに汗臭え!

 門番が全員男だし鎧着用してるから、これはもう部活後の運動部の着替え中に突っ込んだようなモンだなこれは……。 前にサナが言ってた「冒険の残り香」にも通ずるものを感じる!


「うっぷ……。よっ、ようやく抜けた」

「酷え匂いだっただぁ……。うぷ」

「思わず臭いから守る魔法使っちゃった……」


 あの臭いは堪えるよなあ。フェルンと正行はもう喋る気すら起きないようだ。

 ともあれまだ漂ってくる刺激臭に鼻をつまみつつ、視線を前に向けて。



〈トオシテ、トオシテ、ヨォ! アノオンナノコ、ニアヤマリタイ。ナニモ、シナイカラ!〉

「チッ、ダメなものはダメだ! お前は魔物。人を襲い、他の生物を脅かすバケモノだろうが!」

〈ワタシ、ランボウシナイヨ。アノコノナカカラムネノザワザワ、オサエカタオソワッタ!〉



 居た——!

 間違いない、さっきの男性の言っていた通り、幼い少女をしている。

 敦の証言通り目鼻口、だけじゃなく頭部からは髪っぽいパーツが生えており、目の色が赤と白であったり、髪の長さ等所々フェルンの要素が見られる。それから体の一部を使って作ったワンピースの形も似てるな。けどスライム要素も残ってて、胸の辺りに赤いコアが見えるぞ。


「驚きました……。にわかには信じられません」

「全くですね。ところで……」

「なんでしょう、僕は大丈夫ですよ?」

「いやあそんな事言われましても」


 リュートさん、そんな風に人集りにはまって顔を真っ赤にしては説得力がないです。

 見た目がショタのそれで、フェルンレベルに幼いから当然背も低く、何かの拍子でつっかえたのかな。まあ引っ張り出してあげよう。あの様子だと自分からは言えないだろうし。


「……助かりました。ありがとうございます」

「いえいえ。ところでアレどうします?」

「彼女に聞きたい事は山程あります。しかしこの騒動を納めるのが先決です」


 先程までの顔付きの余韻を残さずそう言いながら、服のポケットからペンを取り出した。

 状況をメモして報告に戻るのだろうか。


「くっ……。っああぁっ……!」

「ちょっ、あ、あなた何やってるんですか!」


 全然違った。

 腕にペンを思い切り突き立てるなんてどういう事だ? 自傷するのが好きなのか。何にせよ腕から血が滲み出てる、早く治さないと……!


「サナあっ! 治療をっ……」

「いえこれで、良い、んです」

「何が良いんですか、血が出てますよ!」

「ぐっ……。見て、れば。わかりますから」


 突き立ったペンをそのままに、頼りない足取りでスライム娘の元へ歩みを進めていく。

 喋っていたり、周囲を襲っていないから余程大事に至る事は無いと思うけどあの状態でスライムの前に出るなんて、食べてくれと言ってるようなもの。無策ではないだろうが飛び出す準備はしておくか?


「ふー……。ねえ、あなた」

〈アナタ、ハダレナノ〉

「リュート。あなたに試練を与える者です。門を通りたいなら空きっ腹の中でご馳走の前に耐えてみて下さいよ」


 そう啖呵を切り腕から血を一滴スライム娘の顔へ落とすと、体の中へ吸収され無くなった。

 これリュートさんは、スライム娘の理性を試すつもりか。食欲に抗うのは辛いだろうが、堪えられれば何よりの証明だ。


〈ウッ……。ア、ア、アア、クウゥウゥ……〉


 トロ顔。

 そんな逆境を見て、ちょっと応援したくなってきた所で彼女が浮かべた顔付きは、そう表しても差し支えない程には蕩けていて、今にもリュートさんは襲いかかられてもおかしくない状況だった。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




 愛おしくて、切なくて、堪らなくて。

 青い身体から湯気を迸らせ、熱い吐息を繰り返し、肩を上下させて、潤んだ瞳が妖艶にとろんと半開きとなった今のスライム娘からは、発情にすら思える快感への抑えがたい渇望を感じる。


「僕の体に流れる血の半分はドラゴンだ。スライムからすれば血の一滴すら刺激が強いだろう」

〈ハンブン、ドラ、ゴン……!〉


 しれっと凄いカミングアウト来たな……。

 生物として希少な程に食いつくいう話だからスライム娘からすればドラゴンなんてご馳走の塊、ましてや空腹状態でそれを我慢しろというのは最早虐待だ。


〈ハーッ……。ドラ、ゴン。ハァ……。ハァ……〉

「食べたいですよね? でもここで食べてしまったら、あなたは人型なだけで他の魔物と同じです」

〈チガウ! ワタシホカトチガウ。ガマン、スル。ニンゲンタベナイ〉


 意図を理解した為に先程までの発情は消えた。

 しかし体は正直で、変わらず身体から湯気が迸り瞳は潤んだままだし、なんなら我慢する姿勢に移ったせいで今度は口からよだれよろしくゲルが零れ落ちてきている。


「おや立派ですね。でも身体は欲しがってますよねえ、ほらほらぁ……!」

〈ヤメテ。ソンナコトシテモ、ナンテ、コト……。ウッ。チ、ドラゴンノ、チ……!〉


 リュートさん楽しんでませんかね。

 血が滴る腕をスライムの顔に触れる直前で寸止めするなんて、一歩間違えばぱっくり行かれる。にも関わらず清々しい程にゲスな笑顔を浮かべる辺りこの人にはその傾向があるのかな。


「さあ食べちゃえば良いでしょう。欲しくて欲しくて、堪らないのでしょう?」

〈ウッ。チガハイッテクル。アアナンテオイシイノ……! チガ、コンナニタクサン……〉


 今度は腕から滴る血を顔にかければ再びスライム娘は蕩けた顔つきに。

 しかしこの誘惑を断ち切らなければ、彼女は信用を獲得出来ない。たとえ人格を得ようとも元を辿れば魔物だ。言葉ではなく明確な拒絶という行動を以って示さなければ意味が無いのだ。


「確かにこのやり方が妥当だな」

「でもヨダレだらっだらだぜ、アレ」

「仕方ねえだろ。元は魔物だぞ」

「ちっ。さっきから何も変化ねえじゃねえか」


 それが総意なのは、周囲の人達が胡散臭い物を見る視線と声を鑑みればわかる。

 またやり方が我慢大会である以上、この試練は誰かが助けてもいけない。ブレイクスルーが起きるかリュートさんが認めたない限り、膠着状態が続くのは仕方がない。ただ可哀想と思わないわけがないが、ここで与しては今までの我慢が水泡、俺も我慢……!


〈ヤメテッ……。アヤマリタイダケナノ!〉

「あれっ、これは一体……?」


 そんな膠着状態が続き、半ば見世物と化した中でとうとう焦れたスライム娘が、リュートさんの腕をがっちりと掴んだ。しかも掴んだ部分は出血している部分だ。

 だが彼女の腕は血を取り込んでいない。否それどころか触れたものを溶かしていない。


「どうして。吸収や溶解は無差別のはず」

〈タブンアナタニ、イジメラレタカラ?〉

「適応したと? ふーむ……」


 唐突に起きた進歩に、一番キョトンとしているのは当人だ。

 まあ信頼されたかはともかくとして、理論的にはこれ以上の証明は必要無いはずだ。積もる話はあるだろうが、一度は喜んでおこう。


「僕は認めます。理性を持った生命であると。であればこの国はあなたを歓迎する……」

「はっ、はい! リュート様の仰る通りであります。ようこそブライトへ」


 そう視線を向けられた頭の固そうな若い門番は、慌てて同意した。

 さらにリュートさんはそのままスライム娘へ向けて頭を下げ、続ける。


「意地悪をして申し訳ありません。改めて、僕はリュート。あなたについて積もる話が山程あります」

〈ウン。メズラシイノワカル。ダイジョウブ〉

「そうですか。ところで名前は……?」


 名前。

 その言葉を聞いた彼女は、暫く考え込んだ後に理解したのか寂しそうにうなだれて、続けた。


〈ワタシ、サッキウマレタバカリナノ〉

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