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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
一章 鮮やかなる国 ブライト
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第一章 第四十五話 雨降る街にて

「ではこちらお願いします」

「……はい、確かにグラス・エキス規定量の五体分、それに観察記録ですね。お受け取りします」


 今日も盛況なギルドにて。

 火事跡地に寄り道し、サナの話を聞いた後俺たち一行は本来の目的たる納品にやってきた。今手渡したのは今回の討伐対象の体液と、その観察記録だ。

 因みに体液は茶色い瓶に入っているが、これはギルドから借りたものだ。入り口付近の倉庫みたいな部屋にポツンと置いてあった。


「檻があったのには驚いたけど……」

「どうしました、タクマさん?」

「いえなんでも」

「そうですか? じゃあ手続き進めますね」


 思考の一端が口に出たか。

 独り言なのを伝えると、リュートさんは瓶と観察記録をカウンターの下へ一度下げて、代わりに他の依頼でも見た書類と報酬を取り出した。


「先ずこちらお名前お願いします」

「はいはい……っと」

「ありがとうございます。ではこちら報酬です」

「どうも。よし手続き終わったぞ。外に出よう」


 報酬の銅貨が入った袋を受け取ってそう言うと、皆相槌を打った。

 まあこの後する事は特に決まっては無いが……。とりあえずサナの家にでも。



「ありゃ?」

「あれっ」

「マジかーこの短時間でかー……」

「おやおやぁ。嫌だねぇ」



 なんて考えながら、ここを後にしようとして。

 頭にポツン、とひんやりした水滴一粒。

 そして空を見れば鈍色の曇り空。

 異世界初の、雨だ。


「参った、傘は常備してるけど一つしかないよ」

「同じく、一つしかねえわ」

「タクマ、そのローブ水を吸収するから傘はフェルンに貸してあげて」

「そんな機能持ってんのか、これ。んじゃホレ」


 元の世界から持ってきた折りたたみ傘をフェルンに渡す。サナは着ているローブが同じく水を吸収するのか、雨具を取り出す事なくフードを被る。

 雨も降ってきた事だし、濡れるのは嫌だからやはり今日はサナの家で大人しくしているかな。


「——ぅぅああぁぁぁぁぁ——っ!」

「あれっ、なんだなんだ?」


 雨で濡れた、いつもより暗い石造りの街。

 悪天候に周囲の人々が住まいの方へ足を進める中でこちら、つまりギルドへ走る人影が一つ。背は俺より少し低い。


「あぁぁあぁ——」

「あぶねっ」


 そのままの勢いでギルドへ入った。

 後一歩前にこっちが出てたらぶつかってたな。にしても何をそんなに慌てているのだろうか。ちょっと様子を見てみるか?


「サナちゃん?」

「あらっ、あなたって確か……」


 入り口付近で彼は足を止め、名を呼んだ。

 ようやく姿を捉えられた。

 短い黒髪に一重の黒い瞳孔、この特徴はこの辺りだとまず居ない。まず俺や正行と同類だろう。


「おう、オラだ。アツシだよ!」

「やっぱりアツシ君だったんだ、久しぶりだね!」


 アツシと名乗った少年は、サナと握手した。

 サナと知り合いでこの名前なら、俺達の世界に居た人だな。だとしても気がかりが解消された訳では無いが……。


「おろろっ、ところでサナちゃんよ、大分顔色良くなってねえか?」

「そういえばアツシ君知らないよね。やっと契約者見つけられたの。そこのタクマがそうなんだけど」

「おおおっ! ソイツはめでてえな! そっちもよくぞサナちゃん受け止めたな!」

「おっ、おう。結構大変、だった、ぜ?」 


 近い近い、後何処か訛ってんなこの子。何処の出身なのだろうか。

 ともかく急いでいた理由を聞きたいんだけども。


「いやぁ、契約してんなら知ってるたぁ思うけんどサナちゃんの使命重たいかんな! オラも助けたいい気持ちはあったけども、さーすがになぁ」

「うんまあ俺も正直ビビってるよ。ところで急いでたりゆ……」

「だぁーって魔王さん倒せって言うだよ? んなの、とおーんでもない! 一旗挙げたい気持ちはあったけどもお断りしただよぉー……」


 だめだ我と勢いが強い。

 どこかで割り込まないと聞きたいことも聞けないし、ここは一旦話の腰をおらせてもらおう。


「そんだからまあ、アンタには……」

「話の途中で悪いんだけどさ、ちょっと聞きたい事があるんだ」

「おっとそうだっただか? 悪かったなあ」

「いや構わないよ。まあ大したことじゃない。急いでた理由を聞かせて欲しい」


 ようやく聞けた……。凄い捲し立てだったな。

 さっきまでの様子を見るに、かなり慌てていたように見えたからな。聞かずには居られない。

 にしても今の捲し立て方、まさか今の会話で忘れて……。なんていうのは無いよな?


「あっ、そうだっただ! オラ今はギルドに報告しに来てただ!」

「忘れてたんかい! まあいいや。それで何があってあんなに慌ててたんだ?」


 アツシは嘆息を漏らした後、いつもの平原に行ける南の門の方を向いて続けた。


「平原でな、全身真っ青の人型……のナニカ、を見つけただよ」


 そう自信なさげにこの上なく不気味なフレーズを放ったのだった。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




「平原で全身真っ青の人型、ですか」

「正直オラもビビっちまってよ、見た途端尻尾巻いちまってなあ。正確かはあんまし自信ないだ」

「いえそのような状況にありながら、こうして報告にいらしてくれた時点で大変助かっていますよ」


 再びギルドにて。

 現在アツシ、改め本人が紙に書いてくれた【要海敦】年齢十五歳はリュートさんに報告中だ。因みに俺たちの世界出身なのも本人の発言で確定した。

 ここまでの報告でわかったのは先ず、その青色のナニカは人、というか女性型で目や鼻、口はハッキリとあったらしく容姿は青色なのを除いて人間らしい姿をしていたんだそう。


「しかし、これだけではまだちょっと情報として弱いですね。アツシさん、まだ何かありませんか。小さな事でも構いませんから」

「そーだなあ。後はこう、ドロッとしてたというか液体だったような……。その位だあよ」

「青くて、ドロッと?」


 リュートさんの顔つきが変わった。

 恐らく思い至ったものがあるのだろう。俺も今の「青くてドロっと」で心当たりがある。


「アツシさん、それって——」

「スライムじゃないか?」


 リュートさんの言葉を継いだ。

 そして彼は「僕も同じです」と零す。

 やっぱり青くてドロっとならスライムだ。


「スライム? いやあそれはないだよ。人型のなんて、オラ見た事ないだ」

「あれっ、じゃあ違うのかな」


 と思ったが本人の言葉で否定された。

 しかし一方でリュートさんはまだ納得していない様子で、何事か呟き数枚の資料に目を通した後口を開いた。


「スライムが生物を喰らうのは生存活動だけでなく、他の生物の情報を元に進化するのも兼ねているのをご存知ですか?」

「そんなの出来るのかよアイツ!?」

「知ってるけんど体の一部だけと聞いてるだあよ」


 今のは言外に「スライムは人型になる」という可能性を示唆している発言だったが、敦は以前から知っていたようだ。

 つまり敦は件の青い何かはスライムなのでは、と思いながら前知識であり得ないと断じたのか。


「ご存知でしたか。可能性としてはスライムが一番近いと僕は思っていますが」

「アイツは完全に人の形になってただ。だからスライムの筋はオラ無いと思うだ」

「言われてみれば、スライムが人の形に完全になるなんて前例は僕も聞いた事がありません……」

 

 二人が納得した。

 そのスライムが行うという他の生物の模倣、という名の進化の再現度が、何に左右されるかわからないのが引っかかる。しかしリュートさんも納得したならスライム説は無さそうだし、他の魔物だと考えた方が良いはず。



「待ちたまえ二人共。今の推理はあり得る、否間違いなくスライムだよ」



 誰しもが納得しかけた時、声量は大きいが低くも高くもない声音が響いた。

 声の主は今まで黙って考え込むだけで、話題に突っ込んでこなかったフェルンだ。


「間違いなく……って何故断定出来るんですか」

「んだんだ、何か理由あるだか?」

「それは今回の件が大体ボクのせいだからだ」


 唐突且つ淡々と行われた罪の暴露に議論していた当事者は、疑問を通り越して呆れてしまった。

 まあ俺も二人の立場なら同じリアクション取るだろうけど、フェルンがこういうからかい方をするとは思えない。顔つきや声色は至って真面目だし。


「えっと……。ボクのせい、というのは?」

「それは、だね。スライムの模倣の再現度、何に左右されるか知ってるかい?」

「んだぁそれは。んなもん関係あんのか?」

「大有りなんだよね、これがさ」


 問いに対して問いで返され二人は少し憤りを覚えている。フェルンの少し悪い癖なんだよな、あれ。

 でもなんだろう、今こうして問答しているフェルンからは、ちょっと余裕の無さそうな。


「んー……。んんんー……! だぁーめだ、わからんだ、答えを教えるだよ!」

「ずばり量と質だよ。食らった情報の量が多く、また生物が希少である程その生物に近くなる」

「んぁ? 普通じゃねか。それとアンタのせいの何が関係があるって……」


 事情を知らない敦以外は、思い至った。

 勿論俺もわかった。

 成る程これはフェルンのせいだ。けどフェルンは悪くない。わざとなんかじゃなくむしろ被害者だ。

 そして思い至った皆が、同情の視線を無辜の戦犯に送る。


「えと皆、これはどういう事だ? 田舎モンのオラにもわかるように説明してほしいだあよ」

「いや敦は悪くないよ。そしてフェルンも」

「ああその通りだ。何せアイツは派手にスライムに食われちまっただけだ」

「へっ!? スライムに喰われ……。嘘だ!?」


 事情を理解して、驚愕の視線を向けられたフェルンは思い出したくない記憶を思い出したのと、これから起こる出来事を想像してか、長い長いため息を吐くのだった。

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