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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
一章 鮮やかなる国 ブライト
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第一章 第四十二話 n回目の朝

「すぅ。すう。すうぅ……」


 意識が覚醒する。

 朧げな意識に、小気味良い寝息が聞こえてくる。

 あれっ、何で寝息?


「おわあぁっ!」

「むにゃ。も……。た、れないよぉ……」

「そういえば、一緒に寝てたっけかー……」


 隣にはすやすや眠るサナが。

 確か記憶を辿ると昨日フェルンを治して、曇り模様のような空気の中で家に帰り、サナだけは真夜中に目を覚ましてくれて……。


「前から気になってたのが明らかになって、変に安心したから、こうなったんだっけ?」

「んごごごっ……」

「……うるせえなおい」


 可愛らしい寝息が聞こえる中で、約一名のいびきが聴こえて安心した。

 深夜でおかしめのテンションで及んだ行為故、いざ当人と顔を合わせたらどうしようと思ったけど、いつものコイツの呑気さを見たらサナも人だからなあ、と思えたようん。


「さてじゃあ行動開始、と」


 元の世界から持ってきたパジャマから、こちらの世界のチュニック風の服へ着替えようとした時、微かな、されどしっかりと主張する吐息が聞こえた。


「ふー、ふうー、ふぅー」

「フェルン——」


 まだ目覚めてくれないか。

 朝起きたら「心配したかい?」なんてからかい気味に言って、すっかり治った自分を見せびらかしてくれないかな、とも思ったけど駄目か。

 瑠璃ちゃん曰く身体は完治してるから、後は自然に目を覚ますだろう、と言ってたからその内目を覚ましてくれるとは思うが。


「生きてたから良かっただけだよ、こんなの」


 誰にも言わなかったし、気のせいかもしれないけどフェルンがスライムに拘束される一瞬だけ、動きたくとも動けないように見えたんだ。

 仮にそうだとしたら、奥の手を使ったことによる代償だと思う。だからもし仮説が肯定されるなら。


「完全に、俺のせいで」

「くす。不細工な顔だねえ?」


 頬に触れる柔らかな手。

 ふっくらした幼い顔付きに、しっかり開かれた赤と白の双眸。そしてくすくす笑い——


「フェルン、おま、目が、覚めて……っ!」

「ボクを願う声がやたらとうるさくってね。おちおち寝ていられなかったよ」


 体を起こしながら「もう大丈夫だよ」と暖かな声色で言って、俺の頬を優しく撫でながら続けた。


「あの時の事を悔いてるなら、その必要は無いよ。動けなくなるのはボクも知らなかった事だ」

「いや、じゃあ尚更だ! 俺があの時奥の手なんて何かの形で隙ができるって判断できてれば!」


 仮説は立証された。

 ついさっきまでフェルンが気絶していたのは、俺のせい。あんな提案をしていなければ、フェルンはこんな目には。


「なんで、何も言ってくれないんだよ……」

「キミの罪悪感は無駄だからね。被害を受けたボクがなんとも思ってないんだよ?」


 声色が凍てつき、同じく冷え切った感情を持った白い目に見据えられて寒気が走る。

 本人はもうなんとも思ってなくて、色んな人にお世話になったけど傷は完治させれた。ならもう俺が受けるべきお咎めは何らなく、確かに俺が抱える罪悪感なんか無駄でしかない。


「……でも、俺は……」

「罪悪感を払拭したいだけなら、そのまま抱えて猛省し続けたまえ。それこそが最大の罰だ」

「罪悪感を拭いたいだけなんて、そんな、事は」

「あるよね? キミってば変に真面目だから」


 熱い悪感情を孕んだ赤い目が、鋭い細剣の切っ先のような視線を向けてくる。

 さっきまでの慈悲深い視線とは大違いで、今俺が行おうとした事への拒絶が如実に表れている。


「わ、かったよ」

「理解したなら良い。ボクはこうなんだ。悪い奴と思わないでおくれよ?」

「思ってないって。それは入院した時理解してる」


 悪人なもんか。

 魔法について何も知らなかった俺に、基礎から応用まで懇切丁寧に、わからないのは噛み砕いて、理解するまで教え込んでくれたのは他でもないフェルンなのだから。

 ただ思うことが無いわけではなく、感情的な面において相容れなくて、今のも不器用ながら突き放した事への呵責から謝ったつもりだろうけど、上手く出来てない辺りやっぱり天使なんだなと思う。


「ずごごっ、んがごごごごご」

「あっ、そういえば」


 なんて感傷に浸っていた所へ、大きないびきが聞こえてきてふと思いつく。

 何もフェルンが意識を覚ますのを待っていたのは俺だけではないもんな。


「起きろ、フェルンが目を覚ましたぞ!」


 正行からサナへ、順に身体を揺すぶる。

 しかしまだ眠いらしく嫌そうな声を挙げるだけで、起き上がってくれない。


「あれ。なかなか起きないな……」

「まあそりゃそうだね。外を見てごらん」

「外ぉ? もう朝で……。あっ」


 カーテンを開けると、日は確かに昇っていた。

 しかし寝間着姿の人が数人だけ自らの家の玄関前で、日の光を浴びて目覚ましをしている。つまりまだ時間はそれだけ早い。しかも多くは主婦と早起きのお爺さんばっかり。


「ごめんまた早起きしちまった」

「くす。二人共疲れてるだろう。休ませようか」


 旅行でよそに寝泊まりした時とか、慣れない環境だと早起きしちまうんだよなあ。

 でも起きてしまったのは仕方ないという事で、外に出て体操したりして二人が起きるのを待った。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




「いやあ、この世界ってちょいちょい凄いよな」

「凄いって、何が凄いと思うんだ?」


 洗面台で歯ブラシを口に突っ込みながらそう思う。

 寝ぼけた二人が、食卓に先に着いていたフェルンの姿を見て即座に眠気が吹っ飛び、ダブルハグを受けた、実に喜びに満ちた朝食後に考える事でもないだろうけど。


「だって上下水道整ってんじゃん」

「ああー……。言われてみればそうだな」


 驚いた事に、この世界は蛇口らしきモノを捻れば水が出るしトイレは下に蓄えたりも、外にポイもしない上王城は二階より高い所にトイレがあった。

 蛇口の形や模様を見るに、俺たちの世界の模倣だろうし魔法もがっつり使ってるだろうが、それでも再現出来ているのは凄い。


「でもタクマとマサユキ、これってどこにでもあるって訳じゃないんだよ」

「へえ、一般的な家では手が届かない?」

「手が届かない事はないかな。ただこの国以外、例えば砂漠の国なんかは貴い身分のお宅位しか使わないの。だからどこにでもは無いかなって」


 ああ成る程、水が希少な環境下なら普及する事はないな。

 水は大切だが、貴族しか使わない程高くつくならこの世界は魔法があるからそれで水は確保できるので、水道を整えるより大事なモノへコストを回したいと考えるだろう。


「因みにだが、昨日のスライムは下水道の仕組みの一部のはずだよ」

「そんな所に利用されてんのかアイツ!」

「ああ少し長くなるが……」


 そう前置きをして、深く息を吸ってからフェルンは続けた。


「あの旺盛すぎる食欲は調教されたので間違いない。スライム自体は自然発生するが、あの食欲の個体は下水用と夢幻迷宮位でしか発生し得ないからね。仕組みとしては汚物を食らわせて分解、水は身体の増長の主成分だから蓄える故、最後に特殊な工程を踏んで水のみ取り出せば綺麗な水の完成だ」


 はえぇ……。ホント博識だよな。それはそうと昨日のアイツの食欲と溶解液の分解力については合点承知だ。

 要は本来この辺りだと発生し得ない業務用のタイプだからあんなに強力なんだよ。あんなのがわいわい居たら、あの草原がはげ山になっちまう。 


「んで、特殊な工程ってのは?

「これが機密事項でね。悔しいけど知らないんだ」

「成る程そこで稼ぐ訳だ」

「ねえ、ところでタクマ」


 等と会話を交わしていると、サナが入ってきた。

 顔つきからして爆弾を放り込んではこないだろうけど、どんな用だろうか。


「今日はどんなクエストを受けるの?」

「クエスト……。ああそうだったな」


 すっかり忘れていたが、冒険者は旅する何でも屋。昨日のスライムの失敗が嫌でもチラついてくるし、言い方はちょっと格好いいけど夢幻迷宮のような事がないなら、クエストを受けないと働いてないのと一緒。つまりニートだ。


「それは駄目だ。ギルドへ急ごう」

「タクマ、そんなに強く磨いたら血が出るよ!」

「おわっ、やべぇ」



 そんなこんなで歯を磨いて着替えていない者は着替えて、荷物を持ってからギルドへ向かった。



「おおやってる、やってる!」


 ギルド到着。

 木製の奥へ開くドアを開けると、いつもの盛況ぶりだ。さて先ずギルドに入ったらする事は——


「あらよっと」

「ほお躱したか、やるようになったな小童ァ」

「あんたも懲りねえなぁ……」


 振り返るとムロウスが腕を組んで立っていた。

 これで三度目、パンチがキックに変わったところで、入る時に警戒してるから意味ないっての。


「アンタとじゃれあうつもりはないよ。クエストをやりに来ただけだからさ」

「待て、そのクエストについて話があんだ。依頼書渡して話したいからコッチ来い」


 そう告げられ、一方的で少し癪だったが付いていくと黄色い殲滅クエストから依頼書を一枚はがし、手渡された。


「グラス・スピリットを五体討伐、報酬は銅貨八枚。場所はいつもの草原。これがどうしたんだ?」

「問題は討伐対象だ。普段より多く見られてっから、調べるのに討伐ついでに観察を頼みてえ。無論報酬は少ないが別途出せっぞ」


 少しの手間で普通より多目に報酬が出るのか。

 依頼書曰くこの魔物、見た目的に魔物か怪しいが手のひら程の透ける緑色、つまりクリアグリーンの球体に羽がくっついた見た目で、攻撃は草で叩いてきたり水や土の魔法を繰り出してくるらしいが、どれも威力は低いらしい。


「よし受けるよこの依頼。リュートさんに渡せばいいんだっけか」

「待つんだタクマ、そのクエストは少し面倒だよ」

「面倒っていうのはどういう意味でだ?」


 リュートさんの所へ依頼書を持って行こうとしたらフェルンに止められた。

 面倒とはなんだろうか、草で叩くだけでなく実はもっと応用が効いて転ばしてきたりくすぐってきたりでもするのか? なら確かに厄介だけども。


「それ五体と書いてあるね。期限一日では不可能だ。ボクも探した経験があるが、二体が関の山さ」

「期限は大体どのクエストでも一日だけど、なら何でこんな難しいのがここに……?」

「偶々見かけただけの輩の大多数が、三体は一度に見てる。知識があるなら異常なのわかンだろ」


 掲示板にもたれたムロウスの放った台詞に、フェルンの表情が凍りつく。

 今ので何となくわかったけど、恐らくはグラス・スピリットなる魔物はメタルな奴よろしくレアな魔物なんだろう。


「そしてそんなレアなのがじゃんじゃん湧いていると。これはやらないと!」

「話は聞いてましたよタクマさん。ご協力に感謝させて下さい」


 どれ程重篤か理解し、カウンターのリュートさんに依頼書を手渡してサインを書いて、俺達は目当ての魔物を探しに草原へ向かった。

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