第一章 第三十八話 変身少女
「じゃあ改めて。私がこのパーティーのリーダーの高津瑠衣。能力は【跳躍】でクラスは斥候ね」
「ええ改めてお願いします、瑠衣さん」
長い黒髪を揺らし「歳はヒ・ミ・ツ」と切れ長な目でウインクを飛ばし、嘯く瑠衣さん。そのセリフから察するに多分三十くらいって所か。
現代的で動きやすそうな服の上に、皮鎧とそれのみでカバー出来ない範囲をプロテクターで補うだけと、成る程斥候らしい。所でプロテクターとその服は持ってきて良かったのだろうか。
「次は自分っス。本田善也、歳が二十六のクラスは重戦士。チート、いや能力は【怪力】で内容は文字通りって所っスね」
「へえ重戦士なあ。俺とはまた違うんだっけか」
「そうっス。守り重視と思ってくれれば」
瑠衣さんに続いて名乗った男性と、正行がそんな風に言葉を交わしていく。
彼女とは対象的にガチガチに固めた鉄製の鎧兜に、嫌でも目に入る脂肪の詰まった腹と全体的に太い体型が印象的だ。そして能力が怪力と絵に描いたようなパワーファイターだな。
「っどくせぇ〜……。けどまあ名乗っとくわ。青井真也、二十六。魔法使いで【軌跡】を使える」
「ほほう、その軌跡とは如何なる加護なんだい?」
「ある一定範囲の過去の情報を追うっていうトコだな。オレ達の世界の奴らならブラウジングのが通りがイイだろ」
通りが悪かったのか首を傾げるフェルンに、怠そうにしつつも真也は説明を続ける。
姿格好は他二人と違い黒髪ではなく金髪で、善也さんが名前通り人の良さそうな目つきだったが彼は三白眼。さらにデカイ英字柄のシャツに黒ローブ、しかも着崩してるもんだからえらくガラが悪い。
「けどブラウジングって……。凄く便利じゃんか」
これは驚いた……。
首を傾げる約二名には伝わらないだろうが説明をそのまま解釈すると、この世界の情報をインターネットを検索するように調べられるという事になる。情報戦において絶対的な力だ。
ただ会話の様子を見るにあまり自信を持っていない、というよりそもそも戦闘系の能力じゃないのがコンプレックスなのか?
「えと、私はアリサ・瑠璃・クラーク……。十二歳で白魔法使いです」
「【変身】ってのを使えるんだよな。どんなの?」
「所持している何らかの媒介から魔力を抽出し、それを自身に宿して……」
「うんごめんサナ、見た方が早そうだ」
初見からそう思ってたけど、瑠璃さんは白いローブのフードを目深に被り、俯き加減な態度から大人しい性格なのだろうか。
能力についても、サナが代わりに説明しようとしてくれたけど難しくてよくわからない。クラスだけは白魔法使いという事で、回復や防御を担当するのはすぐわかったが。
「自己紹介ありがとう。次は俺達がするよ」
「拓真君とサナちゃんの事は聞いてるけど、後の二人はよく知らないものねえ。お願いするわ」
というわけで、同じように全員の事を話した。
正行が元の世界出身であったり、俺の幼馴染である事や皆のクラスと年齢、ちょっとだけ趣味について雑談を交わしたり。但しフェルンが堕天使なのは当人が翼を小さくして服の内側に引っ込め、わざわざ隠しているので、秘密にしておいた。
「あなた達の事は大体わかったわ。こうして見ると面倒な事に首突っ込んじゃったもんよねえ」
「僕含め好きでやってますし」
「ふーん、まあ良いわ。ところで今の状況って誰か説明出来る?」
言われてみれば彼らは、二層で魔改造ロボと交戦し、瑠璃さん除いて倒されてるからそこからの記憶が無いわけか。
さっきは饒舌に喋っていたけど、本来喋るのが苦手そうな彼女に説明させるのは酷だな。
「じゃあ僕がその辺について」
「いやここはボクが話そう」
「えっ、別に構わないけど、何でまた?」
「こういうのってボクの役柄だろう? あまり取らないでくれたまえよ」
「自分ら的にはどっちでも良いんスけどね……」
何故かフェルンがむくれている。
まあ確かに、フェルンは解説キャラという点について異論は無いが、わざわざ名乗り出てまでやる事なのか。いや本人からするとアイデンティティーの危機なのか?
「ここは一層のゴーレムが居た部屋だ。キミ達があの改造されたワイズギアに倒された後、ボク達が偶々通りかかり、一度引き返してきたのさ」
「それで、件のワイズギアどうなったの?」
「くすっ、キミ達を守りながら奴を倒せって? 流石のサナでも不可能さ。冗談はよしたまえよ」
自分から名乗り出るだけあって的確な説明だ。
それならもう一度あの部屋に行って進む、というのも考え得るが……。
「うん? じっと私の顔見てどしたの」
「いやごめん、なんでもない」
見たのは顔じゃなく髪の毛だけどな。
ロボとの戦闘及び、瑠衣さん達の治療で魔力を使ったのか魔力が大分溜まってきてるな。髪の毛が真っ青になってるから、もうサナは戦力としてカウント出来ないぞ。
「倒して先に進みたいのは山々ですが、僕らは一度街へ戻りたいのが正直なところです」
「理由を聞いても……と。ああ成る程な……」
瑠衣さん達はすぐ察したようだ。
戦力としては、他所のメンバーとはいえサナが戦闘不能なのは痛手なのはよく分かる。
「撤退しましょうか。傷は完治したとはいえ疲労は残ってる。アレの相手は万全の態勢で挑むべきよ」
そう言って、ぐるりと周囲を瑠衣さんが見ると反論する者や首を横に振るものは居ない。
むしろ頷く者や相槌を打つ者のみで、満場一致の賛成だ。
「決まりね。ここから出口へ向かうわ」
そう瑠衣さんが言ったのを皮切りに、皆足を出口の方へ向けて歩んでいく。
ゴーレムは倒したから、多少魔物は出現しても危険なのは出てこないと思うが……。
「真也さんと言いましたっけ」
「あん? オレに何か聞きてえのか」
「ここってどんな魔物が出てくるんです?」
「下の層行くと色々居るだろーが、一層目なら出る魔物は一種類か二種類で数も少ねえのがお約束……。ここだとあのデケエ芋虫だけだろ」
どこか気怠そうだけど、情報提供感謝だ。
数が少ないなら出てきた所で脅威ではない。
「なら安心ですね。情報どうもです」
「この位基礎知識だ。まあ安心はしても——」
良いだろうよ。
恐らくそんな事を言いかけたのだろうか。
何故か真也さんはその場で歩みを止めると俺の前に手を出して進めないようにして。
「スウゥ——……」
深く、息を吸った。
「ここを曲がった所の出口付近に大規模なデカ芋虫の群がある! 通路が埋め尽くされるレベルだ!」
あまりに突拍子のない情報。
耳を疑ったが、前の方に居る正行や善也さんの青ざめた顔つきが、それを裏付ける……!
「今はこれ以上進むべきじゃねえ。一旦準備をしてから、奇襲かけて纏めて潰す!」
「どちらにしろ出口はあれだけだしね……。それが良いと思うわ」
その視線の意図は、こちらの意見か。
同じように正行はすぐ頷き、後ろを見るとフェルンやサナも同じく頷いた。こっちも問題ない。
「なら一度戻るわ。さっきの小部屋に……」
「その必要は無いよ」
食い気味に、高い声の誰かが否定した。
「その必要は、無い」
声の持ち主は瑠璃さんだった。
彼女は通路を埋めるジャイアントワームの群れへ、綺麗な丸くて青い石を手に静かにゆっくりと歩みを進めていく。
「この玉石に宿る力よ」
一歩進み、一つ呟く。
フードを取るとくすんだ長い金髪が露になった。
「我が身にただ一時仮初めの力を」
二歩進み、二言呟く。
何となくだけど雰囲気が変わってきてる?
「其は水の力。この身救いし者が託せし、激流の如き力」
三歩歩み、三言程呟いた。
見間違いか?
髪のくすみがちょっと青みを帯びてきていて、服も青くなってるような……?
「行きます、【変身】——!」
駆け出して跳躍し、石を掲げて巨大芋虫の群れに突っ込む——!
「なんだありゃ!?」
「泡みたいなのに包まれた?」
突っ込んだ直後。
瑠璃さんの身体は泡に包まれ、中は発光して見えなってしまう。でもこの感じは知ってる。
「サナさん、力をお借ります!」
「うん今ちょっと怠いし、任せる」
泡が割れて出てくると、様変わりしていた。
フードはうさ耳っぽいのが生え、波打つ。
袖は天女等が着る羽衣のような布が付いた。
髪は金髪のままだが、ハイライトが青色を帯びている状態で、とても不思議な色合い。
「グレイト・ウォーターブレイド——ッ!」
見慣れた水の力を借り受けて戦い、服装や髪色といった要素が変化する。
俺が知る限りで適切な表現は、そうだな。
「「変身ヒロイン……!」」
俺と正行の声が被り、善也さんも加え謎ハイタッチを決めている間に、瑠璃さんがジャイアントワームを一撃で薙ぎ払ってしまった。
_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆
「いやぁー……驚いたぜ!」
「全くだ! まさかこの子があんな風になるなんて思わねえだろぉ!」
「でしょでしょお! 自分ントコの瑠璃たんは勇ましい上に可愛いっスよねえ!」
迷宮から脱出して、ギルドへの帰り道。
瑠璃さん、いや瑠璃ちゃんが全部なぎ払ったその強さと青みがかった金髪にうさ耳フードと目の色も水色と化し、おまけに魔力によるものであろうオーラを纏い、神秘性と猛々しさを伴ったその、二次元じみた可憐さに俺達三人はぶちのめされていた。
「……! うぅうぅ……! んぐぐぅ〜〜!」
尚当の本人は萌えの対象にされて悶絶している。
だがこればかり仕方ない、流石に魔法の世界でも無いだろうと思っていた変身ヒロインが実在したのだから。しかも何かしらの力を借り受けて戦うなんていうゲキアツな能力となると、もう、ね!
「水を挿すけど、キミら目的忘れてないかい?」
「目的っていうと何だっけか?」
「やれやれだ……。報告だよ報告」
はっ、そうだった。
ギルドへ報告をして始めて依頼達成、これはクエストの決まりごとだった。因みに国からの依頼なのに報告するのがギルドなのは訳があるらしく。
『冒険者側の事を考えて、ギルドの職員さんが国の指名した人に、クエストとして依頼してるの』
という事だ。尚サナの知識である。
正直王様との面談は凄まじく緊張したから、この気遣いは助かる。国は時間取らなくて良いし、冒険者側は慣れない礼儀作法を気にしなくて済むと、誰も損をしない。
「んじゃ丁度ギルド見えてきたし、山程ある報告しなきゃなのは怠いけど、やっちまおう」
「同席させてもらうわ。報告が山程あるのは私達も同じだもの」
こうして迷宮に入る前は朝だったのにすっかり日がてっぺんに登って、真っ昼間の営業盛んなギルドのドアを開いたのだった。




