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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
一章 鮮やかなる国 ブライト
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第一章 第三十五話 賢い機械

ヂヂヂ、ヂ。


 火花。

 土色のゴーレムには異質な、明るい赤が胸のあたりに燻り、線香花火に似た音が耳に入った。


「……臭い……?」


 金物が焼けている。

 あまり日常的には嗅がない、特徴的な悪臭。

 ふと皆の方を見れば、攻撃に夢中だ。


〈…………〉


 なのに。

 ゴーレムは一度も反撃をしない。

 四肢をもがれる事は無くともあちこちに穴が空いていて、目に灯った光は明滅を繰り返し危機的状況なのは明らか。


「なら答えはそういう事、だよな」


 脳裏に自爆の二文字の言葉が過る。

 そして浮かんだ光景に虫酸が走った。

 やらせない、絶対に止めてやる。所詮この体にある魔力はいくらでも補充が効くんだよ……!


「間に合え——」


 一歩、二歩、三歩……。

 遠い、目に見える範囲に皆居るのに。

 守れそうな距離が、遠い!


「届いてくれえっ、グレイト・シールド!」


 ゴーレムの前に俺の背丈くらいの盾が出る。

 皆意図を分かってか、盾を目にした途端後ろへ跳び俺の方へ走り込んできてくれている。

 なのに、後少しだけ。


〈オッ、ゴゴッ……ガガガギギギ!〉

「足りないっ、足りねえんだよぉぉぉ……」


 ゴーレムは赤熱し始めるのと共に、こっちの思考も熱くなる。

 病院での練習からして、普通の魔法を十発程度放つだけで俺の魔力は尽きちまう。そして現時点でもう五発は打ってるのに、ここでグレイトのシールドを使ったのが失策だったのか。いやそもそもサナに任せておけば、しかしあの時点で気づいてなくてこうするのが的確であって……。


「もうちょっとだけ、もうちょっとなのにぃ!」

〈グガ、ガガガッ。ギギギ……!〉



 ゴーレムの身体が真っ赤に染まり吹っ飛んだ。

 遅れて轟音が耳をつんざく。

 そして爆風が目の前。



「せめて、せめてっ。飛ばされないぞ……」


 爆風に盾が押され、焦りで思考が焼け付く。

 発生源は俺の腕、俺が動けば当然盾も動く。

 それがわかってるのに、身体に粘りが効かない。もう魔力がないから皆を守るどころか、目眩がして足元すらおぼつかないなんて……ああ情けない!


「一人で頑張るなんて。ちょっと私寂しいよ?」


 そんな中、背中に手が当てられた。

 慈しむような触り方で、誰の手かすぐわかった。

 手を当てられた背中を始めに、頭の先から足の爪先まで魔力が送り込まれていくのがわかる。


「ああこれなら。きっと大丈夫」


 身体に魔力が戻ったので、盾を爆風から守れるくらいに広げる。

 あとは止むのを待つだけなのだけど、あのゴーレムが自爆する時不自然だったというか、自分も驚いてるような素振りをしてたのが気になるなあ。


「まあ今は一旦棚上げしとくとして」

「どしたのタクマ。まだ爆風は」

「ほんとに、ありがとう」


 顔だけ後ろを向いて告げた。

 言わないと、と思っても口にしなきゃ同じだからこれまでの分も言いたかったんだ。


「ふう。もうちょっと後で言えば良いのになあ」

「えっ、あれれっ」


 そっぽ向かれちまった。

 戦闘中というタイミングである以上、確かに良くないかなーって言いながら思いはしたけども、やっぱり駄目か。難しいなあ人間関係って。


「皆、風が止んだようだよ」

「みたいだな。シールドを解除するよ」


 フェルンが言ったのを合図に力を抜き盾を消す。

 これでゴーレムが塞いでいた前方へ進める。といってもこれから先出てくる魔物の事を思うと、達成感より嫌気のが強いけど。


「あそこ小部屋になってんな」

「本当だな。何となく意味ありげに見える」


 ゴーレムが居た方向を正行が指している。

 目視できる限りでは壁と床以外に物は無いけど、何も無くては、あんな人が一人入れるか程度の小部屋が存在する意味が無い。


「よーし早速行ってみ……」

「待ちたまえよキミ達。その前にこいつだ」


 大破したゴーレムをフェルンが見つめる。

 コアは破損し、目の灯りは消えて最初出くわした堅牢な姿は見る影もないスクラップと化し、目覚めることはなさそうだけど、まだ用があるらしい。


「ボクの知る限りゴーレムは自爆をしない」

「え、そうなのか?」

「拠点を守護して時間を稼ぐのが役目だからね。だがボクらは自爆を受けた……」


 神妙な面持ちを崩さず、しかしどこか困惑の見え隠れする顔つきで「つまり」と続けた。


「こいつは異常だ、パーツを採取しておきたい」

「まあそれ自体いいよな、サナに正行」


 二人共相槌を打った。

 そこで先ずはサンプルとして、コアをはじめとしたパーツを採取してから小部屋に向かう事とした。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆



「驚いたよ。あいつと同じ変異なんて」

「事実だよタクマ。嫌気が指す程見てきたから鑑定の精度は保証する」

「んむむ、そりゃ他ならぬフェルンだけどさあ」


 未だ現れた事実を疑ってしまう。

 ついさっきフェルンが件のゴーレムを調べてみたところ強い火の反応、つまりパイロシープと同様の反応がコアから見られた為、この夢幻迷宮にもテウメスの息がかかっている可能性が出てきたのだ。


 尚何故そんな事が判るかは年の功との事だが、問題の年齢については。


『人が生まれた瞬間と同じだよ?』


 等と大変にこやかに答えてくれた。

 何となくその笑みに、仄暗いモノを感じたのは気のせいだと思いたい。


「まあともかく前にだね皆……おや」

「どうしたフェルン、何かあったか?」

「ふむ、珍しい事もあるものだ」


 宝箱だ。

 装飾がなくて飾りっ気のない青色の宝箱が、ひっそりと部屋の端に置かれている。あまりに地味だったものだから気づかなかった。


「これ罠じゃね?」

「こうも階段の近くにあるのはおかしいね」

「まあ調べてみないと。【トラップサーチ】」


 サナの足元に白い魔法陣が現れ広がっていく。

 特に視界への変化は無いし、フェルンや正行も同じような反応だ。名前からして罠探知だけど察するに、本人にしか見えないのか。


「うん、罠じゃないね」

「そりゃ良かった。でも用心に越した事はない。俺が一人で開けるよ」

「異常があったらすぐ言って」


 というわけで俺一人でフタに手をかける。万一があっても被害は一人で済むからな。

 うむむ、ちょっと手が汗ばんできたな。ちょっと擦ってからさあ一、二の三……はい!


「せーのぉ、でっ!」


 宝箱が開く。

 思わず目を瞑り顔を手で覆うが……。

 特に何も起こらない。


「目を開けて大丈夫だよ」

「おお良かった。それで中身は?」

「んーもしかして、これは」


 宝箱の中にあったのは白い杖だ。

 ただ木製でも無ければ石製でもなく、金属製でシャープなデザイン。それに魔法使いが持ってそうな杖の先にある宝石がありそうな部位には、何か嵌めれそうなくぼみが存在している。


「これ【ワイズ・ギア】だね。タクマは見るの初めてのはずだよね?」

「ああ、言葉にすら聞き覚えがないよ」


 返答に対してフェルンは「そうだろうねぇ」とどこか遠い目をしながら続けた。


「当たり前だけども、現在であれ過去であれ、キミら以外にも召喚者は存在する」

「サナにも聞いたよ。あっちの世界の影響を受けてるんだってな」

「そうだね。時計や住居、水道に衣服。そしてこのワイズ・ギアもその一つさ」


 しれっと爆弾ぶっ込んで来たな!?

 道理でデザインがシャープで、何かこうSFに出てきそうな見た目をしているわけだよ。こっちの世界の文明を取り込む力怖えよ。


「くすっ、驚いたかい?」

「まさか出所が元の世界とは思わないからな……」

「いい傾向だ。ワイズ・ギアはとても応用が効いてね。無闇にアイデアを出すと大変な事になる」



〈ピピ、オ、ガー。ソウ……ジ。ニンム、スイ……コ……ガー〉



「例えばああいう哀愁漂ようロボ娘とか?」

「うん。正にああいう奴のことを言いたかった」


 部屋の外を通りかかったメイド型ロボット。

 外装は無く配線と基盤は剥き出しで、人工の髪の色はもうわからないくらい汚れている。


「あいつに何があったのかわからないけど、この杖の取り扱いには気をつけようと思ったよ」


 胸の機械から映し出される「Error」の文字。

 その機能は無くとも、この杖がリスキーなシロモノなのはよくわかった。

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