第一章 第三十三話 迷宮攻略開始
カツ、コツ、カツ、コツ……
響く足音。
靴越しに返ってくる、硬い石の感触。
「今度は遺跡かぁ」
無人だからか、音の一つ一つがやたらと大きい。
壁も床も同じ黄土色で固く、加護ありきでも意図はわからないけど壁画や文字が見受けられる。文明があったのか?
「明るい……。無人のはずなのに松明がある」
「それも夢幻迷宮の特徴なの。形は問わず、必ず視界は確保されてる」
大分白くなった髪を揺らしサナは淡々と語った。
形というのは、さっきの凍結洞窟の反射する光とかが該当するのか。んで今居るこの遺跡では松明なわけだ。
「さて今回の目的ついて改めて語ろうか」
「パイロシープって居たでしょ?」
「あの化け物羊か。あれが関わってると」
「うん、その亡骸の中にあったのが、これ」
言葉を継ぎながらサナは地図を示した。
魔物が何か落とすって、よくあるRPGみたいだな。倒した魔物から素材を取りたいと思ったのをよく覚えてる。
「魔王の尖兵かもしれない魔物が落とした地図の中を、一般の冒険者が入るのは危険すぎる」
「だから俺らが下調べで入ったってわけだ。つっても深入りはしない予定らしいがな」
振り向かず一方向に進む正行達はそう述べる。
約一名除いて戦力的に普通だけど、大丈夫なのか気になる。まあその約一名がバケモンだからペース間違えてポンコツにならなければいいだろうが。
「それから、この地図ちょっと見てて?」
先頭で進んでいたサナが振り返った。
何か伝えたい事があるらしい。
「どれどれ……。あれ、んん?」
渡されたのは、さっきの地図の裏面。
どうやら裏面も地図の役目を果たすらしく、地図の右上にある方角を示すであろう印と、地形的に現在地が南東にある通路なのが見て取れる。
「けどこれ、先が無いぞ?」
「うん、見て欲しいのはそこ。ちょっと持ってて」
今居る地図の先は何もなく空欄が広がるのみ。
そんな役立たず地図を俺に預けて、サナは俺含めパーティーより少し先を歩き始めると。
「あれ。えっ? こういうの、なのか」
僅かだが独りでに図に地形が書き込まれた。
丁度サナが今居る辺りの二、三歩歩いた辺りに曲がり角があるのが読み取れる。
「地図増えた?」
「増えた。曲がり角あるか?」
「確認できるよ。後その先部屋があるみたい」
曲がり角を曲がったら一本道、その後部屋か。
何となくだけどこういう迷宮で部屋あるとなると落とし穴とか強制移動とか、罠や魔物が無いか疑いたくなるな。
「ここは気をつけて先へ……」
「よし皆、行くよ!」
「おったから、お宝、出って来いや!」
「罠とか無いか考えないのか君達は……」
あれ!?
皆進むの早いなおい、約一名鼻歌交じりに進んでってるし大胆に進むもんだなあ。まあ慎重過ぎて先に進めないのも考えものではあるけども。
「よし部屋に到着ー」
「ちえっ、宝箱無えじゃん」
「そうホイホイ見つかってたまるか。それより前方を見たまえよ」
フェルンがツッコミ役になってる。
最初はからかうのが好きな奔放な印象だったんだけど、なんて思いつつも前に目を向ける。
「むっ、分かれ道かあ」
「さてどちらに進もうか」
通路が右と左で二股に分かれている。
どちらも幅はさっきと同じくらいで、少し真っ直ぐ歩いてから曲がり角があるのように見える。地図的には右手にはこれ以上広がりが無いように見えるけど……。
「んー。迷うな俺が作り手なら……」
「今は迷う必要はないと思うよ」
フェルンが呟いた瞬間。
きらきらしたものが視界に入った。
「ファルク・エンチャント!」
叫びと同時、放たれた黒の一閃。
その切っ先には何もなく。
空を斬った——
〈ギィィィー!?〉
「うわっ!」
前言撤回!
立てたら俺の半身はあろう、遺跡の保護色な馬鹿でかい芋虫が緑の液体をぶちまけながら天井から落っこちてきた。きらきらは糸で、拘束されるのを危惧して倒してくれたわけか……。助かった。
「フェルンありがと、助かっ……」
「礼はまだいいよ! 次が居る、油断するな!」
「え、どこどこ……うわぁ。本当だ」
今のより一回り大きいのが天井でカサカサしてる。
さっきは遅れをとったが、場所さえわかれば。
「よしあいつは俺がやる」
「待って、戦うの初めてなのに。やれる?」
「何言ってんだ、サナの魔力があるんだぜ」
心配されてるみたいだけど俺は戦える、居るだけの存在なんかで終わるつもりは毛頭ない。
くれた魔力とくれた知識、元の世界の武器があるんだからやれる。出来る事はする、したい。
「だから見ててくれ」
「信じるよ?」
「あれ位倒せないと、ねえ?」
魔王は倒せない。
頷いたから通じたろ。その先は声には出さず、胸に秘めたままリュックをまさぐって、デザインナイフの替刃を数本取り出す。
「さあやってやろうじゃないか!」
魔力を魔法陣に流し、天井の芋虫にナイフの群れを投げつけた。
_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆
「うわぁ。まだ生きてやがる……」
耐えた。
出血や流血はあるけど、致命傷には至っていないらしく芋虫は天井を這い回っている。色はカモフラージュだけじゃなく、本当に表皮が硬いのもあるのかな。
〈キッ!〉
「うぁ、危ないなおい!」
痛みでこちらを敵とみなしたか。
天井から突進しやがった。当たってたらダメージがあるのは勿論、アイツ口が牙みたいになってるから齧られる所だった。
「今度はこっちからだ。ウォーター!」
〈キィ!〉
ちっ、避けるとは素早いなこの芋虫。
ナイフが効いたのは、不意打ちだったおかげ。
もう一度やっても通用しない、でも遠距離攻撃も跳躍で避ける……。
〈グキャッ〉
「っあ……。シールドぉ!」
危ねえ!
突然突進してくるなよ。
けどせっかく近いんだし。
このまま……。
「うく、ぬうおぉぉ」
〈キイ!?〉
重い。
でも頑張れ俺、このまま床に投げつけれれば大きく有利に立てる、芋虫も体重かけて踏ん張ってて辛いけどこのまま、このまま——
「だるぁぁぁっ!」
〈キイィィ!〉
よーし何とかなった。
床に叩きつけられ、ちょっと弱ったみたいだから今の内に畳みかけよう。
「この身に託されし魔力よ」
思い浮かべるのは水の刃。
肉を裂き石を貫く程の強い奴。
当たれば切り裂かれ、ばらばらになるくらいの刃をこの手に!
「その力と姿を猛き水の刃へと変えよ、フォルク・ウォーター!」
前カボボを切るときに使った手刀。
それをより強くしたものを縦に真っ直ぐ、振りぬいて……。
〈キャグ、ググキャ、キャ〉
「うわっ、とっとと……とぉ!」
みたら、目の前に壁が現れた。
おいおいコイツ魔法も使えるのか。
危うく蹴躓く所だったけど、当たりさえしなければこの程度なんて事ない。
「こんなの障害にもならないよ!」
〈キィッ!〉
壁を切り裂くと亀裂から緑の血が。
確かに手応えがあったし、今ならきっと。
〈キッ。キィィィ……〉
「へっ。すっかり弱ってる」
デカい芋虫は尾の末端を切られ丸まっている。
身体を両断するだけでもトドメになるだろう。
にしてもアリや蚊といったのを除いて、生き物を殺すっての自体初めてのせいか、手が少し震えてる。でもこんなので怖じけずくわけには。
「じゃあ、これでさよならだ」
〈キイィッ……。キ〉
一思いに身体を両断した。
切っ先が水の刃なお陰で、手に感触は残ってない。残ってないけれど。
「うっ……ぉえっ」
鼻をつく青臭い血の臭い。
これが呪いのように、嫌でも殺した自覚を突いてきやがる。この世界に来る前、必ず生き物を殺す事になるって覚悟も決めてきたはずなのに。
「苦しそうだね、大丈夫?」
「お疲れタクマ、よく頑張ってたね」
「その自責は抜ける。慣れるから心配すんな」
皆の労い目が暖かい……。
きっと皆が一斉に攻めれば、すぐ終わったろうに待っててくれたのと一切手を出さずに居てくれて感謝したい。お陰で実際の戦闘が少しわかった。
「ありがとう皆。もう何とか行けるよ」
「なら長居は不要ね。進もっか」
サナの手を取って立ち後を付いていく。
あれそういえば、進むはいいけど右と左どちらが先に繋がってるかまだ解ってないよな。
「待ってくれ、どっちが正解わからないよな?」
「そうだね。だからとりあえず進むの」
「おい待てまさか」
「半分正解、半分外れなら当たれば儲けもの、外れても引き返せばいいだけでしょ?」
にっこりと提示された脳筋戦術に、乾いた笑いが出たが、実際それしか解決方法が無くしょうがなく従うのだった。




