第一章 第三十話 使える物は全て使うけれど
「まあ、一応、形にはなった、かなぁ」
ふわふわ宙に浮かぶナイフの替刃達。
物を浮かせる魔法は、手元の魔道書曰く【フロート】という魔法らしく、使った事は無かったが習得自体はすぐ出来た。
こいつ、浮かべるだけでなくその後の操作も出来るというのだから便利だなあ。
「でも、便利なのに凄え疲れるぞこれ……」
ちょっと難点があるんだよな。
当たり前だけど、浮かべてる間は魔力を消耗していくのに加え、物が重くなるほど負担が増える。おまけに操作となると一つ一つ別々に動かさなければならないから非常に集中する事になる。
「ちょっと、この状態では、やり過ぎたか」
大きく息を吐いて早る心臓を落ち着ける。
ついさっきまでは気を張っていたからなんとも無かったけど、昼食をしてから魔力の負荷のせいでやたら身体が怠い。それでも魔力放出したから落ち着いてはいるか。
「つっても、疲れたな。ちょっと休むか」
壁にもたれかかると、鉛筆が目に入った。
見ると鉛筆やシャーペンにボールペンが筆記用具を纏めておく箱だったけな。どれも先端が尖っていて浮かせて撃ち込む分には全然使える。やっぱり使い方次第だよな。
「俺の視点が狭かっただけ、なんだろうな」
身近に既にあったものだけでこれだ。
これが例えばもうあるもの、だけではなく買い揃える所まで視野を広げたとしたら。
それこそラノベで見るような、現代無双ができる程度の物を持ち込んだのなら。
「いやそれは駄目だ。駄目なんだよ」
脳裏に過ぎった甘美な誘惑を振り払った。
それでは禁則事項に触れてようやくパートナーを手にしたサナが悲しませてしまうし、仮に持ち込めたとして、元あった物と持ち込んだ物が競合したら目もあてらないだろうが。
「持ち込むのは、あっちにある物だけにしないと」
あの街の文明は、中世ヨーロッパに近い。
まあ魔法のお陰で超文明的な物はあるけど、紙は羊皮紙、交通手段は馬車若しくはほうきで空を飛ぶ。服装に関しても、男女と共にワンピースだ。
他の国や街の文明レベルはわからないけど、少なくとも化学繊維やプラスチックといった、こちらの世界でしか存在し得ない物はやめておこう。
「それにこっちに居られる時間上、お金もかけられないんだよなあ。ままならねえ」
お金はかけられず、文明の利器は使えない。
そんな都合の良いものがある場所なんて……。
「割とあるな」
パソコンの画面に映し出された、様々な工具が売られている百均と思しき広告が目に入った。
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「うし、着いたぜ」
我ながら良いアイデアだったけど、流石に仕事を放棄するような事は自重した。お陰で実行に移す頃は結局夕方だけど。
最もこのスーパーの中に入っている百円ショップには来るのには、徒歩五分程度の近所だから時間自体はそこまで気にならないが。
「外観は変わってないな。来たの久々なのに」
青の看板と、茶色いエプロンの店員さん。
来たのは半年ぶりぐらいか。パッと見ではレジの配置なんかには変化は見られないものの、この店の事よくは知らないから、手探りなのは変わらんか。
「こんにちはー、いらっしゃいませ」
「すいません、ちょっといいですか」
「はい如何致しましたか?」
偶然通りかかって挨拶してきた髪を下ろしている女性の店員さんを引き止める。
早速で申し訳ないけど、目当てのコーナーがどこにあるのか聞かせてもらおう。
「工具のコーナーどちらにありますかね」
「承知しました。ご案内致しますー」
案内に着いて行く間、商品に目をやる。
おもちゃや吸盤付きフック、洗濯バサミとウッド調のカゴ、スプーン、ティッシュ……。
武器に使えそうな物は無さそうだ。
「はいっ! こちら工具になりますねー」
「おっと、ありがとうございます」
少しぼうっとしていた。
元気のいい案内のおかげで目が覚めたよ。この感じまだ魔力の負荷が取りきれないてないな。
「さてお目当ては……っと」
レンチやペンチ、ドライバーにハケ、そしてハンマー。どれも悪くないんだけど持ち手や箱にゴムとかプラスチックを使っている。
ハンマーは持ち手が木製だから買うとして、他にも持ち込んでも問題無さそうなの無いかな。
「む、これは、へえ。いいじゃないか……!」
目に入ったのは、六十本入りと書かれた釘。
そもそも刺して固定する為の道具だから、当然先端は鋭利、しかもビットよろしくなこの数でおまけにお値段二百円とな。
「おっしゃ買う。これは良いぞ!」
並んでいたポケットサイズな箱入りの釘を幾つか、手近にあった買い物カゴに放り込む。
魔法の性質の影響で練習は必要だろうけども、これだけあれば十分武器として機能するよ。次異世界に行く時が楽しみだ。
「これお願いします」
「はい。お預かりします」
「お幾らですかね?」
「少々お待ちくださいませ……。お会計合計、千二百二十円になりますね」
「じゃあ、えっと。これでお願いします」
代金を手渡し、お釣りを貰って百均から出る。
財布がちょっと寂しくなったけど、どうせあまり使わないんだ。気にする事はないよな。
「買うモン買ったし、帰るとしようか」
買った物を詰めたレジ袋を見ても買い忘れは無いから、そそくさとスーパーを後にした。
当たり前だけども、道具を揃えようが使い手がポンコツではせっかくのアイデアが台無しだ。
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「さて何が書いてあるのだろう」
家に帰って荷物をまとめた後、ふと魔導書を一ページ目から読んでみたくなったので、手に取った。
実はフェルンに使い方は教えもらったものの、魔法が何なのか詳しくは教えてもらってないから、わからない事のが多い。
『魔法を使うと魔法陣が必ず現れます。これは当たり前の事ですが、改めて何故かと言われると忘れている人は少なくありません』
言われてみれば。
確かにいつも魔法を使う時、必ず幾何学模様の陣が現れていたけど、アレが何かと聞かれれば答えられない。何か格好いいから気にしてもみなかった。
『そもそも魔法陣、否魔法そのものは魔力に対する命令です。例えば火の魔法は魔力に対して火になって下さいと命令を下しているのです』
つまり。
フロートの魔法は物を浮かべさせる命令で、ウォーターは水を出せ、規格外だけどアノマリー・レインは物凄く強い雨を降らせろといった所なわけか。
『なので魔法陣とは即ち、命令の覚書き。場所、効果、規模等、使い手がイメージした通りになるよう魔力が変化するよう書かれているのです』
覚書きねえ。
あれこの感じじゃ、魔法陣って最初から——
『その為最初から魔法陣を書いてそこへ魔力を通せば魔法として成立しますし、他の魔法の命令を取り入れて使ってしまっても良いのです』
「色々アレンジ効くのなあ」
全部自分で書いてしまっても良いわけか。
もしまんま正しいなら、手近にあった紙切れに使いたい魔法の図形を書き記して、周りに具体的な命令を書いてやれば。
「うわっ、本当に出来るのかよ!」
紙切れに書いた魔法陣が青く光り、水を放った。
こうなってくれば嫌でも使い方は思いつく。
例えば、そう。
「でもこれ、ちょっとなんか。うん」
買ってきた釘と替刃。
そしてこの記述。
手段なんて選んでいられないけど、思い浮かんだ光景があまりに残忍で、えげつなくてこんなのを思い付く自分にちょっと嫌気が差した。




