第一章 第二十八話 元の世界にて
『全国連続神隠し事件、今度こそ真犯人逮捕か!? 犯人家族のコメントは——』
『全国連続神隠し事件は世紀の大事件? 未だ犯人の証拠掴めぬ謎とは——』
『警視庁模倣犯の続出に困惑。動機は完璧な証拠隠滅に感服したから——』
『おいお前ら、この事件やばすぎね? ←それ友人がやったとかほざいてるんだがwww』
ほっとした。
黒幕は絶対に手の届かない所にいる以上捕まえられないからな。となれば混乱するのは勿論、こういう捕まらない犯罪者をやたら崇高したがる連中が出てくるのは当然なのだけれど。
「にしても良かった……。これならマシな方だよ」
最悪なのは、最もらしい理由と犯人を用意し、無理やりに事態が収束させられていた場合だよ。
何せ犯人とされた人は「誤った回答」の為だけに全て奪われなければならない、つまり生贄だ。
『ひゃぁあ……。凄い事になってるね』
「サナか。見ての通り、大犯罪者になってるな」
『こうなるだろうから、せめて能力を与えたのになあ。どうしてああなったんだろ』
向こうで自嘲しているけど、止めも擁護もしないで相槌だけ打つ。
事実サナは余計な配慮のせいで世界を滅ぼしかけ、何十という人を攫ったのだから。ここで励ますのは違う。
「調べ物も終わったし、湯立つかな?」
スマホから視線を外し、鍋を見れば水が湯気を出し、熱湯になっている。
後は麺と調味料、諸々入れて待つだけ、と。
『らーめんだっけ。お湯さえあればすぐ出来るし美味しくて良いよねえ、それ』
「へえ。ラーメン知ってるのな」
『私達の世界には持ってきちゃダメな物の一つだけどね。時々覗いてたから知ってる』
悪戯っぽくそう笑むサナ。
持って行ったらダメな物や、こっちの世界にある物の知識とか、普段はうっかりな所もある癖たまにご都合主義か、てくらい博識だよな。どこまで知ってるのか怖くなる。
「そろそろ出来上るかな」
時計の分針が、五分たったのを示している。
今日はこれと、ご飯を食べて歯磨きをしたらもう寝るか。寝ないと時差ボケが治らないからな。
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「んぐ、ううぅ、うっ、うん」
眠たい。
意識は覚めたけど、朧げ。
まだ眠っていたい気分だが、微かに窓の外から感じるこの暖かみ、とっくに日は登っているはずだ。
「ぐ。うっ、あぁぁぁあっ……」
どうにか目を開けた。
目を擦り、頬を打って無理に意識を覚醒させてやると、幾分か眠気が取れた。
「えと確か……」
いつの間にやらベッドに転がっていた俺。
ラーメン食べて、風呂入ってからやたら眠くなってから後の記憶が無いぞ。そっからは本能のまま動いていたというか、操られていたいたようだった。
「ちょっとおかしいな。いくら鳥頭の俺でも、意識ないまま歯磨きしたりはしないぞ」
操るというワードにハッとした。
半分寝てるよう意識で歯磨きをし、廊下を歩いて正確且つ無事に来れるか? 本来なら何処かで身体をぶつけるはず。
「まさか……?」
『あはは、勘がいいねえ』
「ああ、やっぱぱりかぁ……」
『早く休んで欲しくって。ゴメンね?』
薄暗い街並みの中で苦笑い。
にしても、前から薄々感じてたけど今わかった。サナは一度心を許すと凄く懐くというか、やたら関わってきたがる傾向があるな。気持ちはありがたい、ありがたいが。
「これじゃお互い労力を無駄にするだけだ。こっちにいる間干渉するのは、頼んだらにして欲しい」
『うー……。でも体壊さないか心配で心配で』
「魔物や魔王、他にもこの先体壊す可能性なんか幾らでもあるよ。今それじゃ心労で倒れないか?」
魔物との戦闘で怪我を負うだろうし、それこそ魔王なんかと相対したら、死ぬ可能性すらある。
そんな状況に置かれているのに、少し側を離れただけでこれでは行く先々が危ぶまれる。
『そう、だね。確かにこっちでやらなきゃな事があるし、この先の事考えたら、うん』
「わかってくれて何より。現状気持ちだけで十分だからさ。行動はしないでくれよ」
暫く考え込み、合点がいった様子のサナは頷きつつそう言った。
良かった、作業中顔突っ込んでくる事がなくなったよ。魔法であれこれしようとしてくるならまだしも、全部終わらされたらやる事が無くなる。あくまでも口実付けであるこの仕事は、やる事が消えては困るのだから。
「それこそ労力の無駄なんだよなあ」
通信が切れて静かになった部屋でぽそり呟く。
ふと見渡せば、白い壁紙と緑のカーテン、机に置かれたデスクトップ型パソコンが目に入る。いつもの見慣れた風景。やっぱりホッとする。
「拓真ぁ、起きたー?」
と、母さんか。
朝ご飯を食べるよう呼びに来たって所か。今日の朝ごはんは味噌汁、ご飯までは確定としておかずが何か楽しみだな。
「起きてるよ。今行くー」
「早く食べちゃいなさいなー」
返事をし、部屋から出て朝食は一度スルーして洗面台で手洗いうがいと、顔を洗って席に着く。
おかずはサラダとスクランブルエッグ、デザートに鉄分が取れるヨーグルトか。レバーなんかの鉄分が取れる食べ物好きじゃないから、という事でよく食べたなあ、これ。
「おう起きたか」
「ああ父さんか。おはよ」
「おはよう。飯食ったら仕事について軽く話すぞ」
既に朝食を食べ終えた父さんが淡々と話す。
でも確か父さんって事務関係詳しく無かったような気がするけど、まあいいや。ほぼ食べ終えたから早く聞こう。
「ホント食べ終わるの早いなお前……」
「それはいいだろ。仕事って事務だよな。具体的なに決まったのか?」
「成海の奴に頼んだら、お前が出来るレベルの仕事なら沢山あるらしい。良かったな」
それは良かったと言うのだろうか。
というか成海さんって確か、地味だけど若くて美人なあの人か。
そして唯一の美点をクソダサ私服と極厚メガネで殺す残念美人系オタクのあの人ね。文字プリントTシャツとか制服着てた方がマシだ。
「んで、わかんない事あったら成海さんに聞けと」
「悪いが頼むぞ拓真」
「はあぁ、わかったよ。やれやれ……」
また長話かと思うと気が重いけど、これも後味を悪くしないためだし、仕方ない。頑張ろう。
歯磨きをしたら、作業に取り掛かろうか。作業書については、前手伝った時よろしくメールに添付されてくるだろう。
「じゃあもうひと頑張り、と行きますかねえ」
軽く伸びをして、洗面台で歯磨きと気付けに顔を洗い、自分の部屋に戻った。
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『それでね! カーテンが降りてる間にやっくんがかーくんとステージ裏で■■してたから出てきた時に吐息が荒かったと思うのよ! だってそうじゃなければあんなに■■■■してるなんておかしいわ! しかもらーくんが横で■■■■■垂らしながら頬を赤らめてい■し、間違いないはずよ。きっと二人の■■■■な関係に興奮してしまって自分の中にある感情を一生懸命■■■つけていたのよ。そうに違いないわ。ああっ、そこから始まる三角関係によって■■バー達に試練が訪れてしまうっ……! 試される友情、勝つのは■■かそれとも■■か……。今から次回が楽しみで楽しみで、あたし夜しか眠れなくって。ねえ拓■君、あたしはどうしたらいいのかしら。まだ十八にも満たない君に■■■■事言ってるとは思うけど、同じヲタク仲間でもこんなこと話せるのは秘密を看破した君くらいだもの。答えてくれるとすごーくうれしいなあって思うわ……っ!』
知らん、そんな事は俺の管轄外だ。
何で質問が終わった途端、ブレス無しの芳醇な香りのする高速詠唱を始めるんだよ。後早すぎて所々聞き取れなかったわ。それと薔薇は管轄外だと都度言ってるのに何でわかってくれないかな。日常ものの軽めな百合なら管轄内だけど。
「まあ何ていうか、脚本の人そんなこと考えてないと思いますよ」
『そんなぁっ!?』
「当たり前ですよ。公式じゃないですよね?」
『くっ、ならば二次で描くしかないじゃない!』
この人パソコンのスキルだったらなんでも来いだからなあ。
文書や表作成は勿論、データベース、プレゼン作成、デジタル絵、その他諸々。有能なのに父さんの所で働いてるのは趣味が祟ったからなのだろうか。
「そろそろ作業に戻らせてもらいますよ?」
『あ、ごめんね! もうお昼じゃないのお。また今度ねー』
やっと終わった……。
嵐が去った後のような気分だ。
さてじゃあ入力を再開して。
ブツッ。
あれっ? パソコンの電源が落ちた。
もしかして電源コードを足に引っ掛けて……はないな。感触が足に無かった。
となると原因がわからないな。成海さんに聞いた方がいいか?
〈ボッ、ェエッ、メゥエ、ボボッ……〉
お、ノイズ混じりだけど画面が戻ってきた。
何やら音声が聞こえるけど、無事画面が戻ってくれるといいな。
この件については一応成海さんに報告しないと。何せ見たことのないバグだか——
〈メッゥエェエェェオォォーーッ!!〉
なっ、なんだこれ。
画面が戻った途端、真っ黒な骨に炎を纏った怪物が出てきたぞ……!?
それに背景の草原、今は夜だけど近くの白い壁に見覚えが。
「まさか、そんなわけ」
背中に冷たい汗が流れてきた。
悪い予感がする。そうであって欲しくない。
もし想像通りなら。
考えるな、そんな事ないはずだ。
だって俺の契約者は神様だって……!
『メールが届きました』
気づいたらいつものホームに戻った画面に、通知が現れた。
届いたメールを開くと。
差出人:不明
宛先:野鹿拓真
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たすけて
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やくそく、まもれ
https//:sekai.koe.com.hole/sougen
件名を見て、反射的に青くなっているリンクをダブルクリックすると画面が再び暗転した。




