第一章 第二十六話 クエストクリア!
「えぇっと、昼食の準備に野菜を収穫しようと来たら、この状態だったと……」
「そうですう。これ以上栄養を取り込んじゃいけないと思って、根っこはもう切りましたけど、それでもこの通りですう」
「そ、そうなのですか……それはお気の毒」
女性が指差す方を見れば、俺の腕はあろうぶっとい青々とした根が、土と繋がる半ばで切り落とされている。
にしても、あの凄い重そうな斧を振り回すに飽き足らず、千切れた様子もなく正確に切り落とせるこの人は何者だよ。まあクエストの進行が優先だから聞かないけどさ。
「そうだ、一つ確認させてもらいます。このクエストの依頼主はあなたですね?」
「あ、はいー。その依頼をしたのは私ですう。フェイ・シュタルクと申しますう」
「僕は野鹿拓真と言います。クラスは冒険者です。それから右から順に……」
フェイさんに、今のメンバーを紹介。
各々名乗りを挙げてからクラスを言って、会釈して顔合わせを済ませる。
「わかりましたあ。皆さんよろしくですう」
「こちらこそ。では早速クエストについてですが、何か分かる事はありますか?」
「分かる事ですかあ。ちょっと待って下さいね。思い出しますからあ」
そう言うと、こめかみに指を押し当てて記憶を探り出すフェイさん。
さっき状況を説明してこそ貰ったが、この可笑しすぎるカボボをどうにかするには情報が足らなすぎる。もっとこうなった原因だとか、根本的な情報が欲しい所だ。
「関係あるかはわからないんですけど、この畑の土はとっても栄養豊富で、魔力もすっごく多く蓄えてるんですよお」
「確かに、土はふかふかですし野菜の色艶も良いです。流石王城で栽培されるだけはありますね」
畑にある野菜はカボチャに似たカボボの他、きゅうりに似たものや紅色のパプリカらしき物など色々あり、野菜の色艶や一切ない雑草から非常に管理が行き届いているのがわかる。
ふと周りを見ると正行やフェルン、サナも同じように思考にふけっている。考えがあるものは居なさそうだけど、とりあえず知恵を貸してもらおう。
「なあお前ら、何か思いついたか?」
「わりぃ、俺はない」
「うーん、魔力が多いのは野菜をより良く育てるのは知ってるけど、それ以外特には無いかな」
「そうかあ、フェルンはどうだ?」
返事がない。
集中して考えているようで悪いけど、この中で一番の知恵者であるフェルンの意見は早く聞いておきたいな。
「フェルン、おい、フェルン!」
「はっ、すまない。考え込んでしまった」
「いやいい。それよりこれ、どう思うよ?」
「うん。高くはない可能性だけど、過剰な魔力による突然変異かもしれないね」
他二人と比べ、具体的な意見が出た。
俺含め、その場に居る者達が興味を持ち、膠着状態だった雰囲気が期待に変わり出す。
「ギルドのクラス変え装置が利用してるけど、魔力はあるだけでその構成物に影響する」
「確か、身体の成長を促すんだよな」
「そうだね。相性が良すぎたんだろう。成長が促され過ぎた結果、この通りといワケさ」
「推察ありがと、助かったよ。けど……」
明確な解決には、なっていない。
魔力が原因で異常な成長を遂げたなら、魔力を吸い出すというのは一つ考えられるが、吸収の方法がわからない。
「それにクラス変更がそうであるように、一度取り込まれた魔力を吸い出すのは危険だもんな」
「その通りだよ。この大きさにした魔力を吸い出したら、カボボが耐えれなくて暴発するかも」
「おっかねえ事言うなあ、サナ」
しかしこれでは、また振り出しだ。
一番有効な原因を取り除く手法が使えない、というのがわかっただけで具体的にやるべき事は思いついていない。
「うぉるぁぁぁぁーっいっ!」
と思っていたら。
正行がメイドさんの斧を借り、カボボを切らんと走って切りかかっている。
まあそれで切れるなら、多分……
ぶすっ。
鈍い音を立て、斧の刃が皮に刺さる。
引き抜かれた箇所には傷こそ残っても、周囲にダメージはない。
「ちっ!」
うんやっぱりといった結果だ。
しかし原因や、より早い解決策を探るばかりではなくああいった地道なやり方も必要だ。
「とりあえず何かしてみよう。俺は斧を振り上げるのは難しいから水の刃を出そう」
「あれっ、そんな魔法使えた?」
「使った事はないな。けど応用すれば行けるだろ」
病院での数日でわかったが、想像や詠唱を変える事でかなり魔法は応用が効くんだよな。
例えば水を出すにしても、単純に出すだけであったり、強い勢いを付けるといった具合に。今のはその一例だ。
「この身体に宿る魔力よ、その姿、形を水に変え対象を切り裂け……」
想像するのはウォーターカッター。
鉄もスパッと行く程の勢いの、大量の水。
それを、手から噴出するような。
「ウォーター!」
名前を唱える。
呼応するようにイメージ通り、水の刃が手から出ている。
これで一度やってみよう。
「はあぁっ!」
助走を付け、軽く跳躍。
体重を乗せて水の刃を振り下ろす——!
「どうだ!」
手応えはあった。
確かに皮を切り裂いた感触がしたぞ。
これならきっと……。
「んー、ダメみたいね」
「くうぅーっ……そっかぁ」
正行が付けた傷よりも深いものがくっきりと入ってこそいるけど、まだ中身が見えすらしていない。
まあ繰り返せば行けるだろうけど、依頼者は昼食にこれを使おうとしているのだ。時間がかかる方法ではいけない。
「うーん、私が今のおっきいのやれば行けると思うけれど」
「よせよせ、柵が吹き飛んで土が抉り落ちるぞ」
「そうよね、力加減効かないからやめとくわ」
真面目な顔で物騒な事を言うなと突っ込みたい。
下手をして地面を切るどころか、カボボが耐えきれず爆散したらどうするんだ。
「ヘタに棒を突きつけ、穴を開ければ……いやしかし、アレに刺さる棒が無いね」
「頑張って考えてるな、フェルン」
「なんとかしないといけないからね。他にも熱するという方法もあるがそれでは煮物だ」
今の方法はネットで聞いたことがある。
前者は、ヘタに開けた穴から切り込み、底を目指して切るやつだな。後者はそもそも温めて柔らかくしちまえって事だ。レンチンするやり方が有名だけど、この世界にレンジはないから無理。
「後者はともかく、ヘタに穴を開けれたとして、そこからあれだけの物を切る力が無いからなあ」
「戦士のマサユキでも、力が足りないだろうね」
「そうそう、力が足りないんだよ」
力が足りない。
その分を何かで補えれば、切れるかもしれないがそんな魔法、まだ俺には——
「なあ、強化を行う魔法って使えるよな?」
「それは僕に言ってるのかい?」
「あれっ、私じゃないの?」
これは心外だ。
俺には使えないなら、と思って聞いてみたがサナはともかく、フェルンも使えるとは思わなかった。けど、サナ一人でも十分な気もする。
「いやサナに言ったんだ。多分一人で十分だろ」
「じゃあ私はマサユキの強化ね」
「ならボクはフェイと使えそうな棒を探そう」
役割が決まり、皆が動き出す。
サナは詠唱を開始、正行は二人の邪魔にならないよう動かない。フェルンとフェイさんは棒を取りに城の中へ姿を消した。俺は、まあ待機しておこう。
「この身に宿る魔力よ……」
詠唱が始まった。
いつもの青い魔法陣を展開、杖を構えて口上を進めていく。
「その姿、形を彼の者の力へと変えよ」
杖の先に光が灯る。
口上が進むにつれ、光が大きくなっていき、最後は顔ぐらいの大きさになった。
「更なる力を、アノマリー・ストレングス!」
その口上と共に光が放たれ、正行に入る。
すると徐々に身体の血色が良くなってくる。
「おぉぉぉぉお! み、な、ぎってきた……!」
今度は筋肉が盛り上がってきた。
今の魔法は、筋力強化の魔法だな。アノマリーが装飾句として付いていたのも頼れる。
「皆さぁん、棒ありましたよー」
「うっは、長いなあ!」
丁度よくフェイさん達が帰ってきた。
脇に棒高跳びに使いそうな、木製の棒を担いで。フェルンが重そうだ。
「よし、後はこの俺に任せとけ!」
おう任せた、と口に出す間に正行はもう棒と斧を担いでカボボの上でヘタを千切って、棒を振りかざしている。凄い速さと力だ。
「おらぁ!」
ぐさっ。
鋭い音と共に力技で穴を開けてから、今度は棒を引っこ抜いてそれを放る。となれば。
「さあ、美味しく料理されやがれ!」
鬨の声を挙げ、力任せに振るわれる斧によって馬鹿でかいカボボは両断された——
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「お疲れ様です、皆さん」
「いやあホント、大変でしたよー」
カウンターに座るリュートさんに、苦笑交じりに笑いかける。
あの後半分に割ったカボボを、さらにもう半分割り、四つに分けてクエストは完了となった。今はその報告中だ。
「依頼書にあったより大変だった分、報酬も良かったから良いですけどね」
「中銅貨二枚上乗せしてもらったんですね、おめでとうございます」
本来は中銅貨三枚のところを、働きに合わないからと上乗せしてもらえたのだ。
まあ通貨について帰りに教えてもらったから分かるけど、この報酬はちょっと豪華な一食分の食費がせいぜいらしいが。
「そうそう、体調が万全になったら殲滅クエストもやってみてくださいね。その倍は入りますから」
「殲滅というと、魔物の討伐ですか」
「ええ、その中でもホーンシープといった弱いけれど、多く発生するものを指します」
ああ、数を減らしたいわけか。
以前正行のクラス変更試験で外に出た時、多くの群れが通りかかるのを見た記憶がある。あの数は危険だ。おまけに魔物は殺しても消える事もないから、亡骸は資源にもなるしな。
「そうですねえ、前向きに考えますよ」
「魔物の討伐は、冒険者の本懐ですよ。お待ちしてますね」
「間違い無いですね。けど今は……」
後ろを振り返ると皆疲れの色が出ている。
この状態で、魔物達を相手取るのは肉体的にも、精神的にも厳しいはずだ。
「ちょっと休んできますね」
「そうですか。お疲れ様でした」
労うようで安心する声色に送られ、一度休む為にサナの自宅に皆で戻った。




