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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
一章 鮮やかなる国 ブライト
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第一章 第二十五話 クエスト

「おめでとうございます、タクマさん」

「ありがとうございます。お世話になりました」


 ヒリングさんに退院日を告げられてから、三日が経った。あの日からは特に大きな事はなく、毎日同じことの繰り返しだった。

 練習のおかげで、簡単な三種類程度の魔法を使えるようにもなった。フェルンには感謝だ。


「いやはやしかし、まさか本当に何も起きずに治るとは。お連れ様の力は素晴らしいですね」

「本来ならこうは行かないだろうに。サナには心から感謝してますよ」

「あの傷なら、お連れ様が居なかった場合重篤な障害が残ったでしょうね……」

「それはそれは。これから先、頭の守りには気をつけなきゃですね」


 真摯な眼差しでそう言ってくるヒリングさんに、素直な感想を返す。

 動かなくなってしまった身体の事を考えたら、今回の県に関してサナは正に命の恩人だ。合流し次第、お礼を言っておこう。


「時にヒリングさんと言ったよね?」

「フェルン様、でしたね。なんでしょう」


 隣で腕を組み、難しい顔をして話を聞いていたフェルンがヒリングさんに話しかける。

 今まではずっと黙って話を聞いていたが、何を聞くつもりなのだろう。


「今まで受けてきた診察や治療、それから食事、入院していた部屋。そういったものに関する代金は何処から出るんだい?」

「あ、ああっ……。そういえば、確かに!」


 突っ込んだ質問に目から鱗が落ちた気分だ。

 気付いたら部屋に居て、色々甲斐甲斐しく世話を受けて治療されていた。

 ここまでされておきながらなんだが、現状一銭も払えるお金がない。これじゃ服の時と同じようにサナに世話になることになるけど、それは避けたい。


「あの、これ以上サナに迷惑かかるような事には、なりません……よね?」

「お二人共ご安心下さい。代金はギルド負担です。一種の保険のような物ですよ」

「へえぇ。そんなのがあるんですね。良かった、安心しました……」


 思わず安堵の息が漏れる。

 病院代までサポートしてくれるとは、ギルドに感謝したいな。

 俺と同じような表情から察するに、フェルンもギルドに加入していそうだ。堕天前に仕事で加入していたのかもな。丸く収まりそうで何よりだ。


「話を逸らしてすまない。今度こそ失礼するよ。タクマ含め世話をかけたね」

「どうかご自愛くださいね。身体を休めるのも仕事の一つですから」

「ありがとうございました」


 横に閉まる扉を閉めながら、最後に軽く一つお辞儀をして廊下を歩き始める。

 この後は、病院の門で待っているサナ達と合流する予定で、更に後のことはその時決めるつもりだ。


「いよいよだねタクマ」

「全くだな。随分焦らされちまったぜ」


 乗り込んだエレベーターを操作するフェルンが、うずうずした様子で言う。

 今の体の状態を一番知っているサナとの相談しだではあるけど、俺としてはもうクエストをやりたくて堪らない。それこそフェルンが感化されてしまう位には。


「今のキミは期待に溢れているねえ。見ててこちらが楽しいぐらいだよ」

「そりゃなあ。ずっと憧れてたし。早く行こう!」


 一階につき、走って外へ出て、門へ向かう。

 今日は晴れでクエスト日和。着替えもちゃんとしたし、持ち物は何度も指差確認を実施したからバッチリのはずだ。


「おーいみんなあぁー!」

「あっ!」

「おっ、やっと来たか」


 門の前で待っていたサナと正行に声をかける。

 お見舞いに昨日来てくれたのに、何故か久し振りな気がするのは退院できた達成感だろうか。


「さっさとギルドに行こうぜ。クエストやりたくて我慢ならねえんだろ?」

「それはダメだよマサユキ! タクマは病み上がりなの。大事をとってもう一日は休まなきゃ!」


 いきなり意見が二分になりやがった……

 けどまあ、この感じ俺は好きだ。わーわー言ってるけど仲間割れではないみたいなこの感じ、いかにも冒険者っぽくて。


「いよいよそれっぽくなって来たな、どうするかは歩きながら決めよう、二人共」

「まあそれもそうだな。行こうぜ」

「どちらにせよ移動しなきゃだね。行こっか」


 そんなわけで、今日これからの予定を道すがら話し合いつつ病院からの帰り道を歩いていった。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




「ギルドといえば……ねえ、タクマ」

「どしたサナ。俺の手提げ鞄を見つめて」


 ギルドのある噴水広場の前の路地。

 色々話し合ってもケリがつかず、インテンスさんやリュートさんを始めとしたギルドの人達に話を一度聞いてからにしよう、という事で一旦さっきまでの話題を棚上げにした所でサナが振り返ってきた。


「私が渡しておいたローブ持ってきたよね。着てみてくれない?」

「ああ、貰ったローブだよな。 いいよ」


 言われた通り、カバンに入れておいた青と白のツートンカラーなローブを取り出す。

 鞄に入れた事で少し皺が寄っているが、前見た時と比べて変化は見られない。さて着心地の程はどうだろうか。


「よっ、と」

「ちょっとぶかぶかしてるけど、着られそうね」

「まあ、サイズはそうだけどさ」


 まるで普通の服のサイズ合わせでもするかのようにこちらを見るサナ。

 一応着られるのも勿論嬉しいが、それ以上に着心地が凄いな、これ。まるで着ていないかのよう……というか水の膜か何かが張っているかのような感触で、重みがほぼ無いぞ。


「サナこれさ、凄い軽いな。着た感じがしないよ」

「ああー、長年私が着てたからかな。軽い加護みたいなのが付いてるみたい」

「へえ、それでこんな風なのか。気に入った、ありがとう!」

「頑張った甲斐があるよ、どういたしまして」


 お礼を言うとサナは満足そうに笑顔でそう言った。

 見た目は良くないが、サナお手製な上、加護付きの貴重品だ。大事に使おう。


「二人共、そろそろギルド着くぜ?」

「おっとそうか、じゃあ行こう」


 前から声をかけてきた正行のいうとおり、前方には大きな木製の建物がある。

 何日かぶりのギルド、クエストをやるまで随分と焦らされたが、やっと冒険者らしい事が出来るな。


「「こんにちはー」」

「お邪魔するよー」

「お邪魔します」


 各々が違う挨拶をしつつ、木の扉を開いてギルドの中へ入る。

 中は前来た時と変わらず賑わっており、そして冒険者の集まりだからか少々むさ苦しい空気が漂っている。


「よおぉ病み上が——……」



 はっ、後方から殺気!

 このデジャヴ感、アイツだ。

 防がなければ!



「シールド!」

「りっ……とォ。ほお前よりマシになったな」

「相変わらず危なっかしいなアンタは。また病院送りにしたいのか?」


 手刀を展開された水の壁に防がれ、手を布で拭くのはムロウスだ。

 やっと戻ってきた人間に脈絡もなく暴力を振るうとは、どうしようもないバーサーカーぶりだよ。前言ってた労働者万歳な理論はどこ行った。


「へっ、病み上がりだろ。これで鈍った身体をマシにしてやろうってなァ?」

「アンタのソレは鈍る期間が延びるだけだよ。というか今日はこんな事をしに来たわけじゃないんだ」


 俺はあくまでもクエストをしに来ただけだ。

 怪我をしに来たわけでもないし、ムロウスと喧嘩しに来たわけでもない。


「今日はクエストをしに来たんだよ。けど、俺が本調子じゃないせいで、どんなクエストをやるか決まらないんだ」

「そんで俺達に相談しに来たわけか。ほー、そンなら雑事クエストがオススメだ」

「そんなクエストがあるのか。名前からしておあつらえ向きだな」


 黙って話を聞いている後ろの三人にアイコンタクトを送ると、フェルンを除いて首を振った。

 ここでフェルンの話を聞いてもいいけど、今後のことも考え、専門である人の話をきちんと聞いておいたほうが良さそうだ。


「マア詳しい事はアイツらに聞くといい。事情を話せば手頃なのを紹介してくれるだろうよ」


 指差したのは、いそいそと書類と戦っているインテンスさんと、四人くらいたまに入れ替わる冒険者の相手をしているリュートさんの方だ。

 掲示板の前に居たから多分あの二人に聞けばとは思ってたけど、やっぱりそうだったか。


「リュートさん、ちょっと良いですか?」

「タクマさんじゃないですか。退院出来たんですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます。でなんですけど……」


 身体が本調子ではないが、クエストを受けたい事、理由として一度やってみて一連の流れの確認と仲間や自分が身体が鈍っては困るから、といった事情を俺は洗いざらいに話した。


「事情はわかりました。心当たりが幾つかあるので一緒に選びましょうか」

「お手数おかけします」


 事情を全て聴き終えると、赤や緑といった色で塗り分けられたコーナーの一番左、緑を指差した。

 並び順からして色は伴なう危険や、難易度を示しているようだ。


「ここは雑用クエスト、と呼ばれる依頼が集まる場所です。ここに来るのは日常のトラブルやお使い、ちょっとした運搬のものが多いですね」

「聞くからに雑用ですねえ。その分収入は……」

「お察しの通りです。けどその分安全に、確実に稼げますよ」


 バイトとかと同じようなものか。

 パッと見る限り、内容は伐採の手伝いや農業の手伝い、鉱石運搬の手伝い、貴族の護衛の臨時募集と本当にバイトみたい……っておいおい、街の端にある店への買い出しって。


「子供のお使いみたいなのもありますね」

「ここには色々来ますからねー。タクマさん達にオススメなのはこの辺りですかね」

「ありがとうございます。どれどれ……」



『全く切れないカボボを切ってください! 凄く固くて困ってます! ——報酬:中銅貨三枚』


『火の魔法の実験台になってほしい。魔法の耐性の低い人間と、耐性が強い人間を求めている——報酬は中銅貨二枚から、結果次第でボーナスあり』


『お庭のお手入れの手伝いを頼みたいわ。雑草が多くて困ってるの——報酬:中銅貨一枚、進み具合によってはご飯をお出しします』



「……冒険者、とは?」

「旅する何でも屋と言われませんでしたか?」

「ええ、確かにサナのお父さんにそう言われましたけどねえ!?」


 なんだこれは!

 オススメされたの一個除いて、魔法とか、そういうロマンのかけらもないじゃ無いか! いやまあ安全に出来るのを頼んだのは俺だけども!


「じゃあ殲滅クエスト行っときます? 丁度この前討伐して頂いたイッカクシープを五体程仕留めるクエストが何件か……ありましてぇ!」

「いえ結構ですぅ! わかりましたわかりました、この中から選びますよ!」


 黒い笑みを浮かべ、黄色い所から取ってきた紙を押し付けてくるリュートさんを何とか剥がす。

 内容があまりに俗っぽいものだから、ついあんな風になってしまったが、どれも依頼者は困っているから依頼を出したのだ。馬鹿には出来ない。


「そうですねえ、んー」

「タクマ、ここの所、よく読んでごらんよ。面白い事が書いてある」

「そんな事あったかな。どれどれ」


 依頼書をよく見直してみる。

 上から依頼名、分類、依頼者の名前、場所、条件、報酬、内容と。指差したのは内容の下の辺りだったな。


「何故か私よりも巨大化している上、非常に固くなっています。戦士の冒険者の方なら何とか切れるかも……」

「ね、面白いことになってるだろう?」

「まあ色々興味はあるな、うん」


 どうしてそんなに馬鹿でかくなっただとか、実際に見てみたいとかな。

 というかこれ、本当はもっと驚くべきなんだろうけど、今まであったゴタゴタのせいかそこまで驚きがない。むしろ驚かない自分の方に驚くくらいだ。


「よし皆、今日はこれを受けよう!」

「推したのはボクだ。異論はないよ」

「切れないカボボを切るのね。よくある奴だわ」

「まあタクマが本調子じゃないしな。付き合うぜ」


 全員に依頼書を回し、了承を得た。

 となれば後は、受けるクエストを決めたのを告げて、現地に行くだけだ。


「リュートさん、やるクエスト決まりましたよ!」

「依頼名【切れないカボボ】ですね。ではこちらにサインをお願いします」

「はい、これでいいですかね?」

「結構です。では行ってらっしゃいです」


 ささっと書類に異世界での自分の名前を書き、現地へ向けて出発した。

 依頼主は女性で、待ち合わせ場所が以前行った王城の調理室である事から、多分メイドさんだろう。ともあれ初の依頼、楽しみだ!




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




「はえぇぇー……」

「ほぇえぇぇ……」

「ひぇぇえぇー……」

「何だい、これは」


 ギルドを出発し、五分くらい経っただろうか。

 待ち合わせ場所に到着した後案内された現場に着くやいなや、俺はあり得ないものを見た。


「はぁぁぁぁぁああぁあっ……!」


 王城の庭の一角、ちょっとした自給自足のつもりなのか、家庭菜園よろしくなサイズの畑。


「切れて! くださあぁあぁーいっ!」


 細腕に似合わぬ斧、否、戦斧と呼ぶべき迫力を持つシロモノを担いだメイド服の女性が。

 依頼書の記述より、ずっと大きなカボチャ改めカボボに向かってその斧を振り下ろしている。


ぶすっ。


 しかしその切っ先は、硬い皮に防がれて虚しく刺さるのみ。

 そして当の女性と言えば。


「はわわ……。全く斬れないのですぅ。どうしてカボボさん、こんなに硬いんですかぁ……?」


 この口調である。

 んで、あの武器である。

 で、依頼書よりずっとデカイカボチャである。

 もう何処から解決すればいいのかわからなかった俺達は、暫く傍観するしかなかった。

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