第一章 第二十二話 明らかになる強さ
「あのね、渡したい物があるの」
「おっ、どんなのだ?」
検査から部屋に戻って来た途端、後ろ手に何かをサナがチラつかせ始めた。
その手に握っているのがなにかも気になるが、赤い目や涙の跡を見ると、どれほどサナが心配だったかを想像し、申し訳なってくる。
「はいこれ。喜んでくれると嬉しいなっ!」
「これは、ローブか?」
手渡されたのは上下で色の違うローブだ。
上が青く、下が白くてあちこちに魔法陣の刺繍が施されている。
そしてあちこちにツギハギが散見され、上下の境目が特に多いのはもしかして。
「これ、元は二着だったろ」
「ごめんね、素材がなくって……」
「これをプレゼント、と言われても……困るってのが、正直な所だなあ」
首を傾げる俺に、サナは「でもでも」と腕を上下にばたつかせて続ける。
どうでもいいが、今のやたらあざとい動作が気になるな。本当にどうでもいいが。
「このローブ私のお古を使ったから、色々加護みたいなのあるよ?」
「加護かあ。まあサナって自分から加護付けれるぐらいだもんな」
そんな人の着ていたものであれば、確かに何か加護あっても良さそうだ。サナは水の魔力だから水に対する耐性や、強化があるのだろうか。
「身の守りが良くなって、水に対する強い耐性や暑さへの耐性……そんなのがあるよ?」
「それがどのぐらい良いかはわからないけど……」
かなり好都合な品だ。
冒険者、という事に俺のクラスはなってこそいるものの、体力が無いから皮製であっても鎧の類は身につけられないし、かといって増やしてもあまりに心許ない。
だからこの守備的な加護が付与され、尚且つ身につけても重くもないというこのローブは助かる。
「うん、受け取っておくよ。退院したらありがたく使わせてもらう」
「ほんとに? ああ良かった……」
肩をなでおろした様子のサナは、さらに「あ、それと」とフェルンに視線を向けながら鞄をまさぐる。
「これ。私のお母さんのお古だけど、どうかな?」
「ボクにかい? 嬉しい事をしてくれるね」
手渡したのは黒色で丈の長いワンピースだ。
堕とされて直通で病院に運ばれたから、フェルンは自分の服を持っていない可能性が高いもんな。そこへの配慮か。
「おうサナ、そろそろ俺もコイツと喋っていいか? 幾つか話してぇんだよ」
「いいよ、私もフェルンにお話聞きたいもの」
後ろに居た正行が顔を出し、代わりにフェルンとサナが部屋から出て行く。
コイツが喋る事はいつも、どうでも良い事か重要な事だけど、今回はどちらだろう。
「んで、話したい事ってなんだ?」
「端的に言うと、健介って奴以外のチート持ちとギルドでの仕事中に接触した。そいつらが聞かせてくれた話を、確認の為にサナと擦り合わせたんだよ。それを今から話す」
重要な事だった。
珍しく感情を殺した顔付きの正行に、背中に悪寒が走る。
こういう時は静かに頷き、話を続けるよう促して情報を誤解なくやりとりしよう。
「続けるぞ。俺が会ったのは四人で組んでる奴らだった。んで、ソイツら全員がチート持ちなんだよ」
「全員チート持ち……。なんだそのインチキは」
なんじゃそりゃ。
チート持ち一人でも十分過ぎるほどに強いだろうに、それが四人集まったらレスポンスされる結果はヤバイ、ぐらいしか想像がつかないよ。
「詳細は省くが、冒険者ランクってのがあるらしくってな。それを最低から上から数えて二番目まで上げたらしいぞ」
「最低からそれって規格外だろ……」
チートはサナが異世界から人を呼んで、持たせたはずだから必ず俺達と同郷で、全国連続神隠しの関係者だ。だから一ヶ月以内にそこまで至った事になるはず。
また冒険者ランクってのがそれによって強さや受けられる依頼、ギルドからの信頼を表すなら超大躍進だろう。
「因みにそのチートってのは【怪力】に【跳躍】と【検索】、最後に【変身】だ」
「前二つが物騒だな……。後の二つも使い方次第では化けそうだけども」
前二つはわかる。
非常に力が強くなるのと、何かしらジャンプするか、とても強く飛び跳ねられるといった所か。
変身は誰かに姿を変えるといった所か。検索は調べるのは思いつくけど、それ以外は想像がつきそうにもないな。
「この一日で規格外連中と出会ったんだな。けどそいつらが味方だって考えるとありがたいよ」
「ほんとだよな。だがよ、問題はそこじゃない」
「何か含みのある言い方だな……」
言いながらポケットのメモを取り出し、一瞥してから口を開いた。
「サナのチートは、アイツ自身が魔力を送らないと発動出来ないって弱点があるんだが……」
「うわ、かなり困るな……健介もそうだろうし」
「いや拓真、これも前置きだ。次が本番なんだよ」
首を横に振り、悩ましそうに額を抑えた正行は大きくため息をつく。
果たして、普段能天気なコイツを悩ませるその「本番」は如何なるモノなのだろう。
「真の問題は、神々に乗っ取られた連中がコイツらなんか屁でもないレベルのチート持ちなんだよ」
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「うーん……。規格外な事以外理解出来ねえ……」
思わず耳を抑える俺は勿論、正行もため息を隠せない。何せ俺も正行も立ち向かうのだから、気を病むのも無理のない話だ。
そして今までフワッとしたイメージだった魔王の強さが、ある程度の水準を得た事で具体的になり、さらにずっしり来ている。
「なんかもう、滅茶苦茶な連中なんだな……魔王」
「件のチート四人集の戦い見たけど、何やってるかさっぱりだったんだぜ? 魔王それ以上だぜ?」
「インチキみてーなのはよくわかったよ」
お互い机に突っ伏ししてしまい、意気消沈。
さらにここへ神の力も入る事もプラスされるのだから、その力は正しく世界を危機に陥れるに相応しいものと化すのは頷ける。
「因みにその乗っ取られた連中の能力は?」
「神々に乗っ取られた、と確定してるのは【無限の魔力】の奴らしい。それ以外は不明だ」
「ハイハイ、強い強い……」
無限の魔力。
そのまま受け取るならば、魔法を使う原動力たる魔力に限りがないから、どんな魔法だろうが、どれだけでも使えてしまえるというトンデモ能力だ。
まあ何か裏はあるだろうけど、出来れば相対はしたくない。
「それともう一つ。この魔王の正体に関する話は一般の人間には広まってない。知ってるのはチート持ちとその仲間、国とギルドのトップだ」
「つまりは他言無用ってわけか……」
「話したら瞬く間に民衆がパニックに陥るから黙ってんだーな。気をつけろよ」
口にチャックする動作をする正行。
その仕草に頷いて、ベッドに何となく寝転がり自分の手の平を見つめ、脳裏に浮かんだ愚痴がそのまま溢れた。
「なあ正行、俺達魔王に勝てるのかな」
「頼りになる仲間達が居るとはいえ、正直勝った自分を想像する事は出来ねえな」
そう弱気に零す正行。
それに頷く——
「キミ達さ、愚痴言ってる暇あったら少しは魔法の練習したらいいんじゃないか?」
同調はいつの間にかテーブルに脚を組んで着席していたフェルンによって遮られた。
遮った本人は、左手の小指に漆黒の炎を灯し、続ける。
「ボクさ、諦めようとする人間の顔が一番見たくないんだ。頼むからそんな顔しないでくれと思う」
黒い炎を強く燃やし、赤い方の目を見開き、淡々と、さらにフェルンは語っていく。
「ボクはキミらの先生として、自信を付けるまで付いて行こう」
「待て待て、フェルンってあんまり重い武器とか使ってそうな感じしないんだけど……」
「なぁに、これでも魔法だけでなく様々な武器の取り扱いにも詳しいよ。安心したまえ?」
そう微笑むフェルンの笑みは、ワクワクしたような、しかし何処か悪意を感じるものだった。




