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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
一章 鮮やかなる国 ブライト
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第一章 第十九話 練習を始めよう

「何分本来滅ぶ筈だった所を助けてもらったんだ。礼はしないと。さあ望みを言いたまえ」

「滅ぶって、それどういう……?」

「おっと口が滑ったね、今のは忘れたまえよ」


 薄暗い中、金色の焔に照らされる中で妖しく微笑むフェルン。本人が言うのだから今のは突っ込まないでおこう。

 それはそうと、望みか。入院生活中だから身体に負担はかけられない。


「魔法って、身体に負担かかるか?」

「モノによるだろう。普通の魔法なら身体への負荷はほぼないが、グレイト級を下手に使うと一日寝込む事になるね」

「お、おう。グレイトきゅうねえ」

「魔法の強さの事だよ?」


 そんな事も知らないのかとキョトン顔。

 どうやら常識レベルの知識だったようだが、今ので俺は望みを決めた。考えてみれば、全く訓練していなかったし知識も持っていないじゃないか。


「望みは魔法だ。魔法を教えて欲しい」

「どのような? 家を燃やし、山を焼き払い空に届く程の業火かな。それとも」

「違う、基礎の所。魔法は何も知らないし、使った事もないんだよ」


 朗々と語り出したところで水を差したら、目をまん丸にして包んでいた俺を翼を引っ込め、焔を消してしまい。


「おいおい……そんなので良いのかい?」


 額を押さえ、とても困った風に笑いながらそんな事を聞いてきた。

 俺は全く問題が無いのでこれでいいのだが、返礼に見合わない、と感じているように見えるな。


「わかった、実用できるぐらいまで頼むよ」

「ありがとう。流石に幼児が見よう見まねで出来る事を教えるのは嫌なのでね」


 幼児が見よう見まねって……。

 まるで言われようが幼児以下みたいだが、その通りか。魔法を使用した経験が一度もないから、経験の差で言えば使ったことがある方が上だ。


「その見よう見まねの魔法すら俺は使った事が無いんだよ。手間掛けさせるね」

「悪い冗談はやめたまえよ……。その身体に纏っている魔力が真実を語ってるよ?」


 俺には見えないし、感じないが漏れ出ている魔力のせいでやたらと買い被られていたのか。

 ならとりあえず解いておくか。この魔力の源は俺自身ではなく、別の所からのお零れなのだから。


「その魔力なんだけど、サナからの貰い物だからこれは俺の実力で得た物じゃないんだ」

「この魔法陣は召喚魔法の契約か。へえ……。まあやれなくはないか」

「わかってくれて良かったよ」


 魔法陣が入っている方の手の甲を差し出し、見せると文字や印を指で確認すると、納得した。

 今まで事情を知っていそうな振る舞いだったけど、サナとの関係といった踏み込んだ事情はまだ知らないんだな。


「驚いたよ、契約でわざわざ魔力を身体に送る物好きがいるなんてね。どういう経緯なんだい?」

「サナは魔法を使うと、使った分以上に魔力回復し、身体の不可になっていくんだよ」


 そこでフェルンは手を打って、俺の言わんとするセリフを続けた。


「受け皿にキミが選ばれた。そしてキミが纏っているのは彼女のものだったと」

「当たりだ。これならが一度も魔法使った事が無くたっておかしくないだろ?」

「納得だよ。契約をした彼女も、受け入れたキミも双方共に物好きだけどね?」


 等とどこか皮肉交じりに言い終えたフェルンだが……あれ、笑っているような?


「ぷっ……くすっ、くくっ、ふ、ふふふっ」

「な、何がおかしい!」

「ぶはっ! あはっ、あははっ!」


 やがて腹を抱えて爆笑してしまった。

 一体何がおかしいのだろうか、サナと契約するまでには、かなり苦労しているからこうも笑われると結構傷つくのだが。


「い、いやあ済まない。あまりに内容が奇特なものだから、ついね」

「奇特っていうのは、契約の内容の事か?」

「本来、召喚した者とされた者では主従の関係ができるんだが、キミらには無いといった具合にね」


 平静に戻ったフェルンの指摘を受け、納得した。

 予測且つ、たらればな話だがサナが召喚した人間を従属させれば、すぐに召喚した人物と契約できたし、魔王だって出てこなかったかもしれない。

 他にも立場を利した要求をしないだの、俺を虐げないといった、目的を達成するのには不要だ。


「笑われるのも無理ないな。これじゃ平等に振舞ってくれって言ってるようなもんだよ」

「まあ、今日では召喚の対象が人間なら平等な関係を築くのを推奨されているがね」

「推奨って事は、守られてるとは限らないわけか」


 零した言葉に、これまでのイタズラな顔つきから打って変わって悲しそうな顔で頷くフェルン。

 察するに、何処かで同郷の人間が馬車馬のように働かされている可能性もあるのか? 万一見つけたら、手の届く範囲なら助けたい所だけど。


「ともかくタクマ、キミの望みは承った。明日から身体に響かない範囲で魔法の基礎から教えよう」

「おうっ、よろしく頼むよ」


 この後は特別気になる話はせず、運ばれてきた夕食をとって眠った。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




「おお……」


 意識と視覚が同時に覚醒した。

 そしてえらく、目覚めがいい。視界がはっきりし、動けそうなぐらい身体の調子が良い。普段は目覚めるのに時間がかかるのだが。


「やあタクマ、おはよう」

「おはようフェルン」


 周囲を見渡すと、窓辺に腰掛けたフェルンが目に入った。窓からは朝焼けの光が差し込み、僅かに残った眠気が取れていくのがわかる。


「ん……ああーっ、爽やかな朝だ。寝覚めもいいし、いい一日になりそうだ」

「それは良かったよ。よく効いたんだろう」

「よく効いた? 何かしたのか?」


 ほくそ笑み、小指に豆電球サイズの淡い桃色の光を灯すと。


「眠りから目を覚まさせる魔法さ。その魔法を、バレないよう弱くしてかけた」

「そんなのもあるのかよ。というか、魔法って弱くもできるのな」

「出来るよ。使う魔法の名前の前に付く魔法の特徴を示す言葉は【装飾句】と呼ばれてるんだ」


 凄く面白そうな用語が出てきたな。

 今言っていたのはサナが使った豪雨が降る魔法【アノマリー・レイン】の前の部分だろう。

 今まで特に意識していなかったが、強弱の段階といった装飾句の意味が判れば、フェルンの言う通り魔法の特徴が窺い知れ、この先便利な筈だ。


「朝から教えてくれて感謝するよ、ところでこの話題を出すって事は今日の授業は今のか?」

「察しが良い生徒はボクは好きだよ。今日は魔法を使う所から強弱に関する知識だ」


 問いかけを肯定しながら、桃色の光を消して、手の平サイズの金色の炎を反対側で灯し、続けた。


「さっきのが弱くしたので、これが特に装飾句を付けずに使用した場合だ」

「何も無しでこのぐらいなのか。この後はグレイト、アノマリーと続いていくのか?」


 首を横に振り、否定した。

 では何が次に来るのだろう、という意図を持って見つめると「ふむ」と一つ呟いたフェルンが囁くような声で何かを言ったかと思ったら、両手でやっと収まるぐらいの金色の焔が灯った。


「これが普通のその次、フォルクだよ」

「大きくなったなあ。この後がグレイト、アノマリーっていうわけか」

「強い順で、行くと、そう……なるね」


 徐々に言葉尻が弱くなっていくフェルン。

 両手で焔を支えるも辛そうだし、魔法を使う前と比べ、明らかに弱々しくなってないか?


「おい、大丈夫か? フェルン、おい」

「ああ。大丈夫だ……堕ちた際に力の大部分を失っていてね。まあでも食べて寝れば、回復するよ」


 口ではそう言うが、もう火を消しており、今にも寝かしたくなる位には辛そうだ。

 とりあえず今は言うように寝かせておこう。その後はじき来る食事だ。


「失礼しますー。朝食を運びに参りました」

「おっ、きたきた」


 噂をすれば何とやら。

 元の世界の看護師の服装に形はよく似ているが、色は地味な服の女性が来た。役目は色々だろうけど、今は朝食の配達だな。


「ではこちらに置いておきますね」

「あっ、ありがとう、ございます」


 ただこの配達、二度目でも驚く。

 具体的には【ホール】という魔法を使用し、これは指定した場所とその次に指定した場所とを穴同士で繋げるというもの。

 これを利用し、朝食を穴から取り出すのだが。


「どうされましたか?」

「いえいえ、なんでも。あはは……」


 見た目がやばい。

 何せこの魔法、名前の通り突如として空間に黒い穴が開くものだから、わかっていても不気味で仕方がない。しかもこんな一見無害そうな人が使うものだから、絵面が凄いのだ。


「誰しもが何事かと思うよ、あれ」

「見た目に関しては同意するが……まあそう言ってやるなよ、タクマ」


 ついさっきベッドで横になっていたフェルンが起き上がり、そんな事を言っている。

 この魔法に関して何か知識でも……いやそれより体は大丈夫なのだろうか?


「フェルン、もう動いて大丈夫なのか?」

「天使は治りが早いからね。もうキミの練習を見てやれるぐらいには元気だろうさ」

「まあ、見る限り無理してるようには見えないし、とりあえずはご飯食べようか」


 ベッドから食事が置かれたテーブルに移動する。

 この部屋に運ばれてくる患者は、動けないぐらいの重病は想定されていないようで、元の世界で見るベッドの上のテーブルがない。

 けど個人的には移動した方が元の生活にまだ近いからか、何となく安心する。


「さてタクマ、食事と歯磨きを済ませたら外に出て検査の時間まで実践練習だよ」

「そいつはありがたいけどさ、さっきまで体調悪かったのに本当に大丈夫だろうな」

「ボクは大丈夫と思うよ」


 そんな風に会話しながら、俺もフェルンも料理を次々口に放り込んでいく。

 メニューはパン、サラダ、野菜多めのスープと野菜中心で肉が恋しくなるが、これからあまり動かない入院生活が続くのだからこれ位で丁度いい。


「ごちそうさま。そういえば、検査の時間って昨日知らされていたっけ?」

「そういえば、キミは聞いていないね。ボクみたいなの(天使)を治療したから、病院側も焦って忘れていたかもしれない」


 残り一口を頬張りながら、ありそうな事を言ってくるフェルン。

 言われてみれば、血塗れで落ちてきた天使と、治療はしたとはいえ、頭部から流血していた患者が担ぎ込まれたとなれば、確かに驚きそうだ。


「それでもこの通りピンピンしてるんだから、病院には感謝だよ」

「全くだね。ところでその袋を持ってどこに?」

「歯磨きだよ。共用の洗面台に行ってくる」


 この部屋から出た所に、元の世界の学校で見た横に長い共用の洗面台があるので、患者は皆そこで歯を磨いたり、顔を洗っている。

 にしても、考えてみればフェルンは天使。生きている時間が見た目より遥かに長い可能性もある。


「どんな事を教えてもらえるか、楽しみだ!」


 永い刻を生きた天使が培った、神秘的で煌びやかな魔法や技術の数々。

 神に刃を向ける程の力を持っていたのだから、今は無くても能力は折り紙付き。そんな人物に教えを請えると考えるとワクワクする。


「あ、やべっ」


 ちょっとワクワクし過ぎて歯を磨く手に力を入れすぎたらしく、歯から少し出血している。

 それを拭い、元居た部屋へ戻って、教えてくれる当人が歯を磨き終わるのを待った。

お騒がせしました。

最新話、修復完了しました。

更新時刻に関する情報が活動報告にあるので、そちらもご覧下さい。

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