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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
一章 鮮やかなる国 ブライト
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第一章 第十五話 最初の人

「教えてください……。あなたはサナさんと、どのような関係なんですかっ!」

「それは、うーんと……」


 じわじわと剣幕を感じさせる顔つきになってきた。参ったな、答えないのも話が拗れそうだ。

 だからと言って、ありのままを言ってしまえば彼がどんな行動を起こすかわからない。


「どうして黙ってるんですか……!」

「んなこと聞かれても」

「何か後ろめたい事があるんですね。でなきゃ黙ったりしませんよねぇ?」


 うっ、尋問に入ってきたな。

 彼の言う通り、サナの罪は許されないだろう。しかし、俺にとっては彼が何故この質問をしているかの方が気になる。


「どうなんですか……」

「…………」


 詰め寄って来る彼は、いよいよ待つのが限界といった感じに見える。

 けど、どんな事情があろうと今のままでは答えは出せない。


「そっちこそ何者なんだ?」

「僕が、ですか?」

「場合によって話せる事話せない事がある」

「やっぱり、何かあるんですね……」


 彼の言葉、肯定も否定も俺はしない。

 しかし、求める「何か」の答えではないかもしれない。だから言えないし、求めている事と違って、こちらの情報を下手に抜かれるのも嫌だ。まあどこまでサナの罪が伝わってるかもわからないが。


「僕は……原健介と言います」

「やっぱり元の世界……しかも日本人」


 ふと出た言葉に、静かに頷き原健介と名乗った彼は続ける。


「最初にサナさんに召喚され、僕の身勝手のせいで契約ができませんでした」

「なっ。最初の召喚者!? ああ。いや、続けて」

「はい。それで、僕はあの人と契約できなかったのをずっ……と後悔してたんです」


 表情に影を落とす健介。サナと何があったのかわからないが、ここまで想ってくれるのは契約者である俺も嬉しい。

 それと、今の話の流れからして契約の動機はアイツの事情を聞いたから、と考えて良さそうだ。つまり健介はこちらの事情を知ってるはず。


「あれから僕も何人か仲間を加え、冒険をしてるんですが、ふと脳裏を過ぎる事があるんです。あの時自分の欲に負けてなかったらここには……と」

「何が合ったのかは、わからないけど。わざとじゃないなら無理もないか」

「ええ。そんな時でした」



 長い沈黙。

 お互い何も言わず、天井を仰ぐ。

 雫がぽとり、ぽとりと落ちては湯に溶け込む。



「手に、青い魔法陣を持ってる人を見たのは」


 健介が沈黙を破る。

 確かにこの魔法陣は、サナとの契約の証だ。彼が一体何を後悔しているかまではわからないが、本人の態度からして害意はないし、また恐らくもう見破っている。これ以上の探り合いは無駄か。


「ご明察。手の魔法陣はサナとの契約の証だよ」

「やっぱり! それで、今サナさんは……どうしてるんですか!?」


 種明かしをすると、掴みかかって来そうな剣幕で話し始めた。

 にしても彼、サナが心配だったのか。なら失敗だった。突然話しかけられて警戒したものの、どう見ても悪役を見る目で見られてる。


「落ち着いて。サナは元気だし、俺もアイツに変な事してはいないよ」

「えっ、そうだったんですか。僕はてっきりサナさんが酷い目にあってるもんかと」

「答えられなかったのはそっちが何者か不明だったからなんだ」


 一度話を切り、風呂から出て続ける。

 正行は先に風呂から出てしまったようだし、サナ含め待たせちゃ悪い。早く戻らないと。


「それに、サナの事がどこまで広まってるかわからないせいでここじゃ話せない事もあるしね」

「確かに、サナさんがした事は大き過ぎますもんね。僕こそ配慮が欠けてました」


 言いながら、健介も風呂から出てタオルを取って腰に巻いた。

 こうして風呂から上がって床を踏んでみて改めて思うが、見た目は濡れてるのに滑らないとはなんとも不思議な感覚だ。この魔法陣の効果なのはわかっているのだけれど。


「もう風呂から出るんだけど、そっちも出る? 丁度サナも待ってると思うだけどさ」

「サナさん元気になったんですよね。是非会いたいです!」


 やたらキラキラしてんな。

 よほどサナと冒険したかったんだろう。少し良心が痛むくらいだ。さっさと風呂から出て……。


「おっと忘れてた。俺は野鹿拓真。よろしく!」

「丁度聞こうと思ってた所でした。拓真さんって言うんですね。よろしくです!」


 忘れかけていた挨拶を済ませ、風呂場から出た。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




「ふぃぃー。いい湯だったぜぇ」

「あっ、やっと上がって来たな」


 のれんをくぐると、正行が待ちかねていた。

 今は風呂から上がった後、脱衣所で少し健介と話しながら持ってきたパジャマに着替えてホールに戻ってた。体がまだ火照ってる。


「やっぱり、サナさんの話は……」

「うん。俺も認識を改めなきゃね」


 ちょっと遅れて出てきた健介がそう言った。

 話というのはサナの事がどこまで広まっているかで、彼曰くこの話を知ってるのは親族と、召喚された人間及びその仲間内だけとの事だ。


「なあ拓真、お前ソイツと何話してたんだ?

「健介な。サナの事だよ。アイツがやった事って尋常じゃないだろ? だから警戒しちまって」

「様子見る限りじゃ、答えを焦らしたら誤解されたって所か」


 予測に首を縦に振り、肯定すると「やっぱりか」と零した。たまに勘がいいよな、コイツ。

 にしても噂の本人が見当たらない。俺たちが風呂から出る時には、同じ頃に入った人が目に見えて減っていたから大分長風呂だったはずだが。


「ごめんごめんー! お待たせっ、と」


 と、のれんの向こうから聞き覚えのある声。

 心なしか手の甲の魔法陣から流れる魔力が強くなる感じもするし、多分当人だ。


「ようやく来た……おお」

「ったく、長えんだ……ほお」

「はっ……? えっ?」


 風呂から出てきたサナは印象が変わっていた。

 普段は大体青いワンピースの上に青いローブを着ているのだが、今のサナは薄手の白いワンピースで、少し上品に見える。


「あれ、どしたの。皆」

「おっふ」

「ほお。ほほーう」


 そして色が白いから少しだけ肌が透けているし、髪型がストレートになっていて、洗ったからか少しツヤが増している。要は全体的に綺麗になったし、こう言うのはアレだが……ちょっとエロい。

 くそっ、こんなので胸が高鳴るなんて。眼福なのは事実だけどいかにこういうのに慣れてないかわかるから、なんか悔しい……!


「サナ、さん?」


 と、印象の違うサナに驚いていたが健介だけ雰囲気が違うように見える。

 あり得ないものを見る感じ。否、あってほしいけど違うと自己否定しているような。そんな感情をはらんでいるように見える。


「あ。ケンスケ君じゃない。久しぶりね!」

「この特異な魔力、本物だ」


 元気なサナを一目見ただけなのに、涙声になるとは彼に何があったのだろうか。俺個人としてはそちらのが心配になるが。


「良かった、こんなにもっ、元気にっ……!」

「わっ。急に抱きつかないで。驚いたじゃない」

「すみません。けど、ずっと……。ずっと、あなたの事が気がかりで、忘れられなくて!」

「そっか、そうだよね。ありがとう、ケンスケ君」


 興奮する健介を穏やかな表情で頭を撫で、宥めるサナを見て、尋ねる気が失せた。

 聞くまでもないじゃないか、たった今目の前で解決されたのだから。今はやっと願い叶った彼の邪魔をしないのがいいだろう。


「でも、ずっとこうしてるわけにも行かないや。拓真さん、お見苦しい所を見せてしまいました」

「気にしてないよ。サナが元気になったのを泣く程喜んでくれてるわけだし、むしろ嬉しいぐらいだ」


 そう笑って見せたら、満面の笑みで「ありがとうございます!」と返してくれた。

 こうもいい笑顔だと、こちらまで嬉しくなってくるな。



「あのさ……。感動の再会っぽい所悪いんだが」



 なんていい話で終わろうとしたその時、俺の隣で小さめの棚に腰を下ろした正行が手を挙げている。何を聞く気だろうか。


「どうしました? えっと……」

「神谷正行だ。健介だったよな。一つ聞きたい事が浮かんだんだが、いいか?」

「良いですよ。答えられる事なら答えます」


 無粋なのを理解してるのか「わりいな」なんて言ってから、少し考えてから口を開いた。


「一番に召喚されたんなら、何か特別な事あるんじゃねえかなってふと思ってよ。どうなんだ?」


 突然だな! しかもいま聞く事でもない!

 まあ言われてみれば確かに、てなるけども!


「そうですね。正行さんの仰る通り、確かに僕はちょっとだけ特別です」

「やっぱりか。拓真から聞いた話だと、何か能力持ってたりするらしいが、それか?」

「はい。僕は……というか僕を含めて、ですね」


 そして全部的中するのかいな!

 なんて突っ込みはいいや。聞いておきたい話題が出てきたぞ。以前サナが持っている人の一部が魔王に乗っ取られたという【能力】の話だ。


「健介君、それ詳しく聞きたい」

「そうなりますよね。先ず僕の能力について、でいいですか?」


 真剣な顔つきになった健介の問いに頷き、肯定。

 一番最初。サナが真っ先に与えた能力。

 とても、気になる。


「僕の能力は【ステータス閲覧】。サナさんが与えた能力の中でも、最高レベルの能力です」

「ステータス閲覧……!」


 名前だけでもう強いとわかる。

 しかし同時に、これ以上込み入った話を銭湯のホールなんていう公衆の面前で話すわけにも行かないのもわかった。

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