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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
一章 鮮やかなる国 ブライト
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第一章 第十話 正行のクラス

「んお……」

「ああ、起きたか」


 目を擦り、怠そうに体を起こしていく。

 正行が寝ている間に、サナと他愛ない話をして時間を潰していたが、正行の書類をある程度読み進めておいた。


「なんぞこの書類は……書けと」

「ああ。そこにあるのはギルドに所属する為の書類と、各クラスのメリットが書かれたリストだな」

「待て待て……ちょっとわかんないぞ」


 眉をひそめ、無理解を示してくる正行。

 名前を聞けばオタク特有の超速理解をするかと思ったが、そうでもないようだ。

 しかし、オタクでもある以前にゲーマーだからな。合わせれば理解してくれるはず。


「クラスはほら、神殿でやりそうな奴だよ。決まったらあの赤髪の人に言うんだ」

「ああ、あれなのか! 名前を聞いてまさかとは思ってたが……本当だとは」


 やっぱりか。

 名前を聞いてもしかして、と思ったがあり得ないはずだと自分で答えを出していたようだ。

 そこは俺も同じだったからとてもわかる。だったらその可能性を事実だと肯定してやればすぐ納得できる、というものだ。


「実際にクラスは変更したから信じて大丈夫だ」

「ほお。そいつは大丈夫だな」


 本当はクラスを変更する時に気絶させられるから少々騙すことになるが……。

 下手に俺が話すよりも、インテンスさんに詳しく話してもらった方がいいから今は黙っておこう。


「つーわけで、クラスを何にするか決めようぜ!」

「おお、よりどりみどりだなあ……!」


 渡されたクラスのリストをテーブルに広げると、それをキラキラした目で正行は見始めた。

 さて何がいいだろうか。正行の能力的には肉体派のクラスが適正だが、心配な所もあるから慎重に決めないと。

 

「ずっと憧れてきた世界だ。デメリットなんて言ってらんないよな」


 本人に聞こえないよう、ぽそり呟く。

 こんな環境下でやりたい事をやれないのはあまりに勿体ないから、欲望のまま動いて欲しいのだ。


「そーだなあ……この中だと俺は戦士クラスに適性があるだろ?」

「そりゃまあ、ピッタリだと思うよ」


 一通り目を通した正行は悩む事なく言った。

 戦士のクラスは言う通りで、体力、筋力、素早さ……ありとあらゆる肉体面の強化が行われる、前線クラスの中の前線クラスだ。

 なってくれるならば、とても助かる。


「決まりだな。俺は戦士としてやってくぜ」

「マジか……いいのか?」

「腑に落ちねえ顔してんな」


 当然だ。

 この世界や魔法そのものに憧れや、その他いろんな理由で魔法使いを選ぶものだと思っていた。

 実際、そんな懸念もあって魔法使いを選んだら俺は止めないつもりだったんだがなあ。


「適材適所、当然のことだろ?」

「んむむ。まあ返す言葉はないよ」


 正論に頷くしかない。

 本人が希望している上、適性のある事をしてくれるならこれ以上なく都合がいい。

 ただ、いくら都合が良くてもこっちに合わせてくれてるみたいで何となく気が引けてしまうのが本音だ。わざわざ蒸し返しはしないが。


「うし、先ず何をすればいい?」

「先ずはあそこの赤髪の人にクラス決まったのを報告して、それから書類をだな……」

「書類は私がある程度書いといたよ」

「おおっ!? いつの間に!」


 珍しく有能なサナに驚き。

 名前や見る限りで回答してもいい質問の部分が埋まっており、大分進んでいる。これなら書類を書くのが苦手な正行でも根を上げずに済みそうだ。


「はっ? それほんとです!?」


 なんてトラブルが起こらずに済みそうと安心した矢先、カウンターへ行った正行の取り乱した声が聞こえてきた。


「そ、そんな。俺そういうのは。体力には自信ありますが、ちょっと……!」


 あー、あー……

 カウンターを見ると困り果てた様子の正行と、棒読みで励ますインテンスさん。何かあったぞこれ。

 まあ事情に関しては、今聞いても山のような愚痴が出そうな当人より無愛想な人に聞いておこう。


「何かあったんですか?」

「クラス変更についてです。実はタクマ様は特例なのですが、ご友人はそうは行かず……」

「僕が特例なのですか。彼と何か違う点が?」


 問いに対し、彼女は相槌を打って続けた。


「結論から申し上げますと、ご友人がクラスを変更する場合は魔物と戦闘していただきます」

「あっ、あぁー……。なるほどです」


 冒険者になるのにあたり、適性を確かめる為に魔物と戦う。

 魔物と渡り合えれば冒険者に、できなきゃなれない。なんてわかりやすい結論だろうか。


「いずれ戦うってのは覚悟してたけどさ! どーして俺は初っ端から戦わなきゃなんねえんだ! どーしてだあぁぁぁ!」


 俺が特例なのを知らなかったとはいえ、戦闘に慣れてないはずの正行には悪い事をしたなあ……

 悲痛な叫びをあげ、こちらを色んな方向に揺さぶってくる正行を見てそう思った。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




「ここは農業が盛んな区域なのですよ」

「ほほお。やけに緑豊かと思ったら」

「でしょう? ちょっと肥料の臭いがキツイのが玉に瑕ですが……この国の自慢なんですよっ!」


 試験を行う道中、緩やかな坂道で両手に田畑の広がるのどかな場所へやってきた。

 そんな中で、腕を腰の後ろに回し、愛らしく笑みを浮かべる少女に見紛う少年がいる。インテンスさんの兄、リュート・レッズさんだ。


「性別が迷子だよ、うん」


 一応職員なので、さん付けするが見た目は完全に男の娘にしてショタだ。例のバーサーカー受付といい、段々あのギルドおかしい気がしてきた。


「どうしました? 僕の顔をじっと見つめて」

「いえいえ何でもありませんよー」


 これで男なんだもんなあ……

 短くともさらさらした赤髪、細い腕、肉つきのいい脚。つぶらな赤い瞳、艶やかな唇。

 なんなら、無愛想で他人行儀な妹よりも人懐っこくて可愛い。男性用らしく、制服で下の服がズボンなのがせめてもの男性要素か。


「ふおおぉぉ……! 男の娘だ……まさか現実で観測できるとは。ふへっ、ふへへへ……!」


 これから試験だってのにブヒってるコイツとか。

 流石オタクにして萌え豚、思考が違う。

 まあ今コイツは借り物の全身皮の防具に包んでて、武器も持ってると戦闘準備万全。そんな人間がこの体たらくなのは少し不気味にすら感じる。


「よーし頑張らなくっちゃな! 終わったらリュートきゅんが頭撫でさせてくれるし!」

「待って! 僕そんな事言いましたっけ!?」


 突飛な発言にリュートさんがドン引く。そういう所だぞお前。

 勿論、彼はそんなこと言ってない。無意識にあざとい感じでクラスを変えるか否か、決めかねていた正行を励ましただけであって何かご褒美をやるとは言っていない。


「あははははっ。すいませんねー、リュートさん。ウチの馬鹿が出過ぎた真似を」

「ああっ! お前、言いやがったな!」

「うっせえ、ブヒるのは二次元だけにして自重しやがれっ。変人と思われても知らんぞ!」

「お前の方こそ何言ってんだ! こんな美少年だぞ!? ブヒらない方が豚の恥だろ!」


 豚の時点で恥なんだよなあ! というツッコミを呑み下し、俺らの意味不明なやり取りに困っていそうな当人に視線を向けると。


「はあぁ……困った人達だなあ。どうしようか」


 予想通りだった。

 もういいや、一度こうなると気が済むまで止まらないのはよく知ってるから放置安定だ。今までもそうしてきたように、今回もそうしよう。


「すいません、コイツの戯言は無視で……」

「おや、いいんですか?」

「何なら試験の話で目を覚まさせてやって下さい」

「確かに。その手がありましたね!」


 リュートさんは「いい案です」と手を打ち、雰囲気を引き締めるためか一つ咳払いをし、応援団よろしく腕を後ろで組んで続けた。


「えー。これより、試験の内容について説明致します。よろしいでしょうかっ!」

「あっ、はいッ!」


 耳に響く程の大音声に脊髄反射的に気をつけをし、同じようなボリュームの声で返事をした正行。職場か何かでこういう時は大きな声で返すよう躾けられていたのだろうか。


「この試験では、支給された装備品で街の外に生息するイッカクシープという魔物を単独で討伐するのが目標です」

「イッカクシープ……?」

「決して凶暴ではありませんよ。私も試験官として危険だと判断した場合は救出いたします。しかし、その場合は失格となります」


 先刻までの愛らしさは霧散し、つらつらと無感情に試験内容を述べていく。

 討伐対象であるイッカクシープは名前からして一本角の羊だろうか。なるほど、確かに凶暴そうには思えない。


「試験内容は以上となります。ご質問は?」

「大丈夫です」

「タクマ様も何かございましたらどうぞ」

「僕も大丈夫です」

「では、試験場所へ向かいます。門の外となりますので門番と話している間、暫しお待ちください」


 そう言って、リュートさんは坂道を自動車みたいな速度で走っていった。

 現在地は坂の中腹で、遠目に大きな石造りの壁と木製で城で見た扉より大きな門が見える。結構遠いように思えるが大丈夫か?


「戻ってきましたっ!」

「あっ、お帰りなさいです」


 かと思ったら、あっという間に戻ってきた。

 よく見ると、ふとももの辺りが淡く白い光を放っている。魔法で強化したんだろう。


「では、早急に向かいましょうか。ご友人が門前でお待ちかねですよ」

「正行ならここに……あっ」


 言われて気づく。

 そういえばサナの姿が見当たらない。キリがないと見兼ねて先に行っているようだ。


「あのせっかちめ……」

「門の前でまだかな、まだかなときょろきょろしてましたよ。もうすぐとお告げしておきました」

「子供かアイツは。早く行かなきゃ……」


 そんなせっかち召喚士を迎えに行く為、リュートさんに足が速くなる魔法を付与してもらい、走って坂を下っていく。


「あっ、おーいタクマぁー!」


 坂を下りきった先の詰所か何かのように見受けられる場所にサナが立っている。

 嬉しそうに手を振ってくるが、慣れない坂道ダッシュのせいで動悸が辛い。


「ぜっ、ぜっ……ごめん、それ、どこじゃ……」

「んー? どうしたのタクマ」

「おまえ、ぜっ、タフ、なのな……」

「そうかなあ?」


 召喚士のクラスは魔法使いの派生だよな……

 何でこの坂を下りきって平気なんだろ。


「タクマ様。辛いのでしたら僕らだけで試験をしてくるので、ここでお休みします?」


 提案に首を横に振る。

 どんな試験を本来するのか知っておきたいし、魔物の実物をこの目で確かめたい。


「わかりました。門番の方、開門をお願いします」

「はっ。この先は魔物の生息域。刺激しなければ襲ってきませんがくれぐれもお気をつけて」


 鉄鎧に身を固めた門番はそう注意喚起し、近くにある扉を開け部屋へと姿を消した。

 すると間も無く門が一人でに開かれ、外から心地よい風が吹き込んできた。


「そういえば俺達って外に出んの初めてだっけか」


 門の外のひたすらに広がる草原と、青い空、長く舗装されていない土の道。無数の樹木。そして討伐対象の一本角の羊や、見覚えはあっても何処かがおかしい生き物の群れ。

 そんな何処かで見たようで、見た事の無い光景を見て正行がそう零す。


「そのはずだよ」

「そうか。こうして見ると……」

「美しい、でしょうか」


 雄大で見慣れない自然に魅了さられていた俺たちの掛け合いにリュートさんが交じってきた。

 俺と正行は、互いに目を合わせ笑って誤魔化す。


「図星です?」

「その通りですね。こういう自然を見る機会自体、僕には少なかったもので」

「それはそれは。では、どうかお気をつけを」



 どうして?

 そう口にしようとしたが。

 声にならなかった。



〈ンメ?〉


 門の外。

 穏やかな草の匂いの中に、血生臭さが鼻をつく。

 臭いの元に目を向ければ毛は禿げ、禿げた皮膚からは歩く度に血が落ちて草っ原を汚していく。



〈ンメエェ……〉



「なんだよ。お前……」



 そんな、異常な姿の羊が一匹、こちらを血走った目で凝視していたからだ。

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